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Update Argentina Wine
ここ数年アルトス・ラス・オルミガスというアルゼンチンのワイナリーのブランドアンバサダーを担当させてもらっている。(輸入元:モトックス)
アルゼンチンワインの2023年の生産量は約8億8000万リットル。国別では8位。この年は世界的に収量が低かったが、アルゼンチンはその中でも影響の大きかった国で、例年であればチリやオーストラリア,南アフリカと肩を並べ、南半球で最大の産地の座を争っている。この南半球4カ国の生産量の争いはなかなか厳しく、年によって目まぐるしく入れ替わる。
これらの国のうち、日本への国別輸入量一位の座をフランスと常に争うチリはいまだに低価格というイメージに苛まれているとはいえ、カベルネ・ソーヴィニヨンに留まらず、ピノ・ノワールやシャルドネなどの一部の高級、高品質ワインの産地として存在をアピールしている。
オーストラリアの強みはその広い国土から来る多様性で、完全にシラーズ一辺倒のイメージから脱却したといっていい。
南アフリカは日本では近年最もファッショナブルな産地として、特にレストランシーンで高価格化に成功した産地だ。こちらもピノ・ノワールやシャルドネからピノタージュ、シュナン・ブランまで多様な魅力が届けられるようになった。
ではアルゼンチンは?
日本のワインシーンで過去10年、いや20年でも、アルゼンチンワインについての大きなアップデートが何かあっただろうか?
今だに牛肉に合うパワフルな赤ワインを造る産地、ではないだろうか。
このギャップがアルゼンチンワインのアンバサダーとして活動する上で、最もエキサイティングで、かつ困難なポイントだ。
アルゼンチンワインに対して、「肉に合うマルベック」以上の言葉が日本には存在していない。
実は近年のアルゼンチンの進化のステップは早い。
力強さにフォーカスしたワインから、15年以上前から少しずつ方向性を変えてきている。
1,000mを超える高標高な畑の広がり、土壌への理解、抽出や樽の使用の変化による軽い造り。従来の、元々のフルーツの良さをベタッとインクで塗り潰したようなワインは減り、世界のワイン産地の中でも特殊なこの産地の味わいをより表現するようになってきている。
標高の高さを理由として、果実感の軽さと高い酸を表現するようになった。
石灰質に注目が集まり、よりミネラリーなワインが造られるようになった。
もはやアップデートなしに今のアルゼンチンワインをブラインドで飲んだら、それがアルゼンチンのワインだと分かる人は少ないだろう。
しかしいまだにアルゼンチンワインは、牛肉に合わせて、パワフルなマルベックで、といった20年前のイメージで語られる。そのギャップを埋めていきたい。
さて、アルゼンチンがこういった「テロワール」にフォーカスしたワインを造るうえで、マルベックが果たした役割は大きい。
それはマルベックが標高の低い暖かい畑から、高標高の涼しい(または寒い)畑まで、どの場所にも適応する懐の広い品種であったこと。
アルゼンチンでは標高0mから3,000m以上まで、マルベックが植えられている。これだけ気候の大きな違いに耐える品種は少ない。それだけさまざまな場所の特徴を、マルベックを通して確認することができる。
アルゼンチンワインの権威のひとり、Tim Atkin MWの最新のArgentina Report 2024を見ても、軒並みハイスコアはマルベック。ただしより産地にフォーカスしたワインが多く、産地別なだけでなく、畑の中のパーセルまで指定されたワインも少なくない。アルコールもそれほど高くなく13%台のものも多い。
白ワインのリストに目を向けると、さらに興味深い。
ハイスコアの中で目立つのはセミヨン、シュナン・ブラン、フリウラーノといった名前。アルゼンチンといえばトロンテスかシャルドネじゃないの?と思われたのなら、申し訳ないがそれは完全に遅れている。
たとえば標高1,000m超えのブドウ畑からの、タイトでフレッシュなセミヨンやシュナン・ブラン。他の国ではお目にかかれない特徴のある白ワインこそ、マルベックと並んで今のアルゼンチンワインの見せる新しい表情のひとつだ。
アルゼンチンは日本から見て遠い国だ。恐らく世界のワイン産地の中でも最も遠い上に歴史的、文化的な繋がりも弱い。そのためもあり、アップデートが遅れている面は否めない。まだまだこういった新しいアルゼンチンワインは日本に輸入されている数も限定的。
ただ、濃いと思われている従来のブランドも、実はかなり味わいがより柔らかく酸の感じられるものへ変わってきているのも事実だ。
私もアンバサダーを担当するまでは、こんなにアルゼンチンワインが今面白いとは思ってもみなかった。
ぜひアルゼンチンワインを今一度、先入観なく飲んでみてほしいと思う。