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寺院後継者不足の救世主?派遣坊主は”アリ”か?私の見解を述べます

 全国各地で、僧侶が葬儀や法事に駆けつける「出張サービス」が僧侶自身によって立ち上げられ、話題を呼んでいます。

 例えば、こちらの記事では、現役の住職が僧侶不足という課題を解決すべく、このようなサービスを立ち上げたと説明されています。

 また、こうした動きに対して、全日本仏教会の和田事務総長が取材に答えています。人々の寺離れが進み、寺院経営が窮地に立たされている今、寺院と世間を繋ぐ救世主として注目を集めているのです。

 本記事では、「僧侶派遣サービス」のビジネスモデルや実態を指摘した上で、寺院が今後どのように立ち振る舞っていくべきかを考察します。


僧侶派遣サービスは「僧侶の質」次第

 まず前提として、私は「僧侶派遣サービス」を全否定するつもりはありません。都心を中心に、地元から離れた場所で生活をしている方々にとって、菩提寺との縁が薄くなるのは事実であり、一定のニーズがあることは間違いないからです。

 ただし、私が懸念しているのは、派遣される「僧侶の質」です。

 例えば、ある寺院で生まれた次男や三男は、僧侶になるための修行を通じて確かな経験を積んでいますが、基本的には長男が住職に就くため、肩身の狭い思いをしていることが多いのです。

 真言宗では、宗派ごとに規定は異なりますが、まず所属するお寺に入寺することから始まります。その後、師僧に認められて弟子となり、一定の見習い期間を経て、髪を剃る「得度式」という出家の儀式を行い、宗派に登録されます。

 その後、立ち居振る舞いや読経の仕方を学びながら、師僧のお寺で勉強を続け、必要な修行過程を経ます。真言宗では、「加行」という修行を終え、「灌頂」という儀式を受けた後、僧侶としての資格を得ることができます。これで初めて正式な僧侶として認められます。

資格がないのにもかかわらず僧侶として活動する者も

 しかし、真言宗を例に挙げると、僧侶の資格がないまま、修行を経ずに僧侶として活動している者もいます。宗派不問で僧侶を派遣することに違和感を覚えるのもそのためです。また、僧侶としての資格もない人間が読経していることは、言語道断です。私は僧侶派遣サービス自体が悪いとは思いません。しかし、「何でもアリ」の状況を正さなければならないと考えています。

 一方で、先ほど述べたように、実家で寺院を運営しているものの、次男や三男であるために派遣サービスに登録した僧侶が法要に臨む場合、その僧侶は自身の寺院の名前や宗派を背負っているため、誠実に仕事をしてくれるでしょう。しかし、中には「しっかりとした経験を積んだのか」や「どの宗派に所属しているのか」などが不明な僧侶が混じっていることも事実です。

 世の中には「安かろう悪かろう」と言われるように、法要において質が低く、責任感の乏しい僧侶が存在するのも現実です。例えば、葬儀を担当した僧侶に四十九日や一周忌の法要を頼んだところ、断られるという遺族の話も聞きます。これは、家族のスケジュールや予定に合わせて自宅や派遣会社から依頼された場所に赴き、バイト感覚で一度きりの読経をしているのでしょう。

 遺族から後日の法要の依頼を受けたとしても、宗派に属していない僧侶は「お寺がない、あるいは、お寺に属していないので引き受けられません」と言ってしまう始末です。総じて、バイト感覚の僧侶には故人や家族に思い入れがないのです。

 また、宗派の異なる僧侶が派遣されることが頻繁にあるとも聞いています。例えば、曹洞宗の僧侶を依頼したはずなのに、派遣会社の都合で真言宗の僧侶が派遣されることもあります。このままだと僧侶の質が低下する以上に、「何でもアリ」な状態になってしまう恐れがあります。

 僧侶派遣は世情のニーズを汲み取ったサービスである一方で、僧侶派遣会社が遺族の「しっかり送りたい」「供養をしたい」という気持ちを踏みにじることも少なくありません。こうした歪んだ状況に歯止めをかけなければならないと考える住職が、数年前から私も含めて多くの住職が僧侶派遣サービスに登録しています。とはいえ、

派遣僧侶サービスを「金儲けの場」と考える人たち

 その中で急成長したのが、葬儀屋仲介サービス会社X社が提供する僧侶派遣サービスです。同社はネット広告を盛んに打っています。こうした僧侶派遣サービスは、菩提寺を持たない遺族がネットで調べて葬儀を依頼する仕組みです。

 しかし、派遣会社は僧侶に対して「遺族に名刺を渡すな」「勝手に新規法要を受けないでくれ」と釘を刺しています。彼らはお布施の約半分をマージンとして中抜きし、僧侶と遺族の直接的な取引を防いでいるのです。

 当初は利用者が少なかった僧侶派遣サービスでしたが、派遣僧侶が増えた結果、寺院の僧侶や特定の宗派に属さないフリーランスのような僧侶が派遣されるケースが増えてきました。つまり、法要を「金儲けの場」と捉えている僧侶が派遣されることが増えているのです。

僧侶派遣サービス会社の経営は著しくない

 しかし、そんな僧侶派遣サービスも実は、経営が芳しくないと言われています。現在、先に紹介した僧侶派遣サービス会社は、葬儀関連商品や仏具、法衣などの「せどり事業」を積極的に行っているそうです。僧侶派遣サービス会社が駒のように扱ってきた宗派不明の僧侶だけが残ったため、サービス品質の低下が問題になったのかもしれません。

 さらに、僧侶派遣サービス会社は、供花や引き出物などの金額が決まっているため、プラン料金に何かを追加して収益を上げるのは難しいことも、低迷している理由の一つです。

 つまり、紹介料として派遣した僧侶や提携先の葬儀場からマージンを取る以外にはキャッシュポイントがないため、位牌や仏壇を業者から安く仕入れて遺族に高く売るせどり事業を行っているのかもしれません。

菩薩寺と信頼関係を築くことが理想

 このように、僧侶派遣サービスは遺族にとっては便利な一方で、質の低下や金儲け目的での利用が増えている現状があります。

 菩提寺との信頼関係を築くことが大切だと私は考えており、今後、各寺院が派遣サービスを運営するケースも増えるかもしれません。

 福島県で始まった派遣サービス「智運庵」のように、しっかりとした資格を持った僧侶が運営するサービスが増えれば、良質なサービスを提供できる可能性も高くなります。価格やサービスの内容が明確であれば、遺族にとっても安心できる選択肢になるでしょう。


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