ここに地終わり海始まる
ポルトガルを代表する詩人カモンイスの詩集「ウシュ・ルジアダシュ」の中でも最も有名な一節であり、ユーラシア大陸の西の果て ロカ岬の石碑に刻まれていることでも知られる言葉が呼び起こされる。果実も花の香りもないワイン。石を舐めたような、と比喩されるワインはあるが、これはポルトガルの潮の味わいだ。きつい潮風というよりは、優しく柔らかい海の香り。ポルトガルの塩田の甘味のある塩の花の味わいだ。リスボンの南には今でも昔ながらの塩田が沢山あって、そこからとびきり美味しい塩がとれる。それをFlor de Sal(塩の花)と呼ぶ。
ポルトガル最北部の産地であるヴィーニョ・ヴェルデが微発泡でカジュアルなワインとなり世界を席巻しつつあるのはほんの最近の話である。昔は渋くて酸の強い赤の産地であり、故に他の産地のよりフルーティで飲みやすいワインが入ってきたときにヴィーニョ・ヴェルデの赤は人気を失い、結果として白が残った。残った白も効率化と近代化に姿を変えた。このワインが姿を変える前の白そのものだ、とは言わないが、しかし非効率と言われ商業規模ではほぼ絶滅したはずの樹の仕立てで造られているワインではある。その結果はどうだ。比肩なき酒質の強さ。強烈なミネラリティ。なによりも大西洋の影響を強く受けるヴィーニョ・ヴェルデらしい塩味が詰まっている。軽くて飲みやすい多くのヴィーニョ・ヴェルデと比べると、そのミネラリティの強烈なほどの強さと濃さは衝撃的なほど。塩の花も昔ながらの手作業で海水を繰り返し濃縮させたものだが、昔のヴィーニョ・ヴェルデもこうだったのだろうか?
アンフォラで醸造、樽で熟成したという生産者のセンスとバランス感には称賛を送りたい。Azalというフレーヴァーの弱い品種だからこそ、敢えて香りを出さず味わいにポイントをおいた感覚は素晴らしいと思う。そのことがブドウ自体のクオリティを引き立たせている。
ロカ岬に立つと、果ての見えない大西洋の向こうに漕ぎ出した昔のポルトガル人のことを考える。地が終わり海の始まる国で、海のかたまりのような美しいワインが生まれることを証明した記念碑的ワインである。
生産者:Márcio Lopes
ワイン:Pequenos Rebentos Selvagem 2017
インポーター:aux nuages
価格:¥7,920
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