多行俳句/前衛俳句の俳人、高柳重信の世界!
☑なんといっても、高柳重信は多行俳句の創始者です!
句意は「海へといたる河口の水は、河であるみずからを失い全てを愛し受けいれる色をたたえている」というところでしょう。「くるしくて/みな愛す」の切なさが素敵です! 句集『罪囚植民地』より(引用は『高柳重信全句集』(沖積社)p198)。1行書きがノーマルな俳句を多行に作ることで、西洋の短詩のような華やかさと、やはり俳句的としか言う他ない不思議な印象をかもしています。この句でも、西洋的な叙情の厚みと同時に、俳句の写真的な瞬間を捉えたおもむきがあるでしょう!
☑そして重信俳句の魅力は、一句がはらむ豊かな物語性です!
句意は「琴を抱いて名も知れぬ神が漂着した」でそのまんま。誰も知らないひとつの神話がつむがれはじめた、そんな心地よさを感じる一句です。句集『罪囚植民地』より(引用は『高柳重信全句集』(沖積社)p282)。日本神話を材にとった句の1つです。「無名の神」って、ものすごい語り口です。この続きが気になります!
句意は「ひとつの愛の果てに、その獣のたてがみを刈り続けている」。愛の変質がやるせなく、たてがみ以外一切がナゾの(多分超大型の)獣の姿に想像がかきたてられます。この句の重信が大好きです! 句集『蒙塵』より(引用は『高柳重信全句集』(沖積社)p228)。「晩年」という言葉に注目。改行の時間の移動と合わせて、長い年月を経た狂気の物語として印象されます(この俳句からうかがえるかもしれませんが、結構高柳重信はゴスな作風です、私の10代の最後は俳句のゴスでいろどられていたと思います!(?))。ちなみに、この「たてがみ」を持った動物の私のイメージは、漫画『HUNTER×HUNTER』の番犬のミケです!
☑前衛俳句的実験は、多行だけにとどまりません!
句意は「一睡の夢を見たのだ、あの伊勢での凧揚げを」というところ。作者が少年時代に愛し、すでに失われた軍艦の名を詠んだ連作の1つで、その「伊勢」の名が句の中で不思議な哀調を帯びています! 句集『日本海軍』より(引用は『高柳重信全句集』(沖積社)p354)。これはざっくり言うと自前の季語を作り上げた実験と評することができるでしょう。重信自身が過去に愛した軍艦名を句に読み込むことで、複雑な意味の幅を一句にもたらしています。ところで、軍艦と創作で連想するのは『艦これ』ですが、重信の俳句の軍艦のイメージはおおむね男性的です!
☑もっと言うと、1行俳句(普通の俳句)も絶品です!
この句に私はダークヒーローものの長編を一句に凝縮した魅力を感じます。漫画だと『デビルマン』とか『東京喰種』のような。句集『山川蝉夫句集』より(引用は『高柳重信全句集』(沖積社)p435)。「片腕の鬼」というイメージが鮮烈。過去の説話を想起させつつ、現代のダークヒーローの魅力をついていると思います!
句意はいろいろ想像できそうですが、私は「人が感情という不思議なものと生きている」という感覚を詠んだ俳句として愛しています。「泣きじゃくる不思議なもの」の図化の想像も楽しいかもしれません! 句集『山川蝉夫句集』より(引用は『高柳重信全句集』(沖積社)p427)。
☑最後に、前衛俳人の俳句愛にじんときます!
句意は「目覚めがちな私が、本気で忠義を尽くすものは俳句である」。この心のこもった愛情表現に触れると、私自身の「尽忠」も同じようにつぶやきたくなります。句集『山海集』より(引用は『高柳重信全句集』(沖積社)p292)。高柳重信は俳句界において抜群に「私」を表現した俳人だと言えます。時に含羞をにじませ、時にストレートに俳句への愛を語る。この私性を読むことが重信俳句を読む魅力でしょう! 以上が、尊敬するみなさまへ、私が大好きな俳人の紹介です!