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ボリビアで広く使われるシンガニの蒸留機について。
BenFiddich店主の鹿山です。
2度目のボリビア再訪。
2度目は1度目よりシンガニに対してだいぶ解像度が上がってきた。
そう、目的はボリビア伝統酒シンガニ(singani)
マスカット・オブ・アレキサンドリアの葡萄。
いわゆるマスカットで作った蒸留酒の事である。
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葡萄栽培地が2000mを超えるボリビアでは陽射しが圧倒的に強く皮が分厚くなる為香りが強くなる。
【この記事はシンガニの蒸留器について】
新たに分かった事があったので加筆修正したい。
おさらいをするとボリビアでの古の蒸留機は
スペイン人が銅を持ち込み植民地にする前は
土器製の蒸留器で木や竹やサトウキビのワームタブ(筒)など現地の素材を加工して蒸留されていた
(スペイン人入植前から蒸留技術はあった)
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『コンチャナ』と呼ぶ。
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次にボリビアにスペイン人が銅の技術等を持ち込み発展した錫と銅を組み合わせた蒸留器『ファルカ』
(銅100%だと当時高価なので錫を合わせた)
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現代のボリビア式蒸留器が確立したのは当時隆盛を極めたボリビアのサントリーのような大シンガニ工場SanPedroがフランスから導入。以来、この蒸留器が評判となり以来、ボリビア国内で現代において広く使われている。
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1回の蒸留で約2回分の蒸留の効果があるスタイルの蒸留器。
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1回だけの蒸留ではまだ荒い。
3回以上の蒸留は..ちょっと葡萄の風味が....
その間の『2回がちょうど良いよね‼︎』というのが主流
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そのSanPedro社で蒸留器のメンテナンス及びメカニックの部署に居た方が現在、カマルゴという街で細々とSanPedro社スタイルの蒸留器を手造りし方々へ導入している。
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以下、現代において主流のボリビア式蒸留の循環経路を図にしてみた。
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① の管の部分。
上部のタンクに発酵を終えたマスカットの醪を加え、①の管を通って⑦のバルブの開閉を用い②のポットスチルに落としてゆく
② はポットスチルの部分(蒸留釜)
直火であったり、スチームであったりカスタムできるが蒸留釜となる部分。
③はスワンネックの部分。
ここで面白いのが蒸留され熱された気体が①の醪のあるタンクの中を通過してゆく(気体は管を通るので醪と混じり合わない)
熱を持った管が①のタンクの中を通過するので温められた醪は効率よく下の蒸留釜へ循環してゆく
④のスワンネックは⑤に流れる。
③の管から醪のタンクを通過し、④の管から流れ出て⑤の上部へいく。
⑤の蒸留釜の上部部分
ここが複雑で、蒸留釜の内部の上部に一つプレートが被せられ仕切りになっている。
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開けてみると内部はこんな感じとなる。
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⑥は冷却炉へ続く管
下の写真の赤矢印のプレートを右の部分に溶接して穴を開け、気化できなかった液体を蒸留釜の下部へ滴り落ちる仕組みとなっている。
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この⑤の部分が肝で図で分かるように蒸留され⑦の冷却炉へ進む気体と液体に戻り②の蒸留釜へ戻る部分とで分けられる。これは軽い成分が気化され、重い成分が液体に戻る。
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重いと軽いとは?
ちょっと僕も詳しい専門家ではないが、思うに
ワイン(マスカット)の蒸留中におけるアルコール度数の比重を考えるに
蒸留の最中に起こる現象
(1)初留(ヘッド)
軽い成分(低沸点のアルコールや揮発成分)が先に出る(アセトン、メタノールや様々のエステル)。
高アルコール(60%以上) →ゆえに軽い。
(2)本留(ハート)
エタノールが主成分となり、スピリッツとして利用できる部分。これもまた軽い。
アルコール度数は徐々に下がってゆく。
(3)後留(テール)
重い成分(フーゼル油など高沸点のアルコール類)が出る。これらアルコールを含む後留が気化せずに下に落ち、次に①のタンクから落ちてくる醪に合わさりまた蒸留され強化されるという仕組み。
つまり、これで一度に1.5回〜2回の蒸留分となる。
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気化するものは⑥の管を通り⑦の冷却炉を通過し冷やされシンガニの完成。
メカニックの方曰く⑨のバルブが大切でこの管の開閉の調整で按配が変わるらしい。(約45°にキープ)
ボリビアでの基本的なシンガニの蒸留回数の考え方は
1回だけの蒸留ではまだ荒い。
3回以上の蒸留は..ちょっと葡萄の風味が....
その間の『2回くらいがちょうど良いよね‼︎』
それを1度の蒸留で行う事ができる効率的な蒸留方法がボリビア式。
1度の蒸留で1.5〜2回分の力を持つ
強化1回蒸留が2025年現在でもボリビア国内でシンガニ用として広く使われている。
(ボリビア国内の大手シンガニ蒸留所に関してはドイツ製のアーノルドホルスタイン社の最新式蒸留機を導入してるとこもある)
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BenFiddich店主
鹿山博康