
勉強してみたい曲のこと-ショパン編-
憧れの曲とか、目標の曲と言ってしまうにはあまりにも高いところにある存在に感じており、弾けるようになりたいとかはとても言えない曲のこと。
今の実力では明らかに手が届かな過ぎて、普段の自分だったら記事のネタにするのもおこがましいと封印してしまうところですが、、、あることをきっかけに頭の隅に眠っていた曲たちのことが心の中に広がってきたので書いてみます。とてもとても長くなりました。
封印が解かれたきっかけ
先週のレッスンで、初めて和声についての宿題をもらい、さてどうやってとりかかろうかと頭を巡らしていました。
そうすると不思議なもので、関連情報が自然と寄ってくる。
人間、新しいものに取り組むべき準備ができたとき、導いてくれる何かがそっと現れるのかもしれない。
さいきんいくつかのyoutubeチャンネルでブルグミュラー先生の解説・演奏動画を参考にしています。その関連で、ピアニストの方が和声解析をしている動画が目に留まりました。自分がちょうど取り組んでいる、ブルグミュラー先生の25の練習曲から「狩り」「優美」などを題材とした動画でした。存じ上げないピアニスト様でしたが、、チャンネルを覗いてみたら、まぁびっくり。和声解析の動画だらけ。1曲1時間とかはザラで2時間超の動画もある。その道のプロの方をガチ勢などと表現しては失礼だが、本当にガチ。
で、そのチャンネル内の動画でひときわ私の目を引いたのが、
ショパンのエチュード 作品25-12 「大洋」
あぁぁぁこれは・・・・
めちゃくちゃ難しそうなのに、すらすらと弾きながら歌いながら、それはそれは楽しそうに和声の解析をされている姿に、自分には無理だしと目をそらし続けていた心の中の封印を解かれてしまったようです・・・
自分もこんなふうに嬉々として、心から楽しいと感じながら勉強できたら。。
ただ、やっぱり今の自分には山が高すぎて、そしてまだ和声の用語もチンプンカンプンでとてもついていける内容ではなかった・・・。
有料のメンバーシップコンテンツとても気になるけど、とうてい理解できなさそうなので今はまだ我慢。もうちょっと勉強してから。
大洋のエチュードとの出会い
芸術には縁のないごくふつうの家庭に育ち、両親はピアノを習わせてはくれたものの、教育に関してはほぼ放置でした。それでも、欲しいと言えばクラシックのレコードを買ってくれた他、何回かコンサートに連れて行ってくれることがありました。
中学生の頃、小山実稚恵さんのリサイタルに連れて行ってもらいました。
まだその頃は知っている曲が少なくて、プログラムの内容はよく覚えていませんが…、たぶんショパンの曲がメインだっただろうと思います。最後のアンコールの曲として弾いてくれたのが大洋のエチュードでした。演奏前に、ご本人がステージ上から声を発して曲名を言ってくれて、はじめてこの曲のことを知りました。
当時は、ショパンのエチュードと言ったら、10-3別れの曲と10-12革命くらいしか知らなくて、たいよう?太陽かしら?なぁんて思っていると…
なんだこのかっこいい曲はーーーー
と、無知な田舎の中学生、たいへんなショックを受けました。
まさに大波のうねり、大洋でした・・・
きれいなドレスを着た細身の可憐な雰囲気の女性の手から奏でられているのがめちゃくちゃダイナミックで男性的な曲だった、そういうギャップも大きかったように思います。
親にお願いして、会場で24曲収録されたエチュード集のCDを買ってもらい、しばらくはそればっかりを聞いて過ごしました。

それ以来、ショパンのエチュードは単品でなく作品集として24曲を通しで聞くことが多くなりました。お小遣いはたいてパデレフスキ版の楽譜なんかも買っちゃって、ちんぷんかんぷんながら楽譜を眺めて。これがあの曲なのかぁぁぁと感心して、楽譜買って満足、見て満足。練習はせず。いや、正確には、楽譜を見てちょろっと出だしの音を触ってみて、あーぜんぜんわからない。ぽいっ!
その後、ショパンの大曲難曲たちとの出会い
学校のピアノ習っている友達との会話や、テレビ、親年代くらいの人との文通などを通して、すこしずつ曲の知識が増えていきます。成長につれて、長く大きな曲の魅力もすこしずつ感じられるようになっていきました。
今でも大好きな、とくにかっこいいなぁと思う曲たち
うんちく語れる知識はないので、知ったきっかけ、好きなところなどをつらつら。
ピアノソナタ第2番変ロ短調 作品35
第3楽章の葬送行進曲が有名なあの曲。1990年ショパンコンクールのドキュメンタリー番組で田部京子さんの練習風景で1楽章かっこいい!と思いました。嵐の中を駆けていくような、荒々しさと、力強さ、そして美しさ。
ピアノソナタ第3番ロ短調 作品58
これもショパンコンクールのドキュメンタリーで知りました。真剣な表情でピアノに向かう、当時18歳の児玉桃さんの映像が印象的でした。以来家にあったレコードでたくさん聞きました。
フィナーレの4楽章、オクターブの大きな移動から始まる部分、きたきたきたぁ~~~~となります。
で、知って間もなく、テレビで「先生のお気に入り」っていう芸術系の学校を舞台としたドラマが放送されました。ジュリアード卒で才能あるんだけど落ちぶれて臨時教師として学校にやってくるピアニスト役が陣内孝則さん。で、夜の暗い音楽室でこの4楽章を弾いてたのを覚えています。俺このままでいいのか・・と葛藤する心を表すような、4楽章のゆらゆらとうごめく低音のアジタート。今考えると、ジャズピアニストなのにショパン。なぜだ笑。
スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 作品39
これもショパンコンクールのドキュメンタリーで知って好きになった曲。1位なしの2位となったケヴィン・ケナーさんがピアノ選びをしているときに弾いていました。はじまりのオクターブユニゾンの連続のところがかっこいいのと、なにより中間部(という言い方でよいのか?)の、キラキラ下降音がたまらなく好き。
中村紘子さんのバラード・スケルツォ全曲収録のアルバムを持っていたので、よく聴きました。大人になっていろんなピアニストの演奏を聴くようになって、当時の中村紘子さんの音は少し硬質かなと思います。近寄りがたい印象。。。
好きな演奏は。アルゲリッチ先生。
水玉ワンピースを着た若い頃の映像がyoutubeに上がっていて、それを見るのが好きです。
スンとした顔で体の動きは少なく、こともなげなあっさりした様子。それでいて音はめちゃくちゃダイナミック。そして速い。奏法の詳しいことはわからないけれど、独特の第3関節から鍵盤をひっかくような指の動き。あまりにもすごすぎて、一つも真似できることはなさそうだけど、大好きです。
プレリュード第22番 ト短調 作品28-22
これもやっぱりショパンコンクールのドキュメンタリーで。革命の傷痕がまだ生々しいルーマニアからコンクールに参加した女性が取り上げられていました。革命が終わって初めて外国に出ることができるようになり、トラブルで到着が遅くなりピアノ選びの時間がないという大変な状況でコンクールに出場するものの、あまりのレベルの違いにショックを受ける、、という気の毒なエピソードでした。音楽教師のお母さんから手ほどきを受けたそうで、かなり古されてきたと思われる、弦の切れた自宅のピアノで弾いていた曲がこれでした。知ったのはだいぶ後になって、プレリュード集のCDを聴いてから。
暗いアジタート。左手の怒涛のオクターブ。もし弾いたら…私の手…死ぬだろうな。
エチュード作品10-1 ハ長調
先に書いた、小山実稚恵さんの練習曲集の1曲目を飾るハ長調のエチュード。家に帰ってCDを聴いて「うわぁなにこれ!!!」と衝撃を受けました。
鍵盤のそれこそ端から端までを何度も駆け上っては駆けおりる、ハ長調の広々とした気持ちよさ。
ただ、気持ちがいいのは聴くまでで、いざ弾くとなるととんでもなく難しい曲だそうですね。CDの解説を見ながらハ長調じゃん、いけるんじゃ?と思ってしまって、当時とんでもなく身の程知らずだったのが超絶恥ずかしい。
叶うことなら手を伸ばしてみたいと思うのは…
あげればキリがない。
もうほんとにすべてが名曲だし、他にもいろいろあるけれど。
男性的でダイナミックな曲が好みのようです。
やたらと連続オクターブとか和音連打系ばっかり。
正直この今の人生を生きてるうちには到底無理だろうとは思ってはいますが。上手な人の素晴らしい演奏だけで充分満足してはいますが。
やっぱり
大洋のエチュード
でしょうか。
今でこそインターネットでたくさんの演奏を聴くことができるけど、まだ自分の中の知識の蓄えが少ない頃に、生で聴いて受けた衝撃は大きかったと思います。
あとは、
スケルツォ3番。
あの天から降り注ぐような、キラキラ部分、一部分だけでもいいからいつか取り組んでみたい。
何に惹かれるのか
和声のことを勉強するとなって、改めて強く思うのは
ある調から始まって、いろいろに変化して、どこに着地するのか?
同じような音型でも、次々に色が変わっていく様子が美しいこと。
大洋のエチュードの何が好きなのか、今までは言葉にできなかったけれど、心惹かれる大波のうねりの色彩は、和声の移り変わりが織りなすものなのだと再認識したのでした。わかっている人にはあたりまえすぎてすみません。
先日のレッスンで先生がおっしゃるには。
和声の理解は演奏に出ます、と。
理解せずに弾いてもよい演奏はできないということだと受け取りました。
可能な限り理解できるよう、勉強すべきだと。
全てを理解できなくても、難しい言葉で説明できなくてもよいから、よく味わうこと。これが大切だと言われました。
そんなわけで、今の自分は取り組むには到底準備ができていないということです。
いまは目の前にある身の丈に合った課題を一つずつ。
ブルグミュラー先生のもとで。
さいごに
私にとって、たくさんのショパンの曲を知る入り口となったのは、先に何度も出てきた1990年のショパンコンクールのドキュメンタリー番組でした。
このコンクールでは横山幸雄さんが3位になり、高橋多佳子さんが5位入賞、と日本人の活躍がすばらしかったのですが、目の覚めるような強い印象を残した横山幸雄さんの演奏のことを何も触れずにすみません。。。(誰にお詫び?)
あの3度のエチュードは精密でほんとうに驚きました。田舎中学生の素人目にさえも、とんでもなく難しいことをやっているのは明らかでした。こんなの無理よと一瞬で投げ出す感じだったので、あのエチュードは今も昔も私の勉強してみたいリストには一度も入ったことがありません。