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急増するビル型墓地はドル箱ではない。窮地に立たされるお寺ビジネスの思わぬ落とし穴
今年9月、大阪の宗教法人「梅旧院」が破産手続きを開始したことが報じられました。梅旧院は、3000基以上の墓を設置可能な9階建てのビル型墓地を運営していた宗教法人です。
梅旧院は、過去に法人税法違反などの容疑で逮捕者を出したこともあり、一見、経営に失敗しただけだと考える識者もいるようです。しかし、私はビル型墓地そのものが危険であると考えています。
ビル型墓地を運営している宗教法人は、梅旧院と同じように破産する可能性が決して低くないのです。現在、ビル型墓地が直面している岐路について、現状を紹介いたします。
ビル型墓地はドル箱ではない
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ビル型墓地は都心などの地価の高い土地や霊園を作る余裕のない場所における解決策のひとつとして建設されています。言うならば最新の墓であり、高収益を得ているイメージもありますが、実際のところ厳しい経営を強いられているところが多いです。
なぜ経営が厳しくなるかを理解するためにビル型墓地ができるまでの大まかな流れをまずはご説明します。
ビル型墓地の多くは寺院側の働きかけにより、建設の発端となることはほとんどありません。多くの場合はデベロッパーなどの大手不動産会社や石材業者が寺院に対して開発を持ちかけることからスタートします。
そもそもビル型墓地を建設できるだけの資金力を持っている寺院はほとんどありません。そこで出てくるのがレベニューシェアという考え方です。レベニューシェアとは、事業で生じた収益を決められた比率で分配するという方式となります。
例えば、完成したビル型墓地で住職が10万円のお布施をもらったとします。この10万円のうち3万円を住職、残りの7万円が開発を請け負った業者の取り分という風に分配します。
開発後の利益を分配するレベニューシェアを用いることで寺院は、開発に必要なコストを支払わずに済むことになります。レベニューシェア自体は広く一般に採用される方式ですので、墓地が売れさえすれば何も問題はありません。
しかし、ここで問題が発生します。
建設した墓地が思ったよりも売れていないのです。ビルを建てたときのコストの回収すらできないビル型墓地も珍しくありません。
開発コストを寺院が負担、カモにされるケースも
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思ったような収益を生み出せないビル型墓地。そこで開発業者は、寺院側にも開発コストを負担させることを考えます。開発業者から見ると、寺院には潤沢な資金があるように見えるかもしれません。しかし、これまでの記事で紹介してきたように、多くの寺院の経営は厳しいのが実情です。
そして、開発業者が寺院側に負担させようとする開発コストが適正ではないケースもあるようです。
計算を簡単にするためにあえてわかりやすい数字を用います。
例えば、実際には500万円で建てられる墓所の開発があったとします。しかし、見積もり上では1000万円を開発コストとして明記します。そして、売上目標に達成できなかった場合に、見積額の半額である500万円を寺院に請求するという取り決めをしたとしたらどうでしょう。
あとは簡単な計算です。仮に事業に失敗したとしても、500万円を宗教法人側が支払うことで開発コスト自体はペイできます。つまり、どっちに転んだとしても開発業者は赤字にならないというからくりです。
もちろん、適正価格を調べれば妥当な金額でないことはすぐにわかります。しかし、知識に乏しい寺院は簡単にカモにされてしまうのです。
契約していなくても請求されるケースがあった
実際に私の知り合いで、ここまで紹介した流れをそのままなぞったようなトラブルがありました。
その住職は、寺院内の土地を霊園にするための開発を不動産会社にもちかけられました。集客も不動産会社が行うことになり、生じた収入に関してはレベニューシェア方式です。
墓地が建つまでは何の問題もありませんでした。しかし、建った後は目を覆うような結果となりました。
なんと、墓地は1件しか売れなかったのです。1件しか売れていないためか、レベニューシェアも支払われません。
そして、不動産会社から開発費用の一部である1800万円を支払ってほしいと伝えられます。
このケースでは、開発コストについて支払う契約をしていなかったにも関わらずです。
ちなみに、ここまでで紹介したような寺院まわりの開発を事業のメインとしている開発業者は複数あります。
全ての開発業者がそうではないことをお伝えした上で、ある大手不動産会社の実情についても紹介いたします。
ある大手不動産会社の実情
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某大手不動産会社では自社でも事業の一環としてビル型墓地を経営しております。そして、そもそも自社のビル型墓地自体が上手くいっていないのです。
大きな理由のひとつとして費用面があるようです。納骨の費用が約100万円と他よりも高額です。もちろん都内一等地という面もあるのでしょうが、他社では都内でも50万円という価格帯もあるので、おおよそ倍の費用というのは競合も多い中で競争に勝つのは難しいでしょう。
また、こちらの不動産会社では葬儀業務も開始しましたが、同様に伸び悩んでいます。そもそも葬儀自体、過去と比べて費用を支出する人が減少しています。ビジネスとして見た場合、葬儀業界は斜陽産業と言えます。
そんな分野ということもあってか、同社では従業員も定着していないようです。お金を出さなくなってきていて、人も定着しない。そうすると当然のこととして質も低下します。この不動産会社が展開する葬儀ビジネスは「高かろう悪かろう」になってしまっているようです。
つまり、自社で展開しても上手くいかない事業なのに開発を請け負ってしまっているのです。請け負った開発が成功する可能性が高くないことは想像に難くないでしょう。この他、同社では都内に手がけたビル型墓地の負債の返済が追いついていないという話もあります。
このようにビル型墓地の開発については危うい話が少なくありません。ビル型墓地への納骨を検討されている一般の方も気をつけておくに越したことはないでしょう。
ビル型墓地は儲かるビジネスではない
最後に私が住職を務めさせて頂いている天明寺に納骨先を変更した例をお話しします。
天明寺の信者さんでも、かつてはビル型墓地に納骨していたものの都内でのお墓参りのリスクから地方回帰を判断した方もいます。具体的には東日本大震災による倒壊の恐れや、コロナ禍での感染の恐怖などがリスクとしてありました。
これからも納骨の地方回帰しようと思う方は現れると思います。しかし、逆に都心へ移そうと思う人はいないでしょう。離れようと思う人はいても、新たに移し替える人はいないのです。結局のところ、ビル型墓地というものが思ったより儲かるビジネスではないということに尽きるのではないでしょうか。
冒頭で紹介した梅旧院の破産については税金周りのトラブルという点が焦点となってしまいましたが、今後はビル型墓地そのもののビジネスを焦点とした経営危機が続く可能性は十分にあると私は見ています。