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ねんど遊びが好き過ぎて、退職してネコ専門の造形作家になった私。54歳。

私は30年勤めた会社を昨年末に早期退職して造形作家になりました。周囲の「本気ですか」という視線を感じつつも作品を作っています。今回はそのきっかけや経緯を、幼児の頃から順を追ってお話しさせていただければと思います。ちょっと長くてすいません。

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【写真上:私の現在の造形作品です】
※ →作品のギャラリーサイトはこちら

ネコと粘土

写真の猫は私が学生のころに実家で飼っていた猫のミオです。ミオは猫としてはものすごく長生きをして23年間生きた猫です。

私が中学3年の時から社会人13年目の頃までの間です。ずっといっしょに育ったネコです。

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【写真上:ミオ。後年のだいぶおばあちゃになった頃の写真】


一方、私は幼児の時。父がおみやげと称して買ってきた「ネリゴム」を普通の粘土だと思って受け取りました。たぶん4歳とか5歳くらいだったでしょうか。

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【写真上:画材のネリゴム。商品名はイージークリーナーだっけな】


それからというもの毎日、毎日、毎日、毎日、ずーーーっと、ネリゴムで遊び続けます。何でも作りましたが、ロボット的なオリジナルヒーローキャラクターなどが多かったような記憶があります。

作ってはしばらく演劇のように自分の中の世界で遊び、そしてまた壊して別なモノ作る、ということを永遠に繰り返していました。

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【写真上:ネリゴム作例。これは今回再現したものです】

当時はまだそんな言葉はなかったけど、まさに「はまった」状態で、家にいる間中ずっと遊んでいました。おそらく幼稚園児の頃から小学校3~4年、または5年生くらいまでやっていたかもしれません。

冬の寒い日はネリゴムも少し硬いので、はじめにコタツのアミにくっつけて温め、ほどよく柔らかくなったところでまた作り始めていた記憶があります。

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しかしその後、急にインドアからアウトドアへ転身です。中学、高校と当時はまだマイナースポーツだったサッカーにものすごく熱中します。

しかし高校3年になるころサッカーには限界を感じて別な進路を考え始めます。そのとき昔から自分の中にあり続けていた「作ること」が、再び顔を出してきました。そして美大受験を目指すことになります。

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【写真上:高校のグラウンド。当時は土だったけど今はなんと人工芝】

二浪して多摩美へ。

しかし高校3年の秋までサッカーをしていた自分が、そう簡単に美大に受かるはずもなく、その後、美大予備校で二浪した末、多摩美のグラフィックデザイン科へ入学します。

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【写真上:予備校でのデッサン。おそらく二浪の間に200枚くらいは描いているように思います】


実はこの美大予備校の2年間はホントに楽しかったのですが、話がそれるので、それはまた別の機会にお話ししたいと思います。

そして二浪の末入学した多摩美もとても楽しかったです。みんな作る人たちだったので。もちろん今でも多くの仲間と付き合いがあります。

同級生の中では一浪が一番多かったように思います。印象で言ってます。次いで二浪と現役が同じくらいで、同級生では四浪が最長だったかな。

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【写真上:多摩美のころの作品。基礎的な着彩画と広告系の授業課題】

デザイナー職として広告会社へ。

さて、その多摩美の4年間も後半になり、また進路を考える時期となります。私はグラフィックデザイン科ですが、デザイン界では広告分野が非常に大きな分野であることをその頃初めて知りました。

そして当時教わっていた先生も広告のアートディレクターの方だったこともあり、広告会社へ入社します。

バブルの末期でしたが、しかし会社に入ったばかりの新入社員ではバブルの華やかさを実感する間もないうちに、たちまちバブルははじけました。

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そんな時代ではありましたが、会社の仕事は楽しかったです。仕事を始めた当初に思ったことは「学校と同じ事をして給料までもらえてラッキー」です。

美大でも毎週課題があり、それを何日もかけて自分1人で作る。そのような課題を複数同時に進める。かなり過密な学生生活でした。

その感覚からすると、会社でもだいたい同じような仕事でした。

もちろん責任は重くなり、お預かりする予算も大きくなり、チームメンバーも多くなり、規模は大きくなりますが、しかし本質的には「アイデアを考えて制作する」事に変わりはありません。

そして給料までもらえる。これはラッキーだと思ったこと覚えています。


当然、仕事なので、精神的にも肉体的にも非常に厳しい曲面は度々起きます。しかし仲間とそれに対処しながらなんとか進む事はチーム競技の感覚があり、これまたサッカー同様の面白さも感じてもいました。

私は本当に恵まれた会社員生活をしていましたが。しかし、社歴が長くなるにつれ、だんだん気づき始めた事がありました。

それは広義には"作る仕事"で充実しているけど、自分個人にとって本当にやりたいことは、「手でモノを作ること」のような気がすると。

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【写真上:これは「手で作るのイメージ」なだけです。ネリゴムにて】

実は、そのことには以前からうすうす気づいていましたが、毎日の仕事にも追われ、目の前の仕事に集中しようと思っていたので、無意識のうちに正面から考えることを避けていたのかもしれません。


四半世紀の会社勤務を経て気づいたこと

しかし勤続25年目のころ、組織の改編など仕事分担の変更があり、一時手が空いた時期がありました。

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その時に「あー。もうそろそろ一番やりたい事をやってもいいかもな」と思った瞬間がありました。それは2014年か2015年のことだったと思います。

その背景には当時自分が少し体調を崩したこと。また新入社員時の面倒見役であった大先輩に定年後に会った時「やりたい事があれば“今”やらなきゃダメだよ」と言われ、その先輩は半年後に前立腺がんで亡くなったこと。などがありました。

そこで、人生100年時代が本当なら「この先会社を定年してもかなり先が長いぞ」と思う一方、逆に「いやいや、思ったよりもすごく早く自分も死ぬ可能性もあるな」とも思ったり。

そこで出た結論は「やりたい事があるなら、今やらなきゃ」という事でした。

そこでとりあえず会社業務と並行して、自分の造形活動を始めました。しかし「何を」作ろうか、「何で」作ろうかなど、意欲はあっても具体的な方向が定まりませんでした。

その時に「好きな方法で、好きなモノを作ってみよう」=「粘土で猫を作ってみよう」と幼児の頃から全く変わらない自分が再び現れました。

やりたいこと

好きな事を始めてみる。

そして当初は石粉粘土という素材で作り始めました。まさに自分がやりたい事をやり始めたのですが、しかし同時に「できれば多くの人に喜んでもらいたい」という思いもあり、「一点ものの価値」よりも版画のような「複製できる」「複製の方が完成品」という方向を目指したいと考えていました。

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【写真上:初期の石粉粘土での作品】


そこで、樹脂粘土という素材で原型を作り、それをシリコーンで型を取り、レジン(樹脂)で注型するという手法へたどり着きました。この方法であれば最大20匹くらいまでは複製が可能な手法です。

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【写真上:シリコーンによる型どりのようす】

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【写真上:レジンでの作品】


早期退職。造形作家。デザイナー。

このネコ作りは、めちゃ楽しく、休日である土曜日に始めると、食事も忘れてずーーっと作り続け、日曜も朝起きるとすぐに続きを作りたくなります。

それが5年以上の間飽きることなく続いているので、「あー、自分が好きなことは、やはり手でモノを作ることのようだ」とはっきりと意識するようになりました。

その頃から「やはり人生の最後には、本当にやりたい事をしてみたい。それが仕事になろうと、なるまいと」と思うようになっていました。

そしてまた制作記録と投稿の練習も兼ねて、作品を発信する場としてのホームページを地道にWordPressで作り始めたり、会社を早期退職した時に、家のローンや子供の教育費がまかなえるかなどを真剣に計算しはじめたりしていました。

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そんな中、いよいよ2020年。会社の制度を活用して退職することを決心しました。

そして退職した後は、個人事業主として、会社時代に培ったデザインやコミュニケーション分野の知見を活かした仕事と並行しながら、同時に造形作家として独立することを目指しています。

要は「造形作家とデザイン分野の2本立て」というカタチでの活動を始めたという感じです。

ホントは当初考えていたより少し早いけど、ここで決断して、退職をすることにしました。

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目指すのは「ネコ作品で、リラックスを作りたい」。

今年2021年1月から新たに個人事業主となり、そしてまた造形作家となり、ネコを作り続けています。また昨年から実験的にハンドメイドマーケットへの出品も始めています。

まだとても少数の方ではありますが、ネコの造形をご購入いただいたり、海外のお客さんから依頼をいただいたりし始めています。とてもありがたいです。

私の目指すことは、このストレスの多い社会の中で「何の役にも立たない小さなネコの造形」で、見る人にほんの少しリラックスの時を作りたい。そして再びがんばるための、小さな応援になればと考えています。

そしてまた、このような造形活動を継続していきたい。ということです。まだまだ先はまったく見えておらず、どーなるのかもわかりません。

ただ「作ること自体」は、今までも土日などである程度できていたことです。そこで今後は、自分の造形を続けると同時に、自分の活動をより多くの方に知っていただけるように「発信する事」にも多く取り組んでいこうと考えています。

その事が造形作家として継続的な活動につながると、今は信じているからです。このnoteへの参加もその一環としてエントリーさせていただきました。

このnoteでは、制作のことや、考えたこと、たまに技術的なことや逆に日常のことなど、造形作家の活動をご紹介していかれればと考えています。

今回は長い話にお付き合いいただき誠にありがとうございます。

●下記URLは私の作品工房「benieda」のギャラリーサイトです。
https://benieda.com/
●日常的な制作のようすは下記 instagramで共有しています。
https://www.instagram.com/benieda/?hl=ja

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