第七話 pajiroにて②

「おっと、申し遅れました。私はパジ。この世界で本物のDAOを作ろうとしているラーメンpajiroの店主です」

一瞬皆の間に静寂が流れる。

「えっと」
「その」
「なんというか……」
「DAOってなによ?」
「だお?」

5人ともキョトンとした顔でパジを見つめる。揃いも揃って頭の上にははてなマークが浮かんでいる。

「あー、やっぱりその質問くるよねー」

ガラガラガラ

どこからともなくビアンカがホワイトボードを持ってきた。客席に出てきたパジはマジックペンを取り出しホワイトボードにサラサラと文字を書く。

「DAOは、自立分散型組織の略……なんだけど」

パジは振り返り様にみんなの表情をチラッとみる。

「多分これだけ聞いてもわけ分かんないよね
?」

5人とも大きく縦に頷く。
以降様々な角度から説明を試みるも概ね皆が「何が分からないのか分からない」そんな状態に陥った。

「とりあえずこれまでの組織の形とはちがうものなんだよねー」

腕を組みながらどう説明したものかと悩むパジに背を向け5人は円を作りヒソヒソ話をする。

「えっ、なになに?マルチの勧誘?」
「ちょい怪しいよねー」
「やばい店かもしれないけど今日はこのまま泊まらせてもらうしかないよな」
「僕はなかなか面白そうな気がするけどなー元々仮想通貨とか新しいもの好きだったから」
「眠くなってきた……」

5人はパジの方向へ向き直る。

「ところでパジさんはどこでラーメン屋の修行をしたの?元の世界ではゲーマーだったんでしょ。どうやってこんな美味しいラーメンを作れるようになったんだ?」

SekkaはDAOの話題からひとまず逸れるような尚且つ自分が関心のある話題を振ってみる。

「あーそれはね。この世界にきた後でラーメンDAOっていう大きなDAOに入って修行したんだよ」

脇道に逸れるどころかまた疑問が増えるような話題がブーメランの如く返ってくる。

「は?それだけ?」
「それだけ。修行自体もAIが上手くプランを作ってくれてて、ゲームみたいで楽しかったよ」
「何ヶ月で独立したの?」

Sekkaは質問の度に一歩ずつパジに歩み寄る。

「この世界、時間や日付の概念がハッキリしてないからなんとも言えないんだけど……体感1ヶ月くらいかな」
「1ヶ月でぇぇ!?こんな美味いラーメンを!?」

Sekkaは思わずパジの肩を揺すろうとするがビアンカがすかさず仲裁に入り引き剥がした。まるで凄腕SPのような動きだ。

DAOとは一体なんなのか。5人の頭の上にはますます疑問符が積み上がっていく。

「うーんと、このお店ラーメンpajiroは ラーメンDAOのサブDAOみたいなものなんだよね。ラーメンDAOに企画案を挙げて予算を要求してこのお店を立ち上げたっていう経緯がある」

まだDAOの解説を諦めていないパジ。

「サブDAOってつまりは……コンビニのフランチャイズ店舗みたいなもの?」
「フランチャイズとはちょっと違う。ラーメンDAOからは手数料を取られたりしないからね」
「ラーメンDAO……すごいなぁ」
「まだ全然よく分かんないよーDAO」
Victoriaが頭を抱える。

各々がとらえどころのないDAOに対して例え話的な話をパジに持ちかけ議論する一時がしばらく続いた。

「DAOは中央がスマートコントラクトで自動化された組織なんだよ」
「スマート……コントラクト?」
「うわぁぁまたよく分からない単語出てきたぁぁぁ」
今度はEricaが頭を抱える。
Azusaに至ってはもはや睡魔に耐え切れない様子で先ほどからふらふらと左右に揺れ動いていた。

ふたたびパジは腕を組む。何か考えているらしい。

「例えばだけど……キミたちが属していた組織にはリーダーや意思決定者が誰かしらいたよね?」

パジはホワイトボードに丸を一つ描く。
皆は様々に職場やバイト先の上司やグループのリーダー等を思い出す。

「そのリーダーたちが、ソフトウェアに置き換わる。ソフトウェアは分散型の、自立したプログラムなのが前提ね。その周りでは変わらず人間たちが活動している。そんなイメージだよ」

「それで"自立分散型"組織か……」

Daisyは顎に手を当てて理解を示す。

「待って待って。それのなにがいいんだ?」
「プログラムがあれこれ決めるのって融通効かなそうよねー」

SekkaとVictoriaがパジに問いかける。

「それは……自分の胸の内に聞いてみるのが一番いいかもね。組織や社会に不満を持った出来事を思い出してみるとヒントがあるかも知れない」
「えーそこ重要。教えてよー」
「今日はもう夜も遅いからまた明日。夜更かしは苦手なんだーおやすみー」

パジはあくびをしながらそそくさと地下室らしき階段へと消えていった。

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