《大学入学共通テスト倫理》のためのL・S・ホリングワース
大学入学共通テストの倫理科目のために歴史的偉人・宗教家・学者などを一人ずつ簡単にまとめています。レタ・シュテッター・ホリングワース(1886~1939)。キーワード:「心理的離乳」主著『青年の心理学』『ギフテッドその特質と養育』
📝倫理のホリングワースは何といっても「心理的離乳」です!
心理的離乳とは青年の心に生じる「家族の監督から離れ, 一人の独立した人間になろうとする衝動」です。青年は主に両親の価値観に基づいた躾を通して培ってきた児童期までの古い習慣を捨て去り, 自らの意思で選択した新しい習慣を獲得しようとします。(『よくわかる 青年心理学 第2版』(白井利明編、ミネルヴァ書房)p76から引用)
これが「心理的離乳」のとても分かりやすい定義です。青年期に親の保護や監督から離れて自立しようとする心があること。この概念を提唱して「心理的離乳」と名づけたのがアメリカの心理学者ホリングワースです!
📝早速「心理的離乳」をホリングワース自身の言葉でみましょう!
Primitive man recognized, as the modern psychologist recognizes, that there is an urge which develops in every normal human being in the years between twelve and twenty, to get away from family supervision and to become an independent person. We may call this process psychological weaning.(The psychology of the adolescent. D. Appleyon-Century Company, p36から引用、「psychological weaning」の斜字を略した)
「標準的な人間が12歳から20歳の間に発達する衝動があるということを、原始的な人も、現代の心理学者も同様に認識していた。その衝動とは、家族の監督から逃れ、独立した人格になるというものである。われわれはこの過程を『心理的離乳』と呼ぶ。」が拙訳。「心理的離乳」が昔から人間の成長過程にあるものだとしています!
By getting from the family is not meant the mere circumstance of leaving the parental roof, although in most cases that is automatically involved.(The psychology of the adolescent. D. Appleyon-Century Company, p37から引用)
「家族を離れるということは、親の家の元から去るというただの状況だけを意味するのではないが、ほとんどの場合でそれは自動的に伴われる。」が拙訳。こんな風に、「心理的離乳」の現実の条件と内面の条件の両方を吟味していきます!
Adolescence requires that childhood be given up, and the adolescent has to learn the art of relinquishment as he goes alone.(The psychology of the adolescent. D. Appleyon-Century Company, p38から引用)
「青年期は子ども時代を捨ててしまうことを要求し、そこで青年は独り立ちするための『捨てる技術』を身につけなければならない。」が拙訳。絶対と教えられたこれまでのルールや慣習の困難な客観視を通じて、人が青年期に自分を取捨選択して自分をつかみとる努力をすること。この真摯な努力のありようを彼女は「心理的離乳」と呼んだでしょう!
以上がホリングワースの青年期です!
臨床家は「心理的離乳」の過程で家族に対する遺恨を残すと逆に自立しにくいと説いたり、またセンター倫理は現代で成人になって親元を離れないものに対し「精神的離乳」が済んでいない「モラトリアム人間」(©小此木啓吾)かもしれないと示唆している印象が見受けられます。それはともかく、青年期において少年少女が必死に家族のなかで家族から独立しようとして自分を思いつめる葛藤自体を肯定している意味で、「心理的離乳」はとてもいい概念だと思います! 悩むことにも意味はある!
📝ホリングワースは女性科学者としてグレートな存在です!
ホリングワースは、華々しい、そして非常に生産的な経歴の持ち主である。彼女はまた女性の人権のたたかいの初期の闘士であり、男性は女性よりも優れているという神話を科学的研究によってくつがえすのに成功した人物でもある。(『20世紀の女性科学者たち』(ルイス・ハーバー著、石館美恵子・中野恭子訳、晶文社)p76から引用)
「男性は女性よりも能力が優れている」というmyth(広く信じられている間違い、神話)を6週間をかけた男女に対する能力テストによって学問的に反証したのがホリングワースです。
📝最後に、青年期研究以外のホリングワースを覗いておきましょう!
The data suggest that gifted children walk and talk earlier than unselected children do, as a group. Among the very gifted there is often a record of walking and talking at nine months of age, or even earlier.(GIFTED CHILDREN THEIR NATURE AND NURTURE. The Macmillan Company, p17から引用)
「データが示唆するように、グループとしては優秀な児童がそうでない児童よりも早く歩き話す。大変すぐれた優秀児の間には多くの場合で9カ月もしくはより早くから歩いたり話したりする記録がある。」が拙訳。彼女は「ギフテッド」と呼ばれる早期的に優秀な能力をもった子どもの研究でも知られています。青年期の研究、女性の研究、ギフテッドらの研究を貫いているものはその特質をテストし記録によって検証することと、そして家族や周囲の大人たちが彼ら彼女らの個性を受け入れた成長のための環境をつくるべきだと説いたことだとまとめられるでしょう!
あとは小ネタを!
「心理的離乳」を提唱した心理学者レタ・S・ホリングワースは夫も心理学者。彼ハリーは広告の心理的効果の研究で知られる応用心理学の先駆的存在。彼の著書『広告と販売』は1915年に邦訳されていて、そのときの著者表記はハツリー・ホウリングウオース。
ホリングワースは名前の表記も確定的でなく、ネットでみつけた表記は「レタ・S・ホリングワース」。『20世紀の女性科学者たち』は「リータ・シュテッタ-・ホリングワース」。
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