#04.材料屋さんが知っておきたい特許のポイント~その1
この記事は、主に材料に関する特許を発案する人に向けた記事になります。
開発時代の話になりますが、私は20件ほどの筆頭発明の特許があります。そのほとんどが機能性材料とその材料を用いた機器、装置の発明で、いわゆる材料屋でした(いまは何でも屋です)。
本日書くことは、自分が開発時代にやってしまっていたミスがほとんどです。エラそうな口調が出てくる文章になるかもしれませんが、自身の体験談であることを先に白状しておきます。
1.比較例はクレームの範囲外にする
材料分野の特許は、実施例と比較例の記載が重要なことは皆さんご存じかと思います。タイトルを見て、そんなことしないよ!と思う方も多いと思うのですが、比較例がメインの請求項の範囲に含まれている、というミスをしてしまうことがあります。例としては、こんな感じです。
(例1)
【請求項1】AとBを含む化合物。
【請求項2】前記Aの含有量が20質量%以上80質量%以下である請求項1の化合物。
比較例1 Aの含有量が10質量%。評価 ×
こういうことをしてしまうと、審査官から請求項1に対し、サポート要件違反の拒絶理由をいただくことになります。そして引例の有無にかかわらず、請求項2に限定させられます。先行技術がないのに、自ら権利範囲を狭くしてしまうような特許にしてはいけませんよね。また、仮にこのまま登録になったとしても請求項1には無効理由が残ってしまいます。
この場合、比較例1は評価を△と変えて実施例に変更し、請求項2でサポートする実施例の評価を〇とすることにより、請求項2でサポートする実施例をより好ましい形態とすることができます。知財や事務所の方で何とかしてよ!と思う方もいると思いますが、知財や事務所の先生は実施例のデータを作ることはできません。なので、知財や事務所の先生に公開する段階で、データの優劣をしっかりと定めておきましょう。
普段から物性を少しでも高めようとしている研究開発系の皆さんが陥りがちなミスだと思っています。
2.パラメータの臨界意義は自社の基準で決めない
次は、請求項1が以下のような場合について考えてみましょう。
(例2)
【請求項1】
AとBと、を含む化合物であり、
前記Aの含有量が20質量%以上80質量%以下であることを特徴とする化合物。
無機材料の組成特許であれば既知の元素の種類・含有量を選択することになります。なので含有量や、物性等のパラメータを数値規定することによって特許を取得するケースがほとんどだと思います(有機材料も考え方は同じです)。なのでパラメータを規定することによって特許性は高まるので、パラメータを規定すること自体は悪くありません。ただし、そのパラメータの好ましい数値を決める基準を、自社の基準のみで決めてしまうことがあります。これはやめましょう。
上述の例ですと、「Aの化合物が20質量%未満だと○○してしまう。一方、80質量%を超えると△△してしまう。」という臨界意義を記載しますよね。このときに、自社の製品規格を満たしたのがこの範囲だから、といった理由で臨界意義を決めるのは絶対にNGです。自社と他社でそもそも規格が異なりますし、他社が少し性能を落としてつかったり、他社がその範囲を逸脱しても使いこなせるプロセスを開発したときに、簡単に逃げられてしまいますよね。
自分たちの技術を守る!という意識で特許のアイデアを発想している方が陥りがちなミスです。
クレームをサポートするために実験して用意できる実施例の種類にも限界はあるかと思いますが、少なくとも自社基準よりは広い範囲をクレームにできるように、それをサポートする実施例を準備しましょう。落としどころとして自社基準で定めた範囲を使うことはOKです。
3.比較例は実施例と比較できるものですか?
例2のケースでこちらも説明します。
例2の請求項1をサポートする実施例は、Aの含有量が20質量%以上80質量%以下である化合物、ということは皆さん分かると思います。次のサンプルは比較例として、適当がどうか考えてみましょう。
(サンプル1) Aの含有量が10質量%、Bの含有量が90質量%
(サンプル2) Aの含有量が20質量%、Bの含有量が70質量%、Cの含有量が10質量%
(サンプル3) Aの含有量が20質量%、Cの含有量が80質量%
(サンプル4) Bの含有量が10質量%、Cの含有量が90質量%
サンプル1は比較例として適当です。この結果が実施例に対して劣っていればよいですよね。これは多くの方がわかると思います。
サンプル2は比較例として不適当です。これは実施例です。請求項1はCを含むことも許容しています。また、サンプル2はAもBも含んでいて、Aの含有量も請求項1の要件を満たしているから、比較例ではなく実施例になります。
サンプル3、4はいずれも比較例として不適当です。例2は「AとBを含む化合物」だけでクレームにしていないことかわかるように、「AとBを含む化合物」は知られてるのだけど、その中で「Aの含有量が20質量%以上80質量%以下である」ことにより「AとBを含む化合物」では知られていなかった効果を見出した発明になります。そのため、「AとBの少なくとも一方を含まない化合物」は従来技術とはならず、比較例に持ってくるべきものではありません。
これに関しては、明細書上あっても大きな問題にはならないので「ミス」というのは言い過ぎかもしれませんが、なくても良い記載だということは知ってもらいたいです(私は発明者時代にきちんと知っておくべきだったと思ってます)。この記載をするために、比較例用の実験で時間とお金を使ってしまったいる方も多いと思いますので。
まだ、もう少し書きたいことがありますが、それは次回にしたいと思います。本日はここまで。読んでいただきありがとうございました。