Ep.4 3頭身キャラとしての配達員

 心温まる話がなければならない。この勝手連載で少しでも心温まるような話があるとすれば、「Ep.1 友達ん家なんです」の一部分くらいしかなく、他のエピソードはほぼギグワーカーの愚痴泣きベソ便所マターだ。たまには読む方にもなってくれってもんだ。ってことで、今日は少しだけ心温まる話だ。 
 最近では糸井重里氏のツイートでも明らかになったように、まぁ、デリバリーの配達員というのは一般的には心象が悪い。一般的には、と書いたものの、じゃあ具体的に誰から?と問われればうまく答えられない。けれども、糸井重里氏を含む一部の人々からは大変嫌われていることは私も存じている。糸井重里とほぼ同年代のウチの父親も「あいつらなんか汚いんだよ」とか平気で言う。その「あいつら」に手前のセガレが含まれてんのかどうかは知らんが。
 そうは言っても、皆が皆そうじゃない。特に、小さい子どもは。
 桜が散ったくらいの時期だっただろうか、片側2車線の比較的広い交差点で長い信号待ちをしていた。社会的距離からはやや遠い、3メートルくらい離れて、母親とその幼い娘が同じ赤信号を待っていた。位置的には親子の方が私の斜め後ろで立っている。すると、舌足らずな幼い女の子の声で「ママ! あれ、なんだっけ!? ママ!」と後ろから聞こえてくる。私はすぐに察した。「あれ」とは私の背中にくっついているやたらと大きい黒のバッグであると。ちらりと斜め後ろを見やれば案の定、娘の人差し指は私の方に伸びている。興味津々に「ママ! あれなに?」と繰り返す娘。大通りの信号待ちは長い。……っていうか、答えてやれよママ! 仕方なく私は振り返り、3メートルの距離を詰め、「お嬢ちゃん、これはね……」と言いたかったのだが、配達中の私には信号との駆け引きもあるし、そして何よりも答えない母親に引っかかってしまって、最終的に無言で青に変わった信号を渡った。
 母親が娘に答えなかったのは、明らかに私に遠慮をしていたからだった。でもこれ、何の遠慮なんだろう? 失礼だと思われると考えたのだろうけれど、その自粛がわからない。この母の遠慮については考察の余地があるけれど、ここでは置いておく。
 娘の方が興味を持った理由について、私はひとつ仮説を持っている。たぶん、子どもたちにとっては、馬鹿でかいバッグを持ったその姿、というのがなんとなくキャラっぽく見えているのではないだろうか。名探偵コナンはだいたい3頭身、クレヨンしんちゃんは2・5頭身、ドラえもんが約2頭身、炭治郎はアニメだと4・5頭身くらいあるが、グッズとしてデフォルメされるとだいたい2〜3頭身の間に落ち着く。そして、デリバリーの馬鹿でかいバッグを頭として見立てた場合、ちょうどそれを背負う人の姿は2〜3頭身のキャラっぽく見える。むろんここでは顔は不問である。この頭身即キャラ説にのっとれば、ドライバーたちは幼い子どもにとって、遊園地の気ぐるみマスコットのようなものなのだ。
 だから今日、公園で休憩していたときにも、3歳にもなっていないような女の子ふたりが私に近づいて来て陽気に言い放ったセリフが、「うーばあ の おにーさんだあ!」だったのである。私はただその場で声を出して笑うしかなかった。さすがに、「ミッキーだよ♪」のテンションで「うーばあのおにーさんだよ♪」とは言えないからである。

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