過ちを改むるに
現行の著作権法119条3項って、以下のような規定になっています。
3 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、録音録画有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
この規定の何が問題かって、実演家にせよ、レコード製作者にせよ、放送事業者にせよ、有線放送事業者にせよ、送信可能化権は有しているものの(92条の2、96条の2、99条の2、100条の4)、自動公衆送信権は有していない以上、「著作隣接権を侵害する自動公衆送信」というものが存在し得ない点が問題です。
で、文化庁は、令和2年改正で、119条3項の犯罪構成要件に関する部分を抽出して3項1号とするにあたって、「著作隣接権を侵害する自動公衆送信」とされていた部分を、しれっと「著作隣接権を侵害する送信可能化(国外で行われる送信可能化であつて、国内で行われたとしたならば著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)に係る自動公衆送信」と改めてきました。「過ちを改むるに憚ること勿れ」といいますので、それはそれで構わないのですが、それならそれで令和2年改正法に関する文化庁による解説で触れたら良いのではないかと思うのです。
もちろん、国会に法案を提出する前に、こういうケアレスミスを防ぐ工夫は必要だと思うのです。そういう観点から、令和2年改正法を見てみると、新113条7項がこういう規定になっています。
技術的保護手段の回避又は技術的利用制限手段の回避を行うことをその機能とする指令符号(電子計算機に対する指令であつて、当該指令のみによつて一の結果を得ることができるものをいう。)を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は公衆送信し、若しくは送信可能化する行為は、当該技術的保護手段に係る著作権等又は当該技術的利用制限手段に係る著作権、出版権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなす。
ここでいう「指令符号」って、文化庁の解説を見ると、シリアルコードのことを指しているらしいのです。そうだとすると、それって「情報」の一種であり、無体物の一種ということになります。日本法では、「情報」のような無体物については、「占有」することができないので、当然、これを「譲渡」したり「貸与」したり「所持」したりできないということになります。しかし、新7項は、シリアルコードという「情報」を「譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持」する行為を処罰の対象とするとはっきり規定してしまっています。
実は、シリアルコード等を「指令符号」と呼んだ上でその流通等を規制する条項は、既に経産省が不正競争防止法で導入しています。例えば、不正競争防止法2条1項17号は以下のような規定となっています。
十七 営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に記録されたものに限る。以下この号、次号及び第八項において同じ。)の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)、当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)若しくは指令符号(電子計算機に対する指令であって、当該指令のみによって一の結果を得ることができるものをいう。次号において同じ。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、若しくは当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)又は影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為
このように、「指令符号……を記録した記録媒体若しくは記憶した機器」という有体物の譲渡等を規制する方式にしておけば、「情報の占有移転」なんていうン面倒なことを考える必要がなかったのです。経産省によるお手本が既にあるのに、なんで文化庁が上記のような文言を採用したのかはよくわかりません。今後の法改正の時に、またしらっと改正されるのでしょうか。
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