ルームチューニング③
☆プロローグ
自分の記事の引用で恐縮だが、『ルームチューニング①』の最後で、次のように書いた。
もう一つ自己引用すると、『ルームチニング②』ではKayaの置かれた部屋について、次のように書いた。
ステレオ再生ではこの左右の位相を壊さず、逆に、位相を合わせることが重要だと注意を喚起してきたのだが、自分でその戒めを反故にしていた。その結果どうなったか?また、それについてどういう対応をしたかが、今回の『ルームチューニング③』の内容である。
まず、以前の私のAVシステムを紹介する。たぶん、多くの人と同じなので参考になると思うのだ。皮肉っぽいことを言うが、そこそこ格好はついていたが、音はさっぱりだった。問題はステレオ空間の左右の整合性である。
次に、プリアンプによる左右の調整と、物理的なルームチューニングによる調整の差異について。
最後に、つまらない結論だが、センター定位が現状崩れてしまっている原因について。
☆昔のルーム2つ、システム2つ
私は以前、台形の20畳くらいの居間をオーディオのメインルームにしていた。ある壁面が全部窓であったり、またある壁面はオープンキッチンになっていたりと、左右も前後も位相空間の条件が不揃いのルームであった。そこに今も使っているFOCALのスピーカーをこれまた今と同じKRIPTONのボードに設置して、LUXMANのプレイヤーとアンプでピュアオーディオをやろうとしていた。
他方で、別の6畳の書斎では安物のAVアンプと20万位のモニターオーディオのスピーカーで映画を観ていた。ある時、この書斎で2chのディスクを再生して気付いた、高額の機器を揃えた大きい部屋では音像定位が全くなっていなかった、と。
どちらの部屋でも左右スピーカーの間に大型のテレビを置いていた。しかし、遥かに値段の高い機器を揃えた大きな空間の部屋の方が、ボーカルが散漫でリアリティーが薄いのである。大きい部屋は変形で左右の位相はめちゃくちゃ。一方で、6畳間の左右の位相は、ほぼ完璧。ぼんつきは半端じゃないのだが。
つまり、こういうことである。FOCALのSOPRA No.2とラックスマンのプレイヤーとアンプとクリーン電源と、割と高いボードやケーブル類を奢ってみても、Monitor AudioのGold200と4万のAVアンプとユニーバーサルプレイヤーのステレオ再生に、劣る、のである。まことにショッキングで受け入れがたい発見であった。
スピーカーもDAC→プリ→パワーのシステムの左右chの位相を揃えるのは重要である。それと同じだけ、いや、それ以上にルームの空間的位相を揃えるのが重要。3倍の空間的ボリュームと、5倍の資金と、倍数表現ができないほど努力したとしても、覆すことができないのだ、左右のステレオ空間の位相の整合性の不在がもたらす定位の薄弱さは。
☆記念すべき瞬間
それなりのプリアンプであれば左右バランス調節の機能がついている。AVアンプであると最も低価格であっても左右調節ができる。そういう調節機能を使うと、右に寄っていた音像定位を左にずらすことができる。高級なプリアンプであると左右調節でも音質の劣化はないのだという。
例えば、LUXMANのC-10Xというブランニューの高級コントロールアンプの説明には「メインボリュームとして搭載される電子制御アッテネーターLECUA-EXによる0.5dBステップの⾳量シフト機能を使⽤することで、音質劣化を発生させない左右のバランス調節(L:-6dB~R:-6dB)」等々を搭載した、とある。ところで、上に写真を挙げたプリメインアンプ、L-509Xには「ラインストレートスイッチ」というのがあり、バランスコントロールやトーンコントロールをバイパスすることで鮮度を上げるという、音質向上の機能を停止する音質向上機構が備わっていた。(^^)
AVアンプでは、私の予想であるが、さして音質は劣化しないのかもしれない。なぜなら、たとえ余計な回路をバイパスするpure directモードのような設定にしたところで、非常に煩雑な回路を経由するのがデフォルトなので、5万円くらいの2chピュア用のプリメインアンプの方が音質が良いという現象が起こる。つまり、最初から程度が低いので劣化がないのである。私のAVプリは一世代前のトップエンドであるので高級機であるが、2chで比べると実に寂しい結果になる。
ところで、こうした左右のバランス調整機構の備わったプリアンプで左右のバランスを調整したのと、ルームチューニングよって物理的に調整したというのは、実は、異なる体験なのだ!「実は」などと言うのは、プロのルームプランナーが物理的なルームチューニングはプリアンプのバランス調整で補填したらよいというような提案をしているので書いている。補填はできる。しかし、プロの音響設計士に話を持ち掛けるほどAVに入れ込んでいるお客に対して、プリアンによる調整を提示するのは、実は音響設計の仕事が対価に見合わないレベルのものであるのか、それとも、物理的なルームチューニングの真価を知らないのかのどちらかだろう。
・プリアンプによる左右のバランス調整 ⇒ 音像の位置が動く
・ルームチューニングによる左右の調整 ⇒ 物理的空間の知覚と音源の仮想空間の聴感が合致する
ある時、システムに電源を入れたまま、ルームチューニングをしていた。左を作り、右を作りを繰り返していた。一連の狙った箇所を終えて脚立から降りて、リスポジに座って再生ボタンを押した瞬間である。リスポジでスピーカーに正対した音が聴こえるか聴こえないか、音が耳に飛び込んでくるほんの一瞬前に、頭の中がぐるりとルーレットのように回転を始めた。そして、ぴたりと回転が停止すると同時に音が中央から湧き出てきた。今のルームで十全なセンター定位に初めて出逢った《記念すべき瞬間》であったのだ。
このようなセンター定位との邂逅以外にも、物理的なルームチューニングを進めていった際の決定的な瞬間というのはいくつかある。そうしたいくつかの別々の瞬間を考慮すると、おそらくオーディオルーム内ではオーディオシステムによる再生音とは別の音が既に常にこっそりと潜在しているのだ。呼吸をすれば、吐いた息がルームの中の空気の分子を動かす。こうした吐息が生み出す音を、当然、脳は意識化させない。意識化の閾値未満で茫洋と空間を支配している音の運動と、オーディオシステムによる再生音の運動が一致したのではないだろうか。そうした普段は意識から排除されているが空間を支配している世界と、オーディオの音源が孕む仮想的な世界が合致するという幸せな瞬間に、意識が惰性的に思い為していた「こんなものであろうという世界」が崩れた。私のルームに対する物理的知覚の態勢が変質した。それがルーレットのような回転がもたらす眩暈の正体であったのではないだろうか。
いわく説明し難いのだが、今イイタイコトというのは、音の左右の位置が動くだけのプリアンプによるコントロールと、物理的なルームチューニングによる定位の調整は同じ次元の話ではないということだ。
☆今回のズレ
アキュフェーズのP-4600をモノラルアンプ可する際にステレオ片ch使いにするか、BTLにするか、の検聴会をベルウッド氏とする日の朝、まずボーカルを試聴してもらおうと選曲とボリュームを確認していて、ふと、センター定位がズレていることに気付いた。前回の『アキュフェーズ、p-4600③』に書いたエピソードである。
これまでの記事をお読みの方はお分かりいただけるだろうが、新しいことをやり続けている。電源工事、PC、DAC、プリ、パワーアンプ、スピーカーのウファーの取り出し、配置変え。全てに手を入れている。その際に部屋の各所に設置した調音材は、ちょっとだけどかして、壁のコンセントやLANジャックを使えるようにして、、、ということを繰り返してきた。部屋の左前側に2つ、右前側にも2つ置いていた調音材が左側に3つ雑に放置されていたりした。たったこれだけのことなので、左右の置き位置を合わせるのに10分もかからない。
調整というのも恐縮なレベルの調整後は、リスポジの位置を5cmくらい横にズラさないといけないような、音像のセンター定位の10cmくらいのズレだったのが、リスポジを横に2cmくらいズラせばよいくらいになった。つまり、ほんの少し首を左に傾げればよいくらいに、センター定位のズレを解消できた。
小さな箱状の調音材、これの中身は猫ちゃんのトイレに使える多孔質の軽石であるが、それが左右で不均衡になっていたのを、見た目の上で均等にするのは造作もない。これでセンター定位が変わるのである。私が甘く見ていたのは新DAC、MAY KTEとパワーアンプ、P-4600のモノラル化の威力である。音響システムからクロストークが極小化されたストレートな再生によって、同時に、部屋の左右不均衡がそのまま音像定位に影響が出るようになったのである。下の画像はちょいちょい目測で動かしで簡単に左右のバランスを調整した後の様子。
逆に言えば、ちょっと小箱を動かせば、センター定位をコントロールできてしまうのである。ということでたぶん8割くらいはセンター定位を回復できたのだが、まだ、ぴんと来ない。《記念すべき瞬間》のようなピントが合った感じがない。天井の調整がまだである。下の画像はルームの天井の画像である。全て自分で製作、設計、設置したので、ウォーリーを探せのような真似は必要がない。8尺の脚立を出して、均衡を崩している箇所を補修すればよい。脚立を出すのが難儀するのでまだ手を出していないが、おそらく、二番煎じか三番煎じかの出涸らしであるが、また《記念すべき瞬間》が再来するのだと思う。