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【ハマ本】いつの空にも星が出ていた
ベイスターズファンを題材にした小説というのは知っていたが読んでいなかった。文庫化されたので図書館から借りようと思っていたが予約数が微妙に多い。
そこへベイスターズが日本一になって講談社文庫アカウントもおすすめしてきていて、結局単行本を図書館から借りて読んだ。読んでみて、これは手元にあってもいいなという本。文庫のサイン本が欲しい。
冒頭の掌編は神宮球場だし、中編3本目は川崎の小学生が福岡に行く話なので、全編横浜が舞台というわけではないが、横浜ベイスターズ本略してハマ本と言っていいだろう。
冒頭だけ掌編であとは中編が3編からなる。この手の連作は登場人物が微妙に絡んだりすることが多いがそれはなさそう。よく前編の登場人物らしき人のその後が描かれてつながったりする。それとも私設応援団とかで実は共通の人物がいるのだろうか。
また最初に掌編が配されていてプロローグ的なので、その後中編が3編で終わる構成だと、エピローグ的な掌編が何かあったほうが落ち着きがいい気もする。それこそそれまでの登場人物がお互いクロスするような。
と書いたところで、それならいっそそれぞれの中編の脇役を主人公に据えて日本一になった2024年を舞台にした中編を3編ないし4編書いてくれれば1冊になるのでは、と勝手な案を思いついた。女子高生の叔母とか、ジブリ好きの電気屋の姪とか下関の小学生の祖父とかの視点で。なんならあとがきに名前の出てくる吉野万理子との競作でも。初出は全て小説現代なので、小説現代編集部さん、どうでしょう。
掌編の「レフトスタンド」は1984年の神宮球場。男子高校生が教師を懐かしむ話。これがきっかけで編集者から連作を書かないか声を掛けられたらしい。ますます2024年版を書いてほしいぞ。
最初の中編の「パレード」は1997年、受験生の女子高生視点。彼氏と横スタ通いにのめり込む。章が変わって翌年度からいきなり視点人物が変わったのかと思った。伏線どころか匂わしもなかったが、まあそれだけ本人にも意外な展開だったのだろう。いや、でも父親の勤め先くらいは出てきててもよかったな。決定打は叔母なんだし。この展開は職場の場所も大きいだろうが、あとがきで謝意を述べている優勝パレードの時のオープンバスについての取材を活かしたいがゆえなのかもしれない。今週末にまた日本一のパレードをやるが、また準備してあるのだろうか。
次の「ストラックアウト」はある意味バディものと言える。特に後半。2010年の街の電気屋の2代目視点。死ぬか生きるかで走馬灯も見ているが内容はコメディ寄り。低迷期ゆえに遠ざかっていたスタジアムに通うようになる。最後にさらりと2016年まで書いているが、そういえば最初の掌編のラストには30年近くと書いてあった。
最後の「ダブルヘッダー」は2017年の川崎の小学生視点。「ドリーム」と「レギュラー」の2部構成なのがダブルヘッダーに掛けてある。川崎といえば大洋ホエールズ時代のホームで、やはり古参ファンが登場。さらに会ったことのない祖父がマルハ繋がりの下関にいる展開。CSを勝ち抜いたベイスターズがホークスとヤフオクドームで対戦する。けっこう濃厚な家族の物語だが小学生視点を貫いているので、使っている語彙も平易。少年野球の試合もあるのでなかなかハマスタには行けないが幼い頃に番長ファンの父親に連れて行って貰ったのがベイファンの原点。
昔の試合内容や選手が出てくるので史実を描くという意味では歴史小説とも言える。古参のファンの語りで球団の歴史的な面も語られる。昔を活躍した選手で時代が分かる読者もいるだろう。
それにしてもこのタイトルだけだとベイスターズが強く絡んでいること自体分からない。いや星がベイスターズの星ではあるのだろうが。なのでベイファンに届いていないかもしれないのが惜しい。客席に青が多めで街の中にあるスタジアムという装画はハマスタそのものではあるが。