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天皇賞・秋はこの馬のために…… “快速馬“? ミスターシービーの爆脚

 「ミスターシービー」といえば、1983年に皐月賞、日本ダービー、菊花賞を制し、1964年のシンザン以来19年振り、史上3頭目のクラシック3冠を達成。翌84年には天皇賞-秋にも優勝して4冠馬となったことで知られる。
 父は「天馬」と呼ばれたトウショウボーイ。母は重賞3勝、快速でならした名牝シービークインで、端正な容貌の超良血馬だ。

 21頭立てのダービーでスタート出遅れ

 ミスターシービーの人気は、主戦の吉永正人騎手の存在もあった。デビュー戦からその背にまたがり、1985年の天皇賞・春(5着)を最後に引退するまで手綱を握った。ミスターシービーは同じ騎手が乗り替わることなく3冠馬に輝いた最初の馬でもあった。
 ただ、吉永騎手の天衣無縫、常識破りと言われた追い込み戦法は、賛否を分けた。なかでも第50回のメモリアル、日本ダービーは21頭という多頭数のレースで、当時「10番手以内で第1コーナーを回らなければ勝てない」とされた「ダービーポジション」のジンクスがあるなか、スタートで出遅れ。レースは先頭から20馬身ほど離れた16、17番手を進む、最悪を思わせる展開に。それでも、少しずつポジションを上げると4コーナーでは5、6番手まで進出。最後の直線で2着のメジロモンスニー(2分の1馬身差)以下20頭をなで斬りにした。
 いかに直線の長い東京競馬場とはいえ、単勝1.9倍、単枠指定の人気馬がドン尻からの強襲をみせたのだから、肝を冷やした。しかも、4コーナーでキクノフラッシュと衝突したはずみでニシノスキーの進路を妨害。審議の対象となり、吉永騎手には開催4日間の騎乗停止という“おまけ”までついた。
 「ミスターシービーを失格にすべきだ」——。そう批判する声がないわけではなかったが、レースでの豪脚はあまりに強烈で既成概念の枠に収まり切らない、ミスターシービーの魅力でもあった。

GI、東京2000メートルの天皇賞・秋

 3冠がかかった菊花賞も、1番人気に推されたミスターシービーだったが、父トウショウボーイが菊花賞で3着(1人気)に敗れたことや母シービークインが快速馬でならしたという血統的な背景から、スタミナ不足がささやかれ、3000メートルという長距離への不安説が流れていた。
 ところが、スタートすると道中は速めのペースのなか、いつものように最後方を進んでいたかと思うと、2周目の3コーナーの上り坂からジワジワと先行馬を交わしていくと、ゆっくり下ることがセオリーとされる4コーナーの“淀の下り坂”を、加速しながら先頭に立った。このレース運びに観客は驚き、大きなどよめきが起こったが、ミスターシービーは気持ちよさそうに、大きなリードを保ったまま直線を逃げ切った。
 テレビからは、名物アナウンサーの杉本清氏が、
「もの凄い競馬をしました。ダービーに次いでもの凄い競馬をしました。坂の下りで先頭に立ったミスターシービー。いやいや、恐れ入りました」
 と、驚きを隠さなかった。

 3冠馬となったミスターシービーはその年のジャパンカップ、有馬記念を回避。注目された次の目標には、GI天皇賞・秋を選んだ。
 1984年は中央競馬が大きく変わった年だった。新たにグレード制が導入され、東京競馬場には巨大なターフビジョン(当初は1基)が設置された。短距離路線の地位向上と競走体系の整備がはじまり、そして競馬番組の改革で、長年3200メートル(5歳/現4歳以上)で施行されてきた天皇賞・秋が2000メートルに距離が短縮された。
 天皇賞・秋の前哨戦、毎日王冠(GII)が5歳となったミスターシービーの初戦だったが、ほぼ1年ぶりの実戦だったこともあってか、逃げたカツラギエースを捉えきれず2着に敗れた。とはいえ、レースでは相変わらずの後方待機から一気の脚を披露。当時としては破格の3ハロン33秒7(推定)という破格の時計を記録した。
 

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スピード時代の幕開け

 2000メートルになって初めての天皇賞・秋には、毎日王冠を制したカツラギエース(5歳)とともに、ホリスキー(6歳、菊花賞)やモンテファスト(7歳、天皇賞・春)といった長距離の猛者たちが集まった。
 ミスターシービーは、まるでこの日のために間に合わせたかのような、東京競馬場のターフビジョンに映し出された。その姿はいつものように最後方で、一時、先頭から約20馬身の位置に置かれる、しんがりを進んでいた。
 3コーナーからスパートをかけると、直線では最後方を大外から。ミスターシービーは当たり前のように突き抜け、先頭でゴールに飛び込んだ。走破タイム1分59秒3はコースレコード。驚愕のスピード。衝撃の逆転劇にファンは打ちのめされた。
 もちろん、単勝170円の1番人気。当時、「秋の天皇賞は荒れる」と言われていたが、ミスターシービーの勝利でシンザン以降続いていた1番人気の連敗記録が19で止まったのも、どこか不思議な縁のようだ。

 その後、1年後輩で無敗の3冠馬となったシンボリルドルフに主役の座を譲った。好位につけて抜け出すという、危なげないレ-ス運びは近代競馬の扉を開けた名馬なのだろう。ただ、それにない、名馬らしからぬ不器用な魅力がミスターシービーにはあった。“人間臭さ”といってもいいかもしれない。
 ちなみに、ミスターシービーの距離適性を、吉永騎手は「2000メートルまでの馬」とみていた。競馬評論家の大川慶次郎氏は「本来はマイラー」と評していた。短い距離で瞬発力がある脚がミスターシービーの“個性”だったのかもしれない。
 さて、今年の天皇賞・秋はどうなるのか――。

今年の天皇賞・秋を予想する!


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“お宝”は記憶の中にある!
思ひ出馬券師の今年の菊花賞の予想は…… 👇

◎ イクイノックス
○ スターズオンアース
▲ ドゥデュース

◎本命は、“世界”のイクイノックス。3歳で天皇賞・秋を勝った昨年の強さから、さらにパワーアップしている。2連覇がかかる。
天皇賞・秋は快速馬の出番。○対抗のスターズオンアースは桜花賞、オークスを連勝して4歳牝馬の頂点に立つ実力馬。天皇賞・秋はマイル戦からの出走が好成績を残す傾向があり、前走のヴィクトリアマイルからの参戦はプラスに働きそう。
▲単穴はドゥデュース。前走は海外GI、ドバイターフで出走取消。海外帰りが気にはなるが、2歳時の朝日杯フューチュリティステークスや3歳の日本ダービーで見せた直線で抜け出したときの脚は、やはりGI級。日本ダービーでは◎イクイノックスを破っている。体調さえ万全であれば……。
(思ひ出ばけん師)

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