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なくなってしまった

 とうとうと言うか、やはりと言うか、りんごの街の中三デパートが閉店した。それも、ヨーカドーと違って、予告もなく突然に。さよならセールとかなく。
 中三からジュンク堂が撤退した時、なんとなく危ない気がした。嫌な予感。中三に行く理由は、地下の食品コーナーと上のジュンク堂が目当てだったもの。

中三地下名物「中味噌󠄀。」(中三味噌ラーメン)時々食べたくなる味。これは、大、中、小の小。野菜たっぷり。それでも、中味噌は別の場所で先日、営業再開した。


 思えば我がりんごの街は、一昨年、老舗のホテルが潰れた。かつて私も結婚式をしたホテル。一階においしいケーキ屋さんがあって、そこのミルフィーユは絶品だった。

ミルフィーユの誕生日ケーキ。コロナで帰れなくなった息子と久しぶりに一緒の誕生日を祝ったっけ

 高校の同窓会の会場もそこだったし、職場の様々な行事、歓迎会、送別会もそこだった。閉店を知り、ホテルのレストランのランチやケーキの購入に並ぶ人の姿が、そのホテルの人気を物語っていた。でもなくなった。
 しばらくして、中三デパートに入っていたジュンク堂書店が、今年の春で撤退することになった。
 そうそう紀伊国屋書店がなくなった時の衝撃を忘れていた。当時東北で唯一の出店だった。有能な書店員がいて、本を探すのを手伝ってくれた。大好きな大学教授とよく出会える場所でもあった。土手ブラ(土手町ぶらぶら歩きの略)のスタート地点だった。
 ジュンク堂は、土手町唯一の大きな本屋だったのに。背の高い本棚、本が読めるように席があったり、クロワッサンとのコラボがあったりした。ネットで本を買うことが多かったけど、実際に本を見て選ぶ楽しさがあった。その時々のベストテンの本が並べられて、どんな本が読まれているのかがわかったっけ。
 続いて、老舗の和菓子屋の開雲堂。ずっとずっとあり続けるものだと思っていた。看板商品の「卍最中」、弘前のお土産といえばこれだった。ゴマ入りあんこたっぷりの「有明」、優しい味の「きみぼたん」などなど、まだまだ食べたかった。閉店まで、お菓子を求める人の行列が絶えなかった。
「法事(用)のお菓子」
そう言う輩もいたけど、わかってないよね。みんな惜しいから並んでいた。きっと洋菓子人気に押されていたんだろうな、跡継ぎがいないと言う話だったけれど。

代表的なお菓子だった卍最中


 そして、9月にはヨーカドーが閉店。入っている無印良品やロフトなど、どうなるのか気になる。夏のねぷた祭りでは、「ありがとうヨーカドー」と言う文字がねぷた横に掲載されていた。市民に親しまれ愛されての閉店。
 

 そして、中三の閉店。しかも、突然の。その日、品物を仕入れに来た業者もびっくりしていたとか、関わっていたお店の人も知らなかったとか、様々な話が飛び交っていた。
 今や、百貨店の閉店は珍しくはない。けれど、ショックなのは事実だ。
 今年の本屋大賞の「成瀬は天下を取りに行く」(宮島未奈)も、西武百貨店大津店の閉店にまつわるストーリーだった。あれは、閉店までをカウントダウンしていたよね。ちゃんと予告されていた。

元気な主人公綾瀬に元気をもらったなぁ!


 原田ひ香さんの「ランチ酒 おかわり日和」で、主人公祥子に向かって言う女流作家樋田のセリフ。


「ある種のものは、ある日あっという間になくなる。」 
「でもねえ、私だって、たぶん、もうすぐよ」
「ある時、ふっとここからいなくなる」
「皆、ここからある時、いなくなる」
「築地、豊洲、寿司、ラーメン、カレー、銀座、日本橋、オムライス、日本酒、ビールの泡、雨、道路、電車、アイスクリーム、雲、わたあめ、私のマンションの部屋、靴・・・」
「もう靴を履くことはないかもね」 

「ランチ酒 おかわり」より樋田の会話だけ抜粋

 
 「口にした言葉の数々は、気がついたらなくなってしまうものたちのたとえだったのかもしれない」と祥子は思う。
 

 この言葉たち、なんだか、はっとして手帳に書き留めたものだ。
 いつか突然、自分も含めてなくなってしまう・・・窓の外の雪を見ながら、物思いに・・・

#なんのはなしですか
 
 なくなったものの話だった。思い出がくっついているから、悲しく、寂しいのかもしれない。ある意味、生きた証みたいな。
 高校時代から使っている弘南鉄道大鰐線は、赤字路線だ。とうとう3年後には停止されるようである。

駅のホームで黒石のこけし灯籠に見送られる
夏に運行の金魚ねぷた列車

 また一つ思い出の場所が消えてしまうのだろうか。

夜の駅。風情あるね。


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