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#05.材料屋さんが知っておきたい特許のポイント~その2

 この記事は、主に材料に関する特許を発案する人に向けた記事になります。前回記事も同じ話題ですので、ご覧になっていない方はぜひとも読んでください。

1.セットクレームの重要性

 材料屋さんの発明のカテゴリといえば「化合物」、「組成物」、「○○材料」といった類のものが、皆さんの頭に、まず浮かぶと思います。このカテゴリのクレームもあってよいのですが、この化合物を用いた機器、装置、デバイス、モジュールといったセットクレームを用意した方が絶対に良いです。

 理由は、権利行使の対象が広がるためです。具体的には、権利行使の対象が以下のように変わります。

①セットクレームなし、材料クレームのみ
(行使可能)
・私たちが特許権を取得した材料を製造・販売等をした第三者
(行使負荷)
・その材料を第三者から買って、装置を製造・販売した装置メーカー
②セットクレーム、材料クレームあり
(行使可能)
・私たちが特許権を取得した材料を製造・販売等をした第三者
・その材料を第三者から買って、装置を製造・販売した装置メーカー

 また、権利行使の対象が変わると同時に、訴訟で買った際に得られる賠償金の金額も変わってきます。①のセットクレームなし、材料クレームのみの場合は、材料が売買された値段に基づき賠償金が決定されますが、②のセットクレームありの場合は、装置の値段に基づき賠償金が決定されるからです。なので、自分たちが開発した材料がどのような装置に好適に用いることができるのか?を、きちんと理解して、その情報を知財部や特許事務所には伝えた方がよいです。

 また、材料メーカーもセットクレームを立てると良いことがあります。

 材料メーカーはセットメーカーに材料を買ってもらった段階で材料の特許の権利は消尽しますし、買ってくれたセットメーカーに装着クレームを権利行使することはないてわすが、

 セットメーカーが分析して材料を内製化した際に、セットクレームまであれば材料のみならず装置まで侵害を訴えることが可能になります。セットメーカーにとっては、いい意味で邪魔なクレームになると思います。

2.完成品から分かる特徴を抑えましょう

 これはセットクレームのみならず、材料のクレームを立てるときにも言えることなのですが、発明の特徴(構成要件)は完成品から分かるものを揃えましょう。

 例えば、『AとBを含む化合物であり、前記Aの含有量が20質量%以上80質量%以下であることを特徴とする化合物』という発明をしたとします。

 このときAの含有量は、化合物を完成する前の出発原料の配合比で説明する方が多いです。化合物と、出発原料の配合比と、が変わらないから良い!と言われる方もいますが、完成した化合物から検証できる表現にしていただきたいです。そうしないと、他社製品を分析した自分たちの特許を踏んでいる!なんていうことが言えないからです。

 そう考えると、世間でよくみられる組成比を規定する特許というものが、本当に権利行使できるか微妙に感じてくるかと思います。測定方法もさまざまありますし、その方法によって値が異なるときもありますよね。

 また、有機材料の特許で、硬化物(重合物)の特徴をモノマーやオリゴマーの含有量で説明される方も良く見かけます。これもやめた方がよいです。重合体からモノマーは推定できるとは思いますが、あくまで”推定”ですよね。硬化物をほかの特徴で説明できるのであれば、ほかの特徴でクレームを作ってもらえるようにしましょう。

3.パラメータの検証方法は詳しく書こう

 完成品から分かる特徴をクレームするわけですから、そのクレームで特徴づけた物性や組成比といったパラメータの検証方法は、丁寧に知財や事務所に詳しく説明しましょう。装置のメーカーや型番のみならず、測定条件、環境温度や湿度もあった方がよいです。また、測定した後に演算するパラメータに関しては、その計算処理の方法についても詳しく説明しましょう。

 欧州では、クレームにパラメータを入れる場合に、そのパラメータを測定した手段をクレームに入れる場合があります。例えば、『○○法によって測定した発光強度が△△以上の発光材料』といった具合です。日本の特許でも入れている人もいますが、そこまで主流ではないです。でも私は、この○○法等の手段も入れた方がよいと思っています。理由は権利行使の際に、相手の抗弁を潰せる可能性があるからです。

 例えば、この特許の特許権者がB社の製品を分析して、うちのパラメータの範囲に入っている!と発見したとします。ここで、『○○法によって』という枕詞がないと、B社は××法だったら△△以上にならなかった!と抗弁(反論)が可能になります。『○○法によって』という枕詞がクレームにないと、どんな方法によっても△△以上の発光強度がないと、そのクレームは成立していないとみなされるおそれがあるためです。

 ただし、クレームに『○○法によって』と入れなくても、明細書の中で『実施例では、発光強度は○○法によって測定した』と一文入っていることによって、上述したB社の抗弁は潰せる可能性はあります。逆に明細書の中で『発光強度はA法やB法やC法によって測定できる』とだけ書いてあると、A法、B法、C法のいずれもで△△以上の発光強度がないと、解釈されるおそれがあります。気を付けましょう。

 本日はここまでです。読んでいただきありがとうございました。

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べんりんしゅん@知財部
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