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#03. 開発の成果を特許に結び付けよう

 今回の記事も前回に続き、特許ノルマに毎年追われるエンジニア、これから特許に関わるであろう未来のエンジニアに向けた記事になります。前回の記事をご覧になっていない方は↓からご覧ください。

 前回の記事では、発明を創出するために必要な心構え、を書かせていただきました。今回はそこから少しステップを進め、成果を特許に結びつけるために必要な考え方について書いていきたいと思います。

1.特許創出に必要な3つのもの

 前回の記事でも少し触れましたが、特許に必要なものは以下の3つです。

①(発明が解決すべき)課題
② 課題を解決した手段
③(課題が解決したことによる)効果

 ここで、この「②課題を解決した手段」が新規であることも必要です。開発業務に携わっている皆さんは、何かしら新しいことに取り組んでいると思いますので、まずはご自身の業務を振り返って、自分の開発成果をこの①②③に当て嵌めることから始めましょう。前回記事にも簡単な事例がありますので、それも参考にしてください。

2.新規性は1点でよい

 いざ当て嵌めをしてみると、なかなか難しいと思います。①も②も③も、初めはなかなか一言で表現できないものです。逆に言うと、この①②③を簡潔に表現できる人は、発明のツボを知っている人で、特許を年間に何件も発想してしまうタイプです。

 特に難しいのが、「②の課題を解決した手段」を簡潔に表現することです。①の課題をうまく簡潔に表現したとしても、②だけ長々とした表現になってしまいがちです。この「②の課題を解決した手段」こそが特許において最も重要な請求項1の原型になるため、難しくて当たり前です。

 そこで必要な思考は、新規性のポイントを1つに絞ることです。

 よく、弁理士の先生や知財部の人がする「今回の発明のポイントはどこですか?」という質問に対して、求められている回答がそれなのです。

2.1 具体例

 例えば、世の中にコーヒーしか知られていなかったときに、コーヒーにミルクと砂糖を加えた飲み物を開発した、とします。すると、開発の方は、↓のように考える方が多いようです。

(開発の要望)
・コーヒーにミルクだけでは甘みが足りない
・コーヒーに砂糖では口当たりがよくない
→コーヒーにミルクと砂糖を加えたものを特許化したい

 しかし、特許を扱っている人間からすると、これは①コーヒー+ミルク、②コーヒー+砂糖、の2件の発明にしたいと思うのです。これは、ミルクと砂糖のどちらか一方を加えることで新規性があるからです。

 このくらい単純な具体例にすると、そんなこと分かってる!と思う方もいると思いますが、実際の現場ではこれができない人が多いのです。私は「今回の発明のポイントはどこですか?」の質問と同じ意味で「今回の製品の技術的な特徴は何ですか?」と質問してしまうことがあります。すると、あれもこれも新しい、と回答が返ってきてしまうのです。その1つ1つを紐解いて、新規性のポイントに対し課題をあてがって、特許として仕上げていくのが我々の仕事ではあるのですが、この新規性のポイントを1つに絞ること、ができている発明者とは話が早く進むので、ありがたく思うわけです。

3.課題と解決手段はいつも友達

 もう少しコーヒーの例を使います。①コーヒー+ミルク、②コーヒー+砂糖、を別々の発明にするための検討を進めましょう。

 実際に製品化する「コーヒー+ミルク+砂糖」は、甘みがあって口当たりも良いコーヒーになっていると思います。ただし、特許としては2件に分けますから、それぞれの解決手段に課題と効果も合わせていきましょう。すると以下のようになります。

①コーヒー+ミルク
課題:従来のコーヒーは口当たりが悪かった
解決手段:コーヒーにミルクを加えた飲料
効果:口当たりのよいコーヒー飲料を提供できる
②コーヒー+砂糖
課題:従来のコーヒーは苦みが強かった
解決手段:コーヒーに砂糖を加えた飲料
効果:苦みを抑え、程よく甘いコーヒー飲料を提供できる

 発明のポイントを1つにするためには、課題も1つにする必要があります。そして、↑の例は2つとも、「新規性を出したポイントで課題を解決し、その新規性を出したポイントで発明の効果が発現する」という形になっていることがご理解いただけますでしょうか?これが一番美しい特許のストーリーです。

 私たちは日常的に膨大な件数の発明を扱うので、発明の一行要約をよく作るのですが、「○○分野で△△を解決するために□□を用いる」といった具合にまとめます。なので、発明者の皆さんも今回まとめたような形で自分の発明をまとめられるようになると、弁理士や知財部と話がまとまるのが早くなることでしょう。

3.1 課題のでっちあげ

 最後は少し上級テクニックについて触れたいと思います。

 ②コーヒー+砂糖の発明をまとめていく際に、他社から『紅茶+砂糖』という発明(先行技術)が見つかり、その発明の課題が『紅茶の苦み(渋み)を抑える』だったとします。すると、

「先行技術にはミルクが開示されていないから、ミルクの限定を入れて出願したい」

なんて思ったりしませんか?

 私だったら、そんなことはさせません。この場合でも、②コーヒー+砂糖には新規性があるわけで、コーヒー+砂糖のみで特許をとれる可能性があるからです。進歩性が審査される段階で、この先行技術が邪魔になるかもしれません。しかし、そもそも進歩性は新規性が認められて初めて審査されるものです。なので、解決手段を変えずに、課題と効果を変えてチャレンジしますね(当然、サブクレームにはミルクを入れると思いますけど)。そこで、行うのが課題のでっちあげです。表現は良くないですが、例えば、課題を開発上の本当の課題から、コーヒー特有の特許上の課題に置き換えてしまうのです。そうしてしまえば、紅茶の先行技術に対して進歩性を主張することは十分に可能です。課題と解決手段はいつも友達です。また前回の記事でも課題は効果の裏返しであることを説明しました。つまり、この課題と解決手段と効果という3人の関係が悪くなれば、特許としてストーリーは成立しなくなります。だから、この3人の友人関係を崩さぬよう、微修正を加えていくことで発明の体をなしていくのです。


 企業によって、知財部の人間が発明のどの段階から関わるのか異なるため、今回の話は全部知財部や弁理士さんの仕事じゃないか?と考えられる人もいるかと思います。ただ、知財部の自分が言うのもなんですが、発明を形にするまでの仕事ってそんなに難しいものではないんです(今回の話は、明細書を全部書くレベルの話じゃないですし)。今後も私は投稿を続けると思いますが、その目的は特許というものは身近なものであって、多くの人が創出できるものだと感じてもらうことです。コロナの影響で各企業は出願を絞る方向に行くと思いますが、発明者による発明創出活動は絞ることなく行っていただきたいと思います。本日はここまで!

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べんりんしゅん@知財部
記事を読んでいただきありがとうございました。 支援をいただければ、また新しい記事を書くモチベーションに繋がります。よろしくお願いします。