Wine is our blood
僕がこの地域のことを「東欧」ではなく「中欧」と呼ぶのは簡単な理由で、当地に行った時に叱られたからだ。迂闊にも「Eastern Europe」と言ってしまった僕に、間髪入れずに「Central!」と。
だから帰ってきてからも、「東欧」と言われるたびに、「中欧!」と訂正するようになった。この呼び方についての拘りは、彼らの誇りの問題なのかなと思う。「西欧 / Western Europe」と対比しての「東欧」という言葉は、旧共産圏で、貧しく、暗いイメージがつきまとう。対して「中欧」とはまさに「中央」であって、正にヨーロッパの真ん中。この地域を長い間支配していた強大なハプスブルグ家ともリンクするイメージなのかもしれない。オーストリアを中心とした一大帝国の名残は今でもこの地域を旅するとそこここで感じることができる。当時間違いなく中欧は文化的にもヨーロッパの中央であった。
さて、この地域と切っても切れない関係にある品種こそ、ブラウフレンキッシュである。中世以降、この地域では優れた品種を「フレンキッシュ」と呼び、劣っている「ホイニッシュ」と区別していた。特にBlaufränkisch = 青いフレンキッシュ、と呼ばれるこの品種が歴史に登場したのは、1862年にウィーンで行われた「葡萄品種展」とのこと。(Robinson, Jancis,Harding, Julia,Vouillamoz, José. Wine Grapes: A complete guide to 1,368 vine varieties, including their origins and flavours (p.116). Penguin Books Ltd. )そこまで古い品種ではないようにも映るが、しかしこの品種の呼び名の多彩さは、古くから広くこの地域で脈々と栽培されていたことを物語る。
ブラウフレンキッシュ(オーストリア)、レンベルガー(ドイツ)、フランコニア(イタリア)、フランコフカ(チェコ、スロヴァキア、クロアチア、セルビア)、ケークフランコシュ(ハンガリー)...
中欧のそれぞれの複雑に絡み合う歴史と文化の中で、常に凛とした表情を見せるというのがこの品種の僕の印象だ。黒い果実の香り、高い酸、そして豊富ながら存在感のあくまでも薄いタンニン。国ごと、産地ごと、そして生産者ごとに表現されるこの品種の味わいは、それぞれの誇りを映した味のようにも思える。洗練を感じるオーストリアのブラウフレンキッシュやドイツのレンベルガーに対して、旧共産圏のフランコフカ / ケークフランコシュはより生々しく、土っぽい。
写真のワインはハンガリーのマートラ山の麓でワインを作る、カーナー・ガボーのケークフランコシュ。「テロワール」「低収量」「ナチュラル」「純粋」「正直」がワイン造りの重要なキーワードだと語る彼のこのトップキュヴェは、この品種では通常考えられない程の果実の甘みを感じる。エレガンスと密度が高いレベルでバランスするこのワインの名前は、ヴィテゼック・フォルデ。「戦士の大地」という。どんな戦士たちの血がここに流れたのか、想像力を掻き立てられる。
中欧のことはまだまだ知らないことだらけだけど、その歴史や文化を知る毎に、ワインの味わいに反映されているように感じる。コロナが落ち着いたら、この青い血の味わいの理由を確かめに、是非訪問してみたい。
生産者:Karner Gábor
ワイン:Vitézek földje
インポーター:Japan terroir
価格:¥9,500
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