67光年の孤独【時候コラム】#1
20日深夜、JAXAの小型月着陸実証機SLIMが、月面の狙った位置への着陸に成功しました。ただし、太陽光パネルによる給電ができておらず、バッテリーのみの駆動で、数日以内に通信が取れなくなるようです。
また、現在最も地球から離れた人工物である、惑星探査機ボイジャー1号は、去年の11月頃からシステムの不調を起こし、電波は届いているのですがまともな通信が取れなくなっています。
ちょうど11年前の2003年の1月21日には、当時最も地球から離れた人工物であったパイオニア10号との通信が途絶しました。
パイオニア10号は、地球から見るとボイジャー1号とほぼ反対方向に飛んでいて、約170万年後には約67光年離れたアルデバランに最接近すると予測されています。
しかし、1972年のパイオニア10号が打ち上げから、通信が取れていた31年程度に対して、170万年とはあまりにもあまりにも長い行程です。同じ比率で言うと、80年生きる人が、生まれて最初の13時間だけ人と過ごし、残りの80年を完全な孤独で過ごすようなものです。想像を絶するほどの孤独に、我々はパイオニア10号を放り出したのです。
ボイジャー1号も同じように、途方もない孤独の淵に玉の緒が絶えそうになっています(電波には問題なくシステムの不調なので復活するかもしれませんが)。
SLIMも通信が途絶えてしまえば、当分は月面の孤独に置いてけぼりになるでしょう。次に回収できる時はというと、数十年もすれば、人類は月面に基地を建て、開発を進めていくでしょう。アポロ計画の着陸機や、月周回衛星かぐやの墜落残骸、そして今回のSLIMなど、それまでの月への挑戦の足跡はいずれ、歴史的遺構として丁重に扱われることでしょう。しかしそれまでの数十年間は、真空中でほぼ形を残したまま(昼夜の熱伸縮の繰り返しである程度風化はすると考えられますが)、毎晩見上げれば居場所がわかるのに通信が取れないどうしようもない孤独の中を過ごすことでしょう。
今日21日の夜は、アルデバランと月が南の空に接近して見えます。その近くを今も飛んでいるパイオニア10号や月面のSLIMに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
※注記
前職で書いていたコラムみたいなのも書いてほしいというファンがまだいるようなのでこういうのも書いてみます。
自分の中ではサイエンスポエム(SP)と呼んでいて、
・全体にわたって、科学的厳密性を損ねないこと
・一部分でも、詩的な表現を入れること
を意識しています。
私は、理系を志した理由としては超レアケースだと思いますが、佐治晴夫さんの著作にかなり影響を受けています。
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