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いま、増える『墓じまい』で陥る思わぬ落とし穴とは?

 現代では、様々な理由から墓じまいを選択する人が増えています。費用さえ用意できれば簡単に済ませられると思われがちですが、実際には多くの問題が潜んでいます。
 ここでは、現場で起きている問題を指摘しながら、墓事情について詳しく説明していきます。


寺院側から見る墓じまい

 まず墓じまいする人には大きく分けて2パターンの理由があります。1つは独身や結婚していても子供がいないなどの理由により自分の代でお墓の継承者がいなくなる。もう1つのパターンが自分の子供や孫に迷惑をかけたくないからという理由です。  

 墓じまいした後は、寺院や霊園の納骨堂に委託して遺骨を管理・供養する「永代供養」が挙げられます。これは都内で流行り始めた納骨システムで、どんどん地方に広がっていきました。天明寺(以下、当寺)でも早い段階で永代供養を取り入れました。

 その後、近隣の寺院でも永代供養を始めたところも増えたため、差別化する意味でも樹木葬の分譲を始めることにしました。 墓石ではなく樹木や花を墓碑として墓所に埋葬する「樹木葬」は新しい供養の形です。

 当寺では、新しく墓石を建てる数は5年で20件程度にも関わらず、5年間で200区画ほどの方が契約する状態ですのですので、圧倒的に樹木葬に納骨したいと希望される方が多いですね。

樹木葬のメリットとデメリット

 「合祀(ごうし)」とは、いわゆる無縁墓という身寄りのない方などを埋葬する場所に散骨することで今ままでも多くのお寺で取り入れておりました。

 しかし、他者の遺骨と合わせて埋葬することで見ず知らずの故人と一緒になるのに違和感を覚える方も多く、個別に自然に還したいという遺族の想いから樹木葬が流行り始めました。

 自然との共生が1つのポイントとされる樹木葬ですが、木が腐ったり枯れたり、成長に比例して根が張り巡らされ肝心の納骨スペースに悪影響を及ぼしたりとデメリットが多いのも事実。

 そのため樹木葬というのは名ばかりで実際は石を墓碑として納骨していることが多く、シンボルツリーとして1本の樹木が立っているケースが一般的です。  

樹木葬で納骨した石

 また場所によっては樹木葬には期限が設けられていることが多いのもポイントです。賃貸物件と同じように年数によって料金体系が決まっています。

 期間が満了すると指定箇所に散骨してしまう形が主流なんですが、檀家さんとの関係性が切れるのは双方にとっては望ましくないので、当寺では樹木葬も永代に渡って維持管理を可能にしています。

 また本来、人間と動物などペットの遺骨は分けるべきところですが、“一緒に納骨してもらいたい”という要望もあり、現在では樹木葬墓に一緒に納骨しているケースも増えてきました。これが理由で当寺を選ぶ方が少なくないのが現状です。

樹木葬の実態とトラブル

 実は樹木葬が流行した背景には、葬儀社や石材業者の影響があります。彼らが遺族に納骨方法を薦め、売上を得るために樹木葬を進めることが多いですが、寺院とのトラブルが発生することも少なくありません。

 例えば、業者の説明不足によって納骨先の寺院でトラブルが発生することがあります。遺族が仏式の法要が必要であることを知らされておらず、納骨を拒否されるケースが増えています。

 寺院側が遺族に納骨方法や墓の選択を薦めることは少なく、広告営業や段取り決めを葬儀屋や石材業者が担います。仲介する代わりに売上を折半するわけですね。

 寺院を含め3社ともに短期的なキャッシュを得るうえで樹木葬は望ましい形ですが、樹木葬をメインにしてしまったせいで首をしめてしまう寺院が多いのも事実。  

 というのも、葬儀屋や石材業者はキャッシュが欲しいだけなので寺院の場所って関係ないんですよ。遺族に納骨先を提供さえできれば売上が立つわけですから、詳細な説明を怠ったまま段取りを進めていく。遺族も手っ取り早く片付くことを望んでいますからトントン拍子で樹木葬の話が進んでいくんです。つまり寺院を「遺骨の最終処分場」として認識する傾向が強まっていると言えます。

 そうなると納骨を済ませた後も仏式の法事を執り行いたい寺院が連絡を取っても煙たがられることが頻繁にある。長い関係性を築けないことは寺院経営としては失敗と言えるでしょう。  

 葬儀屋や石材業者主導で法要などを進められることの弊害が顕著になってきました。納骨したい業者と受け入れたくない寺院の間で起きるトラブルも増えています。昨年、東京の足立区で石材業者が住職を練炭で殺害した事件を聞いた方も多いのではないでしょうか。寺院側と石材業者との関係構築が上手くいかなかったことが殺害の動機でしょう。

 意見対立を生まないためにも、「樹木葬するお宅の法事や葬儀などは受け入れるお寺で行う」といった契約を寺院側と業者は結びつつ、寺院は樹木葬をされたお宅とのコミュニケーションを取り続けていくことが大切です。

改葬する際に遺族が懸念すべきリスク  

 無事に墓じまいを済ませた後に別の場所に改葬するとなった際、遺族が注意しなければいけないことが2つあります。  

 まず1つ目は納骨先の寺院側とのトラブルです。墓じまい後に新しく樹木葬を行う予定だった寺院から拒否されるケースが頻発していると聞きます。先述した通り業者の説明不足により、納骨だけ済ませられると考える遺族が多いのが問題です。

 受け入れる寺院側からすると「仏式の法要をしないんですか?うちで葬儀してないですよね?戒名は付けてないですよね?」と言って納骨を拒否しちゃうわけです。遺族からしても「法事が必要なんて聞いてないんですけど・・・」となってトラブルが発生します。  

 納骨先を移すだけならまだしも、故人の葬儀に際して都内で樹木葬を検討している方には別問題が発生します。例えば都内には公営火葬場が臨海と瑞江の2箇所しかないことから1週間待ちもザラで、料金も高いんです。遺体安置することに葬儀場や遺体安置所へのランニングコストが発生し、自宅で安置する場合もドライアイスのコストが掛かる。

 もちろん民間運営である東京博善の火葬を利用することも可能ですけど、相場よりも高いので躊躇する方が多いようです。  

 2つ目のリスクに樹木葬していた場所が無許可だったパターンが挙げられます。納骨した墓地分譲地が実は保健所の許可なく建てられた場所だったことが判明し、遺骨を撤去されたケースが横浜で発生しました。

 遺骨を返還された遺族は別の場所への納骨を余儀なくされたと言います。無許可で分譲しているところは意外にも少なくありません。    

 仮に納骨先が無い状態で自分が遺族になったときに故人の遺骨を納骨できないというリスクがあるわけです。トラブルを起こさないためにも、葬儀屋やはかいし石材業者とだけコミュニケーションをとらず、樹木葬をする予定の寺院とも話をすることが非常に重要です。

墓じまい後の費用は?

 最後に、墓じまい後に掛かる費用に触れます。あくまで当寺での話になりますが、まず永代供養料は33万円になります。寺院内の永代供養堂で個別に安置して維持管理しております。お盆の時期や彼岸など案内を差し上げ、年に1度は法要に来ていただくことが一般的です。

 樹木葬は1区内に6〜8霊まで安置することができ、1霊目は245,000円、2霊目からは95,000円を納めていただいております。ちなみに元々あった墓を解体して新しく別の場所に改葬する場合は、場所にもよりますが、数十万円〜百万円くらいの費用が必要になることもあります。

 しかし、実際のところ多額の費用を払ってまで改葬するケースは稀で、地方には放置された墓石が増え続けていることが問題視されています。生まれ育った街から離れた場所に住んでいる人間が、実家の両親も亡くなっていることから菩提寺と疎遠になっている場合、墓石の管理が行き届かなくなり結果として放置してしまうんです。

 菩提寺が遺族の連絡先が分からなくなり、連絡先が分かっても引っ越しており音信不通になっていることが多く、仕方なく寺院が撤去せざるを得ないケースが増えています。  

 寺院は連絡がつかないお宅の墓所の維持管理をしていかなければならないことや新たに墓所を求めている方への分譲も出来なくなってしまうことにもなりかねません。

 そうならないよう当寺では「3年以上お寺に訪れない場合、または連絡が取れない場合は墓石を撤去する」という契約を檀家さんと交わしています。人口流出や核家族化による地域の空洞化が問題になる前は、そういった契約を結ばないことも普通だったわけです。今後さらに増えていくであろう放置墓石への対策が社会的に見直されていくと思われます。

 目まぐるしく多様化していく墓事情の中で誰もが満足のいく弔いができるよう、我々も檀家さんの声に耳を傾けて寄り添う姿勢を忘れないようにしないといけないと強く感じています。


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