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「星在る山」#11 恋バナはカンフル剤

(1205字)
こんばんは。ベストフレンドというお笑いグループでボケをしているけーしゅーです。
今日から、秩父版リアルスタンドバイミーの後編(登山編)がスタートします。こっからは、危険ですよー。それでは、ぜひどうぞ。


*11


オレンジと白と紫のちょうど間みたいな、光と呼ぶには頼りない朧げな灯りの下で、食パンと水を補給してから歩き出した。
虫を殺すための灯りは、嫌な色をしている。
少し歩くと、その灯りも全て無くなり、目の前は暗闇だけになった。5人は持ってきた全ての懐中電灯をそれぞれバッグから取り出し、全員で前を照らしながら進んだ。
傾斜は緩いが、アスファルトの山道はかなり足にきた。にも関わらず、ふと筋トレ男の足元を見ると、男はサンダルで歩いていた。アホだ。
山側の道の脇に、''熊出没注意''の看板が立て続けに幾つも現れた。
場所、時間、空間の全てが相まって、その看板の説得力の高さは異常だった。
最初の一枚を見た時は、全神経全細胞が''危険''と
訴えかけてきたが、何枚も見るうちに、
''でしょうね''としか思わなくなってきた。
逆に、''こんな所、熊しか出ないでしょ''と開き直ることで、恐怖を緩和するしか足を前に進める術がなかったのだ。

「お前さ、まだあの子好きなの?」
「あー、好きだね」
「その子のことさ、色んな好きな所があると
 思うけど、1番って言ったらどんな所が好き
 なの?」

さっきからずっと聞こえてくる得体の知れない
動物らしき何かの鳴き声に、少しでも気を向けてしまうと、情けない声を上げて途端に引き返したくなってしまうので、ぼくはギャランドゥー男に慣れない恋バナを振り、恐怖を誤魔化しながら
前に進んだ。

「長崎の修学旅行の時さ、確かめっちゃ雪降って
 寒かったじゃん」
「うん、やばかったな超寒かった」
「その時、釣りしたの覚えてる?」
「釣りしたね!全く釣れなかったやつでしょ
 おれ1匹も釣れなかった。それがどうした?」
「そうそう。みんな寒すぎて、バスの中戻ったり
 焚き火に温まりに行ったりしてたのに、
 あの子は諦めずにずっと釣ってたんだよね。
 それで、本当に何匹か釣ってたのを見て、
 その時に、この人は凄いなって。
 この人に負けたくないなって。」
「へーーー!確かにあの子めっちゃ釣ってた!
 だけど、何?それが恋の始まり?」
「うん。その時から意識したかな」
「負けたくないから恋になるってどうゆうことだ
 よ。いや、確かに素敵だけど。それで女子を
 好きになるっていうのがおれにはないからさ、
 お前やっぱおもろいな」
「えー、そうかな」

やはり、この男は性格が普通じゃない。
恋バナは恐怖を紛らすための薬のつもりだったが、普段学校では絶対話さないようなことが話せて面白かった。
例え、今目の前に熊が出ようと、幽霊が出ようと、ぼくは恋バナをやめない。やめてくれるか。
ぼくは、立て続けに「それで、それで?」と本物の女子のようにキャッキャと恋バナを楽しんで前に進んでいった。
しかし、恋バナカンフル剤は長くは効かなかった。神には見苦しかったのか、男同士の楽しい恋バナは、想定していなかった''恐怖''によって、すぐにピシャリと打ち切られた。
(つづく)

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