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「脚が壊れるかも……」天皇賞馬・キョウエイプロミスが魅せた日本馬の底力

 忘れられないジャパンカップがある。欧州の馬たちに、まったく歯が立たなかった時代のことである。
 1983年。この年はシンザン以来19年ぶりに誕生したクラシック3冠馬、ミスターシービーの出現に沸いていた。新しい時代の予感である。当然のように、外国馬の参戦を迎え撃つ日本馬の代表として、ジャパンカップへの参戦が期待されていたものの、休養に入ってしまった。押し出されるように“代表格”となったのは、7歳馬(馬齢は旧表記:数え年)ながら、天皇賞・秋で初のビッグタイトルを奪取したばかりのキョウエイプロミスだった。

遅咲きの大輪

 1982年、6歳(馬齢は旧表記:数え年)になったキョウエイプロミスは、自己条件の800万円下特別(現2勝クラス)を勝ち上がったばかりだった。4月、ダイヤモンドステークスで初めて重賞を制し、次走の宝塚記念はモンテプリンスの4着、秋の毎日王冠で重賞2勝目を挙げるなど、わずか半年で上位クラスと互角に戦えるまでに急成長。天皇賞・秋(東京・芝3200メートル)では3番人気に支持されたが、7着に敗れた。
 その疲労のためか、続く目黒記念も13頭立ての1番人気に推されたものの、12着と大敗。しかし、暮れの大一番、有馬記念ではヒカリデュール、アンバーシャダイに次ぐ3着に入った。
 翌年の7歳時は脚部不安が再発して春は全休。その後、毎日王冠で復帰して3着、そして再び天皇賞・秋に出走した。当時、日本最強馬の一角を飾っていたのはアンバーシャダイ、タカラテンリュウといった面々。そうした中でキョウエイプロミスは2番人気に推された。
 東京競馬場での“最後の3200メートル”の天皇賞。逃げるタカラテンリュウを直線で交わすと、2着のカミノスミレに1馬身2分の1差をつけて勝利。初めて八大競走(クラシックと天皇賞春・秋、有馬記念)を制覇した。鞍上の柴田政人騎手もこの天皇賞で通算800勝を達成している。

https://www.photo-ac.com/

アタマ差迫った“世界”

 キョウエイプロミスは、次走にジャパンカップを選択した。この年19年ぶりにクラシック3冠を達成したミスターシービーの出走が期待されていたが、出走を回避。ちなみに、ミスターシービーは年末のグランプリ、有馬記念も回避。オーナーの千明牧場の意向が強かったとされる。
 このローテーションに、競馬ファンはもちろん、ジャパンカップの招待馬に帯同してきた海外メディアからは批判が殺到。ジャパンカップの話題は、出走しないミスターシービーがさらった。
 「今年はミスターシービーという3冠馬が出たと聞いているが、なぜ出走しないのか」「日本で一番強い馬が出ていないのはどういうことか」と、記者会見で外国人記者が詰め寄る場面もあった。
 ミスターシービーより「格下」よばわりされたのだから、キョウエイプロミス陣営は内心おもしろくなかったはず。そんな海外メディアに、高松邦男調教師は「ですから、キョウエイプロミスが(日本最強馬として)あなた方の馬のお相手をするわけです」と、胸を張った。
 騎乗する柴田政人騎手も、こう言う。
「デキ(馬の状態)の良さはパーフェクトです。堂々と勝ちにいきますよ」
 とはいえ、ジャパンカップでの人気は16頭立ての10番人気の低評価だった。

 レースは、“黄金の馬”ハギノカムイオーが捨て身の大逃げ。4コーナー手前で失速すると馬群に飲み込まれ、最後の直線。府中の急坂をのぼるとアンバーシャダイとマクギンティ、エスプリデュノールが抜け出す。その外から馬体をあわせるように伸びてきたのが、キョウエイプロミス。さらに、その外からスタネーラが追い込む――。
「スタネーラ来た。スタネーラ来た。スタネーラ、スタネーラ……」
「その内に、天皇賞馬のキョウエイプロミス」
「キョウエイプロミスと柴田政人。激しい叩き合い」
「スタネーラ、スタネーラ」
 実況の声にまじり、“競馬の神様” 大川慶次郎氏が興奮ぎみに叫ぶ。
「プロミス! プロミス! プロミス! プロミス!……」
 その声が途絶えたところがゴールだった。
 勝ったのはスタネーラ。キョウエイプロミスはアタマ差まで迫ったが2着。壮絶な叩き合いに、日本馬が「世界への扉をこじ開けた瞬間」だった。

日本馬の“常勝”はここから始まった!

 しかし、その反動は大きく、キョウエイプロミスの背にいた柴田政人騎手が下馬。コースから、馬運車で運ばれていった。「ゴール前100メートルぐらいのところでガクンときて……」柴田政人騎手は、そう振り返る。
 レース前、高松調教師は予感があったそうだ。キョウエイプロミスの脚が壊れるかもしれない。これが最後のレースになるかもしれない、と。
 キョウエイプロミスは、レース中に右前脚繋靱帯不全断裂を発症。競走能力の喪失と診断され、そのまま引退した。

 今年、ジャパンカップは43回目を数える。日本馬が初めて優勝したのは、キョウエイプロミスが世界に迫った翌年。シンボリルドルフとミスターシービーの2頭の3冠馬が外国馬を迎え撃った1984年(第4回)のこと。単勝10番人気のカツラギエースが鮮やかに逃げ切った。

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“お宝”は記憶の中にある!
放浪の馬券師 萬ケン之介の今年のジャパンカップの予想は……👇


◎ イクイノックス

○ リバティアイランド
▲ パンサラッサ

◎本命はイクイノックス。昨秋から前走の天皇賞・秋の連覇まで、海外(ドバイ・シーマクラシック)を含むGI5連勝中。逃げて良し、差して良しの自在性で、どんなレースにも対応できる。9戦7勝2着2回と抜群の安定感は、まさに世界一。
○対抗は無敗の3冠牝馬、リバティアイランド。最後方から追い込みを決めた桜花賞、直線で他馬を寄せ付けず楽勝したオークスに秋華賞と世代では敵なし! 斤量差を生かして、どこまで迫れるか、注目したい。
▲単穴は、パンサラッサの“無欲”の逃げ残り。タイトルホルダーとの兼ね合いだけ……。昨秋の天皇賞・秋(2着)のような、思い切った大逃げを期待したい。
                     (放浪の馬券師 萬ケン之介)

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