11. つまり、どういうことなの?
では、ここまでの話をすべてまとめてみましょう。
1.映画『僕が跳びはねる理由』のアメリカ編で、エマさんとベンさんが使っているのは、エリザベス・フォスラー氏が教える「S2C」という名前のFCである。
2.エマさんとベンさんのFCは、ファシリテーター(介助者)が文字盤を持つスタイルであり、文字盤をかすかに動かしたり、間違った文字をスルーしたり、空いている手で「キュー(手がかり)」を出すことができる。
3.かつて、この「キュー」により、人語を解すと評判になったのがクレバー・ハンスと呼ばれた馬である。ちなみに、ハンスのようにかすかなキューに反応して正解を選べてしまう現象を「クレバー・ハンス効果」と呼ぶ。
4.このような「キュー」は本当にわずかでさり気ないものであり、また、クレバー・ハンスの事例のように無意識に出されていると思われる。こういった「トリック」に前知識なしで気付けるのは、手品師であるハリー・フーディーニのような人くらいかもしれない。
5.つまり、エマさんとベンさんのFCは、偽りの内容である可能性がある。
……お分かりいただけたでしょうか。このように複雑なことが映画の中では起こっていたのです。前知識なしにこれを見て、何かおかしいぞと気付ける人がどれだけいたでしょうか?
おそらく、撮っている人たちさえ何も気付いていなかったのではないかと私は思います。強いて言うならばエマさんの必死の「ノーモア!」だけが、わずかな不自然さを撮影者や鑑賞者に伝えたかもしれません。(どうもあの場面だけ「浮いて」感じました)
私は映画『僕が跳びはねる理由』の感想の中で、文字盤のことに言及しているものを山ほど見ました。「文字盤を使えば普通に話せるんだ、凄い! 知らなかった!」 単に映画を見た人がそう思うのも仕方はないでしょう。でも、自閉スペクトラム症という障害を身近に知っている人には、少しの違和感があったのではないかと思います。
……続きはまた。