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アフターデジタル時代の教育×UX(前編)~マイナスの体験も糧に変える。人生最初のサービスづくりを。~
2023年11月28日に事業のDXを強力に推進中のベネッセと、UX起点のビジネス成果創出を支援するビービット社協業のキャリアイベントを開催しました。
書籍『アフターデジタル』シリーズ(日経BP)の著者であり、長らく日本のUXデザインをリードしてきた藤井保文氏(ビービット執行役員CCO(Chief Communication Officer))をモデレーターに迎え、ベネッセで活躍するUXデザイナーたちが、どんなことに教育×UXならではの「やりがい」や「難しさ」を感じているか、本音を語り合ったこのセッション。
藤井氏から
「ここまで本気で取り組もうとしている企業は珍しいし、正直言ってうらやましい」
とコメントいただくなど、皆さまから大きな反響をいただいた模様をお届けします。
【1】なぜ教育でUXデザイン?
-自分の仕事が、身近な誰かのために
藤井氏「まずは、ベネッセでUI/UXデザイナーとして活躍する皆さんが、なぜ教育業界であるベネッセに入社されたのか、から伺います。
そもそも、教育業界という捉え方で入社を決めていないのかもしれないのですが…」
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”二児の母として子どもの未来にもつながる仕事を”
田中「前職でもUI/UXデザイナーで、1年前に入社しました。
今は、Digital Innovation Partners(以下DIP)というベネッセのDX推進を横断的に進める組織に所属してUI/UXデザインを担当しています。
ユーザーとの距離の近さや、ユーザーを大切にする会社としての雰囲気が気に入ったのと、子どもがいながら働きやすいことが決め手で入社しました。
前職では、販促サイト、マイページ、申し込みステップの3セットを作ることが多かったのですが、ユーザーが自由に画面遷移したり、画面のどこを押すか想像できないようなサービスのデザインに関わりたいと思ったんです。
ユーザーが自由に使うものを商品で扱う業界…と考えたときに、今後UI/UX面においてより発達していく医療業界、自由度の高いゲーム業界など迷ったのですが、最後は教育業界に決めました。」
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”身近な幅広い領域を、横断的に関わることのおもしろさ”
川上「私はこれまで、広告制作会社でアートディレクターやクリエイティブディレクターなどを担当したり、スタートアップでは、IoT×SaaSのプロダクトデザインなど幅広く経験してきました。
ベネッセは、妊娠中から介護まで幅広いサービス領域があって、ユーザーが身近にいる。さらに、複数事業に横断的に関われるということが魅力で入社しました。」
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”学校は苦手でも勉強は好きだったからこそ、おもしろい学びを”
福谷「私は今、進研ゼミ中学講座でUI/UXを担当しています。
私自身は、正直学校があまり好きじゃなかったのですが、勉強することは嫌いじゃなかった。だから、“おもしろい学び”に関わりたかったんです。
それで、子どもの一生にダイレクトに、かつ影響力を出すためには?と考え、ベネッセに新卒で入社して4目になります。」
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藤井氏「身近な誰かや自分の生活に近い人々に対して、自分がアプローチをしたらどうユーザーの体験が変わるのか、に着目しているという点が皆さん共通してますよね。
自分自身は、いろんな業界のUX支援をしているのですが、直接的に貢献できている実感が私よりおありなのでは?と。
きっと家族だったり関係者だったり、さまざまな方々からダイレクトにフィードバックがあるのかと想像すると、すごくうらやましいですね。」
【2】教育×UXならでは、のポイントとは?
-ユーザーのパートナーとして、長年の蓄積が財産に
藤井氏「教育でUXに関わるときに、特におもしろい点 、ユニークな点などはありますか?」
田中「入社の決め手とも重なるのですが、とにかくユーザーと近いんです。
先日も、とある学校にお邪魔して、先生と子どもが弊社のサービスを使っている授業を拝見しました。
先生が私を、ベネッセから来たと紹介してくださった途端、
『ねえねえ、ここ使いづらいよ!』
『ここは何(の機能なの)?』
と次々に話しかけてくれるわけです(笑)。サービスに不満があってもオブラートに包んで意見する大人と比べて、本音で話してくれる。目の前のこの子どもたちのために楽しく学べる環境を作るんだ、と思えるのはおもしろいですね。
素直で飾らないフィードバックをくれる子どもたちとの接点は、大切な財産。
転職して驚いたことですが、学校とのつながりが深いので、いつでも来ていいよと言ってくださるユーザーがいる。このユーザーとの関係があって、ヒアリングがしやすいのはすばらしいな、と。」
藤井氏「それはかなりおもしろいですね。業界によっては、ユーザーに直接コンタクトできないこともあれば、作り手が誰かを明かしてはいけない業界もありますから。そういう直接的にユーザに関われる機会は、よくあるものなんですか?」
水上氏「脈々と受け継がれたカルチャーですね。例えば、学校事業は進研模試を60年近くやっています。模試の結果を返すだけではなく、どうやったらこの学校全体の学力があがっていくか?を一緒に考えるパートナーとしての姿勢は貫いてきました。
モノを売るのではなく、学校教育自体をよくしたいという願いで信頼関係を構築してきた歴史があるからこそかなと。」
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-自由だからこそ「ITへのメンタルモデルを作る、人生最初のサービス作り」の矜持で
川上氏「小学校低学年の子どもが利用するサービスのUIUX担当しているのですが、その子どもたちにとって毎日継続して使うデジタルサービスは人生で初めてなんですよね。
この体験がITのメンタルモデルを作る。だからこそ、それを踏まえてアプリ全体のUXを定めていくのが大切だと感じています。」
藤井氏「なるほど。例えば銀行のアプリであれば、残高照会や振込など、機能として画面に表示するものは決まっていますよね。教育はその点、自由度が高いと捉えることができますか?」
川上「確かに自由にいくらでもできる側面があります。だからこそ、子どもたちにとって何が大切なのか?に責任を持たねばならないと思います。
子どもであればあるほど、その先のITへの姿勢や認知も決めてしまうので。」
-マイナスの体験も、子どもの学びにとっては大切な糧だから。
福谷「”これをやっていたら点数が上がった!”だけではなく、普通に楽しんで取り組んでいたら”いつの間にかどう学んでいけばよいかわかった!”
となるのがユーザー体験としては″満点”ですよね。
でも教育は、保護者の方がお金を出すけど、取り組まれるのは子どもいう構造があります。そして勉強に向き合うことに苦慮されているご家庭の方ほど、子どもが勉強をすることを当然望むわけです。
だから、そういったご家庭の子どもが喜んでくれるなら、ユーザー全員が喜んでくださるはず、だと思って取り組んでいます。
そして、成功体験だけではなく、マイナスの体験も、その先を頑張る糧という意味ではとても大切。
だからこそ、″今度こそ頑張るぞ!”もう少しやるぞ!”と思えるように、失敗をどうやったらコミュニケーションとして設計できるだろう…と日々考えています。」
藤井氏「なるほど。学校向けの商品の話は伺いましたが、toCの進研ゼミでは、ユーザーからどのようにフィードバックを受けるのですか?」
福谷「進研ゼミを活用した教室の運営しており、そこで子どもたちの様子をみたり、条件設定したログからセグメントして、対面でヒアリングさせていただくこともあります。
理想的な動き方をする場合と、なんでこう使ったんだろう?という場合、あえて両方聞き比べるとおもしろい発見があります。」
藤井氏「そうしたフィードバックの仕組みが素晴らしいと思うのですが、実際にデータ整備はどうしているのですか?」
水上「気軽に聞ける関係性は、先ほどの教室、モニター会員など様々な接点で作られていて、多いところは週1回くらいやっています。
ビービットさんが提唱されているように、″どっちがいい?”じゃなくて、行動観察的なアプローチを学んでいきながらやっています。
私たちは、リアルな場での蓄積はありますが、デジタルは発展途上。
まだやれてないところもたくさんありますが、その整備を横断部門であるDIPで担当します。定量データが取得できない部門はありませんが、定量と定性をどうやったら効果的に使えるか、なども議論しながら進めています。」
藤井氏「僕自身、行動観察やエスノグラフィが好きですし、会社全体でもユーザー理解をとても大切にしています。ただ、企業の中で、UXの立ち位置が低いと、ユーザーに向き合う時間がとれずひたすら上申する役割だけに留まり、チーム編成も、意思決定も弱くなるのが現実です。
看板は掲げられていても、定量も定性も両方から意思決定するのは、意外にできていない企業が多かったりもします。
正直、かなりいい環境ですよね。うらやましい!」
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ここまでが前編の記事となります。いかがでしたでしょうか?
後半は、「誰のためのUXを、どうやって追求していくべきなのか?」という問いがテーマ。UI/UXデザイナーたちの、「影響力の大きなサービスを届けるからこそ」という矜持から生まれる、”複眼的なUXデザインへの挑戦”をぜひご覧ください。
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