写真用の笑顔ともらった笑顔
「恥ずかしいって表情に出てますよ!なにこのポーズ?って思っても疑問は封印!今は女優の笑顔です!」
成人式の前撮りをする写真スタジオで働いていた時に、撮影中にお客様によく言っていた。
私の仕事はデザイナーだったが、カメラマンのアシスタントとして撮影の補助やお客様と一緒に写真を選ぶ接客も担当していた。
成人式といえば、大人になる節目。女の子は振袖を着る子もとても多い。普段着ることのない艶やかな着物。レンタルの子も購入した子も、お母さんやおばあちゃんから受け継いだ子もいる。私のいたスタジオでは、成人式当日より前に「前撮り」という形で撮影をする子がほとんどだった。
華やかな振袖に、プロの手によるヘアメイク。
スタジオでの撮影は緊張する子がほとんど。
家族に見守られながらカメラの前でおすまし。
ちょっと気恥ずかしさもある。
振袖の撮影では、いくつか定番ポーズがある。
帯のあたりで軽く手を重ねるポーズ。
手をそっと握り身体の外に向けて開く。
お袖の柄を自然に見せることができる型だ。
最初のポーズではみんな緊張している。
そして、2つ目のポーズで恥ずかしそうになる。
そりゃあそうだ、
普段することないもの、こんなポーズ。
色んな人の注目が集まっているのだもの。
そりゃあ恥ずかしくもなるよね。
みんな写真だからきちんと笑顔を作ってくれる。でも、やっぱりポーズを伝えたら笑顔に少し疑問が浮かぶ。
笑顔に混ざるその少しの疑問は、確実に写真に写る。
同じ笑顔でも何かが違う。不思議そうな感情が出る。
袖を見せるポーズには理由がある。
振袖やj訪問着のような礼装は、身ごろという体の正面の部分と両袖がつながって1枚の絵のようになっている柄が多い。その華やかな柄もしっかりと見せられることと、全身の柔らかい曲線も見せることができる。
ポーズを指示する時に、カメラマンはその意も簡単に伝えている、それでもやっぱり普段することのない謎のポーズは不思議だし恥ずかしさもますのだ。
そこで、私が言い始めたのが冒頭のフレーズだ。
これを言うと、みんなちょっと笑ってから、少し疑問が顔から消える。やっぱり不思議に思ってたんだなと改めて解る。そりゃそうだ、普段しないもん。
背景を変えたり小物を使ったり、撮影が進むとみんなどんどん自然な笑顔が増えていく。リラックスってすごい。
撮影がすべて終わると、女の子は着替えへ。
そしてスタッフは撮影したデータを見てもらえるように準備をする。
着替えが終わり、写真選びが始まる。
パソコンで写真を順番にスライドさせる。
一緒にきた親御さんとワイワイと盛り上がる。
この時間がすごく好きだった。
お母さんとお嬢さんの2人で来ている方が多かったのだが、面白いことに選ぶ時写真が2人で一致するのだ。
同じポーズの写真で全部ちゃんと笑顔でも、ピタッと「これがいい!」と意見があうこと。
ちょっとした表情の違いで、違いが出てしまってるのだ。
写真を選んでいる親子の楽しそうな様子を横で見ていると、本当に楽しかった。接客の仕事だからと作って楽しそうにしていたんじゃない。本当に楽しかった。
撮影の時の写真に残るおすましの笑顔も
普段通りのリラックスした笑顔も
全部がとても素敵な瞬間だった。
私の目がカメラだったら、この瞬間も残して一緒にプレゼントできるのに、と思うくらいにみんな楽しそうにしてくれていた。
一生の記念になる写真の撮影に立ち会えたのは
私にとっても一生物の経験だ。
届いた写真を見た時も、家族で笑ってくれていたらいいと願う。
そして、何年も経ってから見直した時に、また笑顔になってくれてたらいいな。
写真に残っていない思い出も、楽しかったって思い出してくれたら嬉しい。
そして私も、自然とたくさん笑顔にさせrてもらっていたのだ。