おまわりさん、あいつです
あれ、ここって俺が目指してたとこじゃねぇんだけど。逆方向のゴールで目覚めた。日が変わってるよ、また調子乗って飲み過ぎたな。あ~もう帰る手立てもねぇ。まぁいいや、この熱気だからそこらで寝られるわ。俺は駅の改札をくぐり駅の出入りのロータリーの一角に腰を落とした。カバンを後頭部に持っていくと、仰向けでまた夢を見ることにした。明日も仕事かよ。まぁ遣りこなせるポテンシャルがあるから俺もつれぇんだけど。潜った修羅場の数が違うからな、その辺のバカとは。自惚れて体勢が固まったらすぐに鬼のような眠気に襲われ、それに身を任せた。で、すぐに落っこちた。
「ちょっと起きてください、こんな所で寝てたらダメだよ」
俺はその声と体の揺さぶられるので目が覚めた。見覚えのある制服が目に入った。またかよ。
「通報があって来たの。ほら靴も脱げちゃってるし、ダメだよこんな所で寝てたら」
酔いでままならない焦点を無理矢理収縮させた。多分こいつ俺より若いな。
「もう大丈夫そうですんで、ありがとうございました」
警官が私服の男に声をかける。
「じゃあ私は帰りますね」
俺を見下ろして歩き去るそいつが恐らく通報した奴だ。てめぇが犯人か。一度リアルに言ってみてぇ台詞だな。寝てるだけなんだから放っとけ馬鹿野郎。大体こんな時間に外ほっつき回ってるお前もお前じゃねぇか。今何時か分からねぇけど。俺は右足からこぼれた靴を手繰りながら辺りをふいっと見たら、警官は他にもう二人いた。大捕物かよ、呆れた感じで俺を見ている。ほんとに寝てただけだぜ俺は。
「今何時ですか」
俺が尋ねると
「三時です」
と警官が言った。まだタクシーもねぇし電車もねぇ。会社は割に近いが、歩いて行くには遠いしなぁ。
「もう起きたんで大丈夫ですよ」
俺が不貞腐れてそう言うと警官は呆れながらパトカーに引き返してった。お疲れ様でしたね。ただせめて五時ぐらいに起こして欲しかったぜ。俺はやれやれと立ち上がると、飲み終わりで腹が減っている事に気が付き、とりあえず目の前の牛丼屋に入る事にした。おまわりさんに説教された後に食うって、テレビでたまにある取調室とカツ丼のくだりかよ。ほんとムダにしぶとく出来てやがるな、俺って奴は。
牛丼屋から出て、仄かに脳裏に残った地理を頼りに会社の方へ歩きだした。駅前は週末の喧騒から大分静かになっていて、そこから田舎道を更に寂しい方向へ進む。日中はいつも俯いて歩くところを、ふと見上げてみると、そこには星空が広がっていた。田舎ならではだな。たまに見るとキレイなもんだねぇ。せめて人がまわりにいない時ぐらいは、上を向いて歩くか。まだ残る酔いに任せ掠れた口笛を遠慮なく鳴らして、田舎町を彩ってやった。