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薬用ワインの歴史 蜂印香竄葡萄酒
前回の記事では140年の歴史を誇る
洋酒混成酒『電気ブラン』について書いた。
『神谷バー』創始者の神谷傳兵衛が
電気ブラン以外にも明治時代から
今でも受け継がれる薬用葡萄酒がある。
それが『蜂印香竄葡萄酒』
これ、実は知られてるようで知られていない
『電気ブラン』と同等の由緒正しき日本独自に
明治時代に受け入られ進化したワインの形だ
蜂印香竄葡萄酒は電気ブランよりも歴史が長い。
1881年には神谷傳兵衛により手掛けられている。
電気ブランがフォーカスされがちだが
蜂印香竄葡萄酒との両輪でこの会社は有名になり
現在に至る。
↑若かりし頃の神谷氏。
電気ブランと香竄葡萄酒
ざっくり蜂印香竄葡萄酒は何かというと
薬用葡萄酒というカテゴリーになる。
一杯の美味 一杯の香味 一杯の滋養
これが謳い文句
これ、2021年の現在でも電気ブランの現在の
大元の会社であるオノエングループから製造販売されている。
現在と明治時代の香竄葡萄酒はボタニカルが
違うが現在ではこのような配分となっている。
ローヤルゼリー、ドクダミ、よもぎ、カリン、ビワ、イチョウ、プルーン、ケイヒ、チョウジ、ショウズク、コリアンダー、甘草、山椒、ダイダイ、ニクズク、ショウウイキョウ、ダイウイキョウ、熊笹、ニンジン、蜂蜜、エゾウコギ、レイシ、クコの実、サンザシ、トショウの25種のエキスを配合した葡萄酒
では明治、大正、昭和初期のあたりの香竄葡萄酒はどのようなものだったのか?
答えはキナワイン
蜂印香竄葡萄酒は
Dubonnet(デュポネ)
Byrrh(ビール)、Bonal(ボナル)に準ずる酒類。
これらは現在でもBarのカクテルの素材として
必須不可欠なフランス産キナワインだ。
残念ながら戦後の薬事法により日本においては
キナノキの樹皮の成分であるキニーネは嗜好品としては使用できなくなってしまった。
故に戦前、戦後の境目において蜂印香竄葡萄酒は
キナ(キニーネ)の使用の関係でレシピが変わっている。
又、明治〜戦後あたりまでは日本産キナワインは
国産ワイナリーはもちろんのこと、
現在の製薬会社も当時はキナワインを嗜好品としてリリースをしていた。↓
ミツワ規那鐵葡萄酒、人参規那鐵葡萄酒
富谷強壮規那鐵葡萄酒、ホシ人参機那葡萄酒
機那サフラン酒、皇国規那鉄葡萄酒
滋養帝国葡萄酒etc...
では蜂印香竄葡萄酒の原型である
キナワインとはなんなのか?
ベルモットとの亜種と考えて欲しい。
ざっくりとわかりやすく言うと
ベルモット→ワインにニガヨモギを主体とした
草根木皮を浸漬した薬草酒
キナワイン→ワインにキナの樹皮を主体とした
草根木皮を浸漬した薬草酒
ベルモットの方が遥かに歴史は長い。
紀元前ヒポクラテスの時代から存在する。
キナワインは大航海時代にキナの樹皮がマラリアの特効薬として注目されて以降、その後の特に1800年代以降に普及している。
理由は
ワインの歴史としては有名なフィロキセラの害虫
以降に粗悪なワインを美味しく加工する為に
スパイス、甘味を加え尚且つ当時はキナは身体に良いとされ滋養強壮を目的としてヨーロッパで
人気を博した。
更に甘味を加えれば保存性も増し当時世界への
船便での輸出にも耐えられる。
明治時代の横浜の外国人居留地にはフランスから
外来品としてキナワインが輸入されていた。
当時(明治時代)日本ではコレラが流行していた経緯もありキナワインは治療目的も踏まえ使用され
後に人気を博した。
さすれば自ずと輸入に頼らず自分達で作ろうという機運が出てくるもの。
それが電気ブランの生みの親であり
1881年に神谷傳兵衛が日本初の国産キナワインを手掛けた蜂印香竄葡萄酒である。
当時は輸入ワインからキナ及び身体に良さそうな
生薬を加え蜂蜜で混成していたがその後の
神谷傳兵衛は茨城県の牛久にて国産ワインの
製造にも乗り出す。いわば日本ワインの父なのだ
当時の牛久シャトーと現代の牛久シャトー
記念館もある↓
そんな歴史ある国産キナワインなのに
蜂印香竄葡萄酒は現代の我々バーテンダーが
Barで使われているのを見かけない。
BenFiddichではこういった由緒あり歴史ある
国産キナワインを継承したい。
①【ジャパニーズキナネグローニ】
『レシピ』
国産ジン30ml
カンパリ30ml
蜂印香竄葡萄酒30ml
『作り方』
材料をミキシンググラスにいれステアし氷を入れたロックグラスへ注ぐ
②【神谷傳兵衛スペシャル】
『レシピ』
電気ブラン40ml
蜂印香竄葡萄酒20ml
フレッシュ.オレンジ.ジュース20ml
『作り方』
材料をシェーカーに入れ、シェイクしカクテルグラスへ注ぐ。オレンジピールを振りかける。
日本のワイン史及び当時の時代嗜好で生まれた
現代にも続く歴史の産物『蜂印香竄葡萄酒』を
知って欲しい
BenFiddich 店主
鹿山博康