見出し画像

カポエイラの戦闘スタイルについての考察(アフリカに長年住んでいる日本人の視点から)

はじめに

日本では、カポエイラをダンスの一種として学んでいる人が多い印象を受けます。派手な動きを伴うカポエイラは、シンプルな動きに武道の合理性と美意識を追求する日本人の感性からは、ダンスと捉えられることも無理はありません。しかしながら、日本の格闘家でもカポエイラの様な動きで技を決める人もいますし、また、異種格闘技戦で随分と強いカポエイラの選手が戦っていた動画を見たこともあります。こうしてみると、カポエイラは逆立ちを基調とした不思議な動きをするけれど、武道として十分な強さを持っていると言えます。そして、他の武道にはない逆立ち基調の戦闘スタイルは、どの様に確立したか興味深いところです。そこには、カポエイラの担い手であるアフリカ出身ブラジル人達の生活環境や身体特性が関係しているようです。私は、アフリカに10年以上住み、アフリカとカポエイラについて感じるところがあるので、それを述べたいと思います。

カポエイラの成立と発展

アフリカから奴隷として連れてこられ、サトウキビ畑で働かされた人々がカポエイラの主な担い手とされています。そんな中で、作業員同士の喧嘩や農場管理者への抵抗などの闘争がカポエイラの原点と言われています。まだ、日本語のカポエイラの本が見当たらない時に読んだ「The Little Capoeira Book」には、当初のカポエイラに相当するものは頭突き合戦だったとあります。現在のスタイルとは随分と違います。その後、音楽と結び付いたりしながら、現在のようなスタイルになりますが、大別すると、「ヘジオナウ」と「アンゴラ」に分けられます。前者は、スピーディーでダイナミックな動きをします。多くの日本人にとってのカポエイラのイメージは「ヘジオナウ」と言えます。一方の「アンゴラ」は、かなりゆっくりと動くので、私はカポエイラ版太極拳と見なしています。ただ、近年、多く行われているものはダンス的な要素が強調されて、どちらとも言えないようで、これは「コンテンポラニア」と呼ばれているようです。

逆立ち戦法の成立に対する代表的な説明

カパエイラというと逆立ちで戦うイメージが強く、実際、そんな動作は多いです。なぜ、逆立ちをする必要があったか、従来から言われている代表的な説明を批判的に検討したいと思います。まず、サトウキビ畑で奴隷として労働に従事していた人々は手枷が付けられており、手が自由に使えなかったから足で戦ったという説があります。これは、ちょっと考えると、おかしなところが分かります。手で攻撃が不可能なほどの枷が付けられていたら、まず、労働ができないし、逆立したところで、大した動きはできません。現在のカポエイラの動きを見れば、手を固定した状態ではできないことが明らかです。もう一つの有名な説は、わざとアクロバティックな動きをすることで、踊っているように装いながら戦う練習をしていたというものです。先ほどの説に比べると、かなり無理がないのですが、これはカポエイラの特にアンゴラの基調となる前屈不自然体について説明ができません。

アフリカの風景に馴染む前屈不自然体

前項目の最後に出た前屈不自然体は、自分で勝手に付けた呼び方で、カポエイラの学習者がどう呼んでいるかは知りません。これについて説明すると、アンゴラでは、相手と対する時に相手に尻を向け、前屈し、股の間から相手を見るといった体勢が良く見られます。日本では、武道で相手に対する場合、力を抜いて、背筋は真っ直ぐに半身をとって立つ姿勢が、大抵、推奨されます。これは、自然体と呼ぶので、それに対して、アンゴラでの対峙姿勢を前屈不自然体と呼ぶことにします。この姿勢は、日本人にとっては奇異に見えますが、実は、アフリカの田舎では日常的によく見かけます。例えば、たらいで洗い物をする時、地面に置いた収穫物をより分ける時など、アフリカ人は日本人のように膝を折ってしゃがむことはせずに、足を伸ばしたまま、腰を深く曲げます。アンゴラのように股から向こう側を覗くわけではないですが、まあ、姿勢としてはそっくりです。つまり、低いところで手作業をする場合に極めて普通の姿勢なのです。

サトウキビ畑の戦闘スタイル

上にも書いた通り、カポエイラはサトウキビ畑で生まれた戦う技術です。そこで戦いが起こった場合、最も、手近な武器はなんでしょうか。それは収穫して、短く切られて積み上げられたサトウキビでしょう。もし、相手がサトウキビを手にして、自分は手にする物がなかったら、一番の脅威は、サトウキビで頭を叩かれることです。頭を叩かれないためには低くするのが安全です。こう考えると、前屈不自然体をとる必要性が理解できます。なぜなら、これがアフリカ系の人にとって、頭を低く保つ自然な姿勢だからです。こんな姿勢をとれば、反撃には足技が主体となることも理解できます。つまり、徒手で短棒に対抗するために発達した戦闘スタイルがカポエイラの原型ではないでしょうか。

まとめ

以上は、特に実証したわけではない、推察の範囲を出ないものですが、話としてはそこそこ面白いと思います。こうした考察は、私が、たまたま、スポチャンで小太刀を学び、短棒で頭を叩かれることの怖さが身にしみており、また、アフリカ滞在経験が長くて、前屈不自然体がアフリカ人には自然な姿勢であることを知っていたためにできました。それでも、カポエイラをきちっと習ったこともない私にできた推察であれば、他にも気がついた人がいるはずです。それが世に出ないのは、秘伝となっているなどの理由があるのか、また、単に私の推察が明後日の方向を向いているかのどちらかでしょう。この記事を読んだことで触発されて、もっと、優れた推察をしていただけるならば、幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?