アキュフェーズ、P-4600②:BTL
☆プロローグ
アキュフェーズのステレオパワーアンプ、P-4600が2台ある。1台はステレオ2ch用。もう1台はサラウンド時のリアの2ch用として使ってきた。せっかく2台あるので2chピュアでも2台使いたいということで、パワーアンプを左右に置くレイアウトを考えたのであった(「新レイアウト」の記事を参照)。フロントの右chとリアの右chの間に1台置き、フロントの左chとリアの左chの間にもう1台を置けば、2chピュアの際にはP-4600をモノラルアンプとして使うことができる。
P-4600をモノラル使用するには、私のSPはシングルワイヤリングなので、2通りの仕方がある。①ステレオ2chのNORMALモードのままで、片chだけを使うやり方。そして、②BRIDGEモード、つまりBTL接続をする使い方。
BRIDGEモードの場合は下の取説にあるOPERATIONスイッチを回すだけではなく、2つ目の取説ページにあるようにSPケーブルを結線しなおさなければいけない。したがってパワーアンプを左右に配置する新レイアウトで、片ch使いとBTL化の2通りを試せるが、現実的には①ステレオ2chのNORMALモードのまま、片chだけを使うやり方、を採用することになりそうだ。
しかし、ものは試しである。②BRIDGEモード、つまりBTL接続をする使い方から試してみた。
☆BRIDGEモード:最初の夜
BTLは一方の入力信号の逆相を他方の回路に生成することで、正相(+)でスピーカーを《押し》、逆相(−)でスピーカーを《引く》ので、アンプが両手(もろて)でスピーカーと対峙できるようにする設定である。そのBTLにすると、ダンピングファクターが下がる。また、回路がほぼ2倍になるのだから、音声信号の鮮度が落ちる。このようなことがBTLに関して言われてきたし、理屈で考えるならば事実であろう。
アンプのSPに対する支配力の目安となるダンピングファクターは、高ければ高いほど良いというものでは、ない、だろう。ある一定の値を動的な関係の中で保持できればよいはずである。P-4600の場合は、NORMALのステレオだと「800以上」とされているのだから、細くて異常に長いSPケーブル(なんだか好きな人が巷にいそうだが)を使うというのでもなければ、仮にBTL化によってDFが1/2になったとしても十分おつりがくるように思えるし、BRIDGEモードを搭載しているのだから、それに耐えるDFの値をP-4600は与えられているのであろう。だから問題はBTL化によって鮮度がどの程度劣化することになるか、こっちだ。BTLならではの音質上のメリットが、必ず起こるであろう鮮度の劣化を、十分に上まるのか?
それで、BTL設定にして、試聴してみた。明らかにおかしい。音が良い悪いではなく、変だ。クラシックも試したし、変になりようがないスタジオ録音のボーカルも試した。ぜったいに変。
あっ、プリアンプ背面の結線を間違えていた。(-_-;) プリの出力端子のRにLのXLRケーブルを繋いでいた。ふー。「新レイアウト」で、プリアンプをリスポジ背後に移動したので、プリの背面端子をみて出力の右側を右SPに繋いでしまった。レイアウト変更とそれに伴うケーブル作成で5時間近く経っていたので頭がおかしくなっていた。PCも動かしたのだが、canarino DC power supply12Vのケーブルを接続し直そうとして、なかなか挿さらないので、無駄に追い込まれてオリオスペックの酒井氏に「カナリノ…DC...のもにゃもにゃ」と電話してしまい、矢印を横向けてやってくださいと言われて、「そうですよね、写真に撮ってある通りですよね」と、電話をおいて、挿ささった。頭おかしいと思われただろうな。ただね、横向けて挿したけど挿さらなかったんだよな。挿さったけど。
気を取り直して、試聴し直した。
変なのである。SPとSPの間からきて、耳の奥、頭の中まで繋がってくる感じの音場で、定位がまったく見えない。クラシックもボーカルも。なんか聞き覚えのある感じがする。楽曲で使われる雨の音とかの音場感。逆相か。逆相を使った音響エンジニアリングで作成された音に似ている。
BTLで逆相に聴こえるって、、、どういうこと?
最近、仕事の後で眠いけど酒飲んで音楽を聴くと、統覚がいかれるのか、正常な再生なのに、音像定位の消失点が逆に聞こえたりする。で、諦めて寝た。3時。機械をつけっ放しにしておいた。6時、朝起きてから3分聴いた。変である。逆相の音源にしか思えない。出てくるはずの音が引っ込んでいき、引っ込んでいくはずの音が出てきて、決して定位しない。音に集中しようとすると分散していく。いや~、困った。このまま会社に行くのは嫌だが、仕方ない。(笑)
☆BRIDGEモード:再び
極性反転スイッチかも。マニュアルの初めの画像の⑪である。アキュフェーズは1番:G、2番:C、3番:Hがデフォルト。しかし、私の持っている全てのプリとケーブルは1番:G、2番:H、3番:Cなのである。XLR接続の極性を合わせるスイッチを切り替えれば、HとCがひっくり返る。しかし、XLR端子の極性は音質に関係ないというのがアキュフェーズの立場なのか、極性反転スイッチの説明には「必ずしも極性を合わせる必要はない」という注釈が付いている。
私のP-4600の両方とも、1番:G、2番:H、3番:Cになっているのを、アキュフェーズ・デフォルトに変更してみた。もう1台も変更しようと、背面に回ると、対面のP-4600と同じ色のSPケーブルが同じ順番に並んでいる、、、鏡を見ているのであれば左右は逆にならない。しかし、、、目の前にあるのは、、、なるほど、1台だけSPのマイナスがアンプの右chのプラスに繋がっていない。片側だけ逆相の出力になっていた!ということは、右ch用のP-4600だけ極性変換スイッチを変更すれば、逆の逆で正相になるはず。
実際、右chの極性変換スイッチを操作して試聴してみたら、普通に定位した。さっ、まず酒を飲みながらアンプを暖めよう。(爆)
☆BTL試聴記
パワーアンプ2台がほんのり暖まった。もう何度目か分からないが、気を取り直して、試聴。
(1) ピアノ協奏曲
ツィマーマンの『皇帝』、ボリュームは11時半くらい。深い。ラトルのオケがぐいぐい低域を飛ばしてくる中でピアノの高域が星を撒き散らす。非常に雄弁な再生で、蠢く低弦の生み出す音場の前後感はSPを完全に支配した結果だろう。揺るがない音場のなかでピアノの高域はベートーヴェン=ツィマーマンのエモーションを表現する。ボリュームを上げてみてもPCM系の音源はぺらっとした質感が残るのが残念だが、ブリッジしたP-4600は難しい協奏曲系の低弦でもって余裕たっぷりに空間を作り上げる。鮮度は?特段に良くはない。悪いとも思わない。自宅試聴したステレオモードのP-7500よりいくらか良いかもしれない。ツィマーマンのピアノの脚と椅子の軋み、ピアニストの鼻の音が録音されていることに今日気づいた。2楽章は特に。ということで、ピアノ協奏曲にP-4600のBTLはお勧めできる。
(2) 木琴
マイスターミュージックのDSD256による木琴セッションで、鮮度を測ってみる、、、BTLで鮮度が上がることはないのか。といって下がったとも思わない。通崎さんの木琴の意図が分かる気がする再生音。楽しい。
(3) ボーカル&打ち込み系
ボリュームは12時を超えたくらい。やはり圧倒的。あまりに余裕があるからなのか、クールに聴こえるが、これは再録音版。クールなのは曲の抱えた事実なのだろう。激しい打ち込み系の低音にまったく揺るがない、SPが完全に消えている。極めて音の良い録音スタジオに立ち会ったことはないが、そんな気分になる。
(4) フラメンコ
フラメンコの手拍子(パルマ)がばちばちして、人間の手の質感を伴う拍手に聴こえないとすれば、分解能が低いから。激しく叩くその掌と掌の接触のダイナミズムまで表現する分解能がないのだ。分解能が低い手拍子は固まっており、時に鋭く聴こえたり、ちかちかした音になる。もし、分解能を上げたならば、拍手が拍手に聴こえて少し落胆することになるだろうと思っていた。実際、落胆した。しかしまた、手拍子は手拍子に聴こえなくてはならない。こういう場合、音は解きほぐれてまろみを帯びる。分解能が高いので音の内部が見える、手のひらの音像が見えるのだ。全てが見えると、音は固さや鋭さを失くすのである。固着して信号というよりノイズに近い音の塊を、パルマの音として再現する分解能は、BTLというより、チャンネルセパレーションが卓越しているNOSモードのMAY DACの効果が大かもしれない。それからBTLかどうかというよりも、モノラル化してP-4600を左右SPの手前で分けたことの恩恵もかなり大きいのではないか。
(5) JAZZ
BTLによる最も分かりやすい利得が、音圧を上げた時に得られるのは予想できた。ノーマルのステレオでそろそろクリップするかもと心配になる音圧にすると、ますますSPが消えて、アンプは平然としている。メーターを見ると60〜70%くらい。ただ音楽の熱気だけが押し寄せる。睡眠時間がなくなるわ。
分かったこと。P-4600のBTL化は、スピーカーが見事に消えて、音楽が実に楽しい。鮮度は上がることはないが、劣化は特に感じない。音量が小さいと悪くはないが、大きい方が明らかに良いように思われた。
なお、BTLにかなり興奮したのは確かだが、OPPOに付けていたTELOSのUSBノイズアブソーバーを2つCanarino fils9に装着したり、DACとプリにはノーマルノイズフィルターをやめてアコリバの出川式電源ケーブルを当てがい、仮置きしていた機器をできるだけ丁寧にセッティングした。そうした諸々の効果の合算が今回の成果であるのは間違いない。
最後にBTLに関するLUXMANの説明を引用しておく。
「……電源の余裕度によりますが、理論的には出力電圧は通常接続時の2倍(電力(W)は4倍)得られます。音質的には、回路のグラウンドに出力の信号電流が流れないことによる、アンプの帰還ラインの混変調歪の低減と、出力電流による電源の変動が±で逆相に発生することで、それらが完全に打ち消しあい、変動が全く無い理想的な電源とみなせる、などのメリットがあります。対して、音楽信号の経由する回路規模が倍になることで、音の瑞々しさが失われがち、という意見もあり、ステレオパワーアンプを2台使用するときには常にバイアンプ駆動にするかBTL駆動にするかで楽しい悩みは尽きません。」
次回、『P-4600③』は、片chによるモノラル化について。
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