「星在る山」#14 仙人ミヤマクワガタ様
(1013字)
こんばんは。ベストフレンドというお笑いグループでボケをしているけーしゅーです。
今回も秩父版、そして2018年版、リアルスタンドバイミーの第14話を書いていきます。
気になる方は、ぜひ1話からどうぞ。
*14
「おい!一旦ちょっと上見てみ!」
「えっ!ヤバイヤバイヤバイ!」
「一旦さ、全部のライト消してみない?」
筋トレ男が、命拾い後とは思えないゲボのような提案をした。
「良いよ」
「おけ」
''良いよ''、''おけ''なことがあるか。そんなことしたら、五感が研ぎ澄まされてしまうではないか。
車が来たら轢かれるではないか。
動物が気づかずに近づいてくるかもしれないではないか。こいつらは、一体アホなのだろうか。
「うわ、ヤバいな」
「え、おれ、こんな星見たことないわ!」
「あれ、ミルキーウェイだよな?」
「ちょっとこれは、もっと進もう!
もっと綺麗なところで、次の休憩でゆっくり
見ようぜ。それまで、上見るの禁止ね」
「あーなるほど、一気にみんなで上見るのね」
「わかった」
「てか、これ月が沈んだらもっと綺麗に見えるよ
な」
「確かに、月が明るすぎるね」
鹿と出逢ってから、少しだけ男達の会話が復活した。そして、その場所から見える星よりも、もっと綺麗な星を見るために、さらに足を前に運ぼうとした時、ぼくらの少しだけ奥の方の地面に''何か''がいることに気がついた。
「おいちょっとストップ!見てミヤマクワガタ!
ミヤマだわ!ミヤマ!」
「えーー、かっこいいねぇー」
「これマジで立派だなぁ。このサイズはマジで
なかなかいないよ!これ、ミヤマって手で持っ
ちゃダメなのよ。毛で体温調節してるから、
手で持つと火傷しちゃうのよ」
「へーーー」
「これは、カッコいい。写真撮ろ」
男達は皆その瞬間、少年に戻された。
だって、あの''ミヤマクワガタ''のオスが、ポツンと路上にいるのだから。
東京で生まれ育ったぼくらには、野生のミヤマクワガタなど、そして、このような図鑑でしか見られないサイズのものとなると、到底出逢うことができない代物だった。
さらに、この時間この場所に、どこから来たのか、たった1匹でいるということも重なって、その佇まいと風格から、まるでこの山の''仙人''にも思えた。
もしも、ぼくらが熊に襲われて命を落としていたら、その最後の立ち会い人は、この''ミヤマ様''であったということになる。
それは元来昆虫好きの、そしてクワガタ好きのぼくからすれば、些か光栄なことだ。
ぼく達はこの山の仙人に頭を下げ、さらなる星だけを追い求め、前に進んでいった。
(つづく)
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