夜の公園で
最近は毎日酒を飲んでいる。早ければ日中から濃いめの酒を飲んで鬱々とした心を気付けてフワフワさせてる。ただその酒にも体が慣れてきて、がっつり陶酔するというのも段々となくなってきた。正味眠気を誘ってくれればって期待もあるんで二リットルぐらい飲んでの酒の酔いで横になるが、大体二三時間で気絶から覚醒してしまう。夜に寝てまた夜に目が覚める。朝日が見えたところでようやく疲れからくる眠気に襲われるが、その時間には仕事に行くので外に出なければならない。それでまた嫌な人間を見なければならず、致し方なくこうして書いて憂さを晴らしている。まぁ俺の書く内容は毒があって面白いので、それで読み手が楽しんでくれてればと無理矢理な妄想を絡めてちょっと意味合いを出すが、そんなの何人もいねぇだろうしなとまた虚しくはなるけど、まぁそれはやらざるを得ない事だからやり続けるので良いとして、ここから今日の話を書いてみようと思う。
飲んでる酒は濃い方の角ハイボールの500ミリ缶で、それを毎回四本買ってる。調子が良いと全部飲んじゃうし、たまにそれで足りなくなる時もある。俺はタバコも吸うので、天気が良ければ近くの公園に位置取りして、人少ななそこで気を遣わずタバコを吸って酒を飲む。で、爆音で後ろめたい歌をイヤホンで聴きながら、手持ちのスマホを頼りに野暮ったい時間を塗り潰している。たまにバカなヤングが邪魔くさい音をたてるが、大体奴らも俺の存在を察するとどっかに消えていく。俺も俺でそういう奴らには殺気を出しているから、むこうからすれば所謂最近事件を起こすような類のアブナイ奴だと俺を踏んで関わらないようにしてるんだろ。まぁ俺はそこまでじゃないんだけどね。その一歩手前だから。で、実際フィジカルも弱い見掛け倒しだから、実際逆上して絡まれても俺が困るし。だからケツのポケットには一応ボールペンを挿している。武器がないと敵わないから、念の為自己防衛としてね。逆手に持って急所を一回刺すぐらいなら俺にも出来るだろうし。まぁやりませんけどね、そんな恐ろしいことは。でも今までの経験則からしてそれが全く無いってのも考え難いからな。何せ俺はハエが集るクソみたいな人間だからね、もしハエが来たら叩くしかないよやっぱり。
今日は夕方の一時に通り雨が降ったせいか、涼風が軽く吹き流れる穏やかな外だ。あ〜こんな夜はなんだか良い事がありそうだなぁとは経験則から全く思わないが、そんな俺にも平和な気持ちが少しだけ通って今日はまだ死ななくていいかなとかぐらいは思った。俺がいつも掛けるベンチに買ってきた飲み物を置いて、だらしなく体を預けると、酒のうちの一本を取り上げてタブを開けてグイッと飲む。流石に飲み過ぎてるから新鮮さはないが、今日も俺を気絶させてくれる事を期待して飲み進めていたら、対面の入口から子を連れた三人組が入ってきたのが分かった。もう七時過ぎなのに。辺りも暗いから帰ったほうがいいよ。俺みたいなのもいるし。と、その子供は元気よく辺りを駆け出す。まだ三四歳ぐらいかな。幾つか遊具があるが、何故か俺がいる方にやって来る。勘弁してくれよ、お前がこっちに来ると迂闊にタバコ吸えないじゃねぇか。そのぐらいの安いエチケットは俺にも備わってる。あっち行ってくれと思いながら見ていたら、本当に不思議なもんで、その子供はいよいよ俺の目の前までやって来た。その後を父親が付いている。大丈夫かおい、ドギマギするじゃねぇか。父親からすれば異様な俺に警戒している筈だった。するとその子供はなんと俺が掛けている三人掛けのベンチの唯一空いてる端に座りだした。ウソだろ、おい。子供は俺を見てニコニコしてる。
「こんばんは」
父親の手前無視する訳にもいかず、変な拍子で俺はぎこちない挨拶をした。子供はそれで何かを言っていたが俺はそれが全く聞き取れなかった。まだあんまり喋れないのかな。子供はそこに掛けながら、父親に履いてるサンダルの砂をとってくれとねだって、父親もそれをしてやっていた。俺は所在なく酒も置いて黙ってそれが終わるのを見ていた。子供はそんな俺をずっと見ながらニコニコしていた。ダメだよ、俺にそんな笑顔を向けちゃ。俺みたいなの見たら、今度からすぐに離れるんだぞ。俺は無言でそうアドバイスしていたが、それでも子供は俺から目を反らすことなくずっと俺に笑いかけていた。父親も俺に申し訳なさそうに子供の要求をこなしていた。子供は俺を見ながら何か言っていたが、これだけの至近距離でもやっぱりそれが何だか分からなかった。子供の両足を綺麗に払ってやると、父親は子供に
「じゃあ行くよ」
と言って、子供がベンチから立ち上がった。子供はずっと俺を見ていた。父親は去り際に俺に頭を下げながら
「ちゃんと挨拶して」
と子供に優しく諭した。と、その子は俺に
「バイバイ」
と笑いながら手を振ってきた。それは俺にも理解できた。俺はまだシラフだったからまたぎこちなく
「じゃあね」
とだけ返すと、それで何とも言えない気持ちになった俺を残して、その三人組は公園から去って行った。いなくなったのを見送って、俺はまだ大分中身が残っていた酒の缶を手に取ると、またそれを口に運んだ。あれはハエじゃねぇな。スズメだわ。一応褒めてるんだけど。本当は天使だったかも知れないけど、俺にそんな気持ちを与えてくれる天使にしちゃあの子が可哀想だった。やっぱり子供は俺が優しいのが分かるのかもな。まぁ顔が面白かったんだろうけどといつもより大分薄い毒しか出て来ない。ちょっと気分が良いのは、多分酒が効いてきてるせいだ。どうせ、きっとそうさ。たまには神様も粋な事をするもんだ。本当たまにしかないけどな。俺も神様には嫌われてんだろ。まぁいいや、今晩はそれで。俺はさっき遭ったそれをまた思い出して、三本目の酒に手を伸ばした。