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最初で最後のGI制覇 “名牝”リンデンリリーと“若手の一番星”岡潤一郎騎手が輝いた瞬間

 メジロラモーヌ、ウオッカ、アパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイ……。「名牝」と呼ばれる、多くのGIレースを制した女傑は少なくない。牝馬同士のレースはもちろん、牡馬をも蹴散らした。
 今回の主人公、「リンデンリリー」はGI1勝。1991年のエリザベス女王杯に勝ち、そのレースを最後に引退した。そんな彼女を“名牝”と呼ぶことは、もしかしたら相応しくないのかもしれない。しかし、筆者の記憶に強烈に刻まれている、まごうことなき”名牝“で、騎乗した21歳(当時)の岡潤一郎騎手は”若手の一番星“であったと思っている。

史上初だった1着からの「降着」

 リンデンリリーのデビューは華々しいものではなかった。1990年12月2日、京都競馬場の新馬戦(ダート1400メートル)で須貝尚介騎手を背に、9番人気という低評価に甘んじていた。
 ところが走ってみれば、なんと5馬身差の圧勝。初出走で初優勝を果たした。明けて4歳(現3歳)になると、クラシックシーズンが到来。彼女を管理する野元昭調教師はデビュー戦の圧勝劇でGI、桜花賞への参戦を意識していたという。そして、2戦目に選んだのが1月6日の紅梅賞(オープン、芝1200メートル)への参戦だった。
 新馬戦の圧勝も、評価は再び9番人気。中団より前でレースを運び、楽に抜け出し。2着だったフレンチパッサーを3馬身ほどちぎって1着で入線したが、直線で内斜行して他馬の進路を妨害したと13着に降着処分となった。
 ちなみに、中央競馬の降着制度は1991年1月に導入された。リンデンリリーの降着は、JRA史上初の1着入線後の降着だった。
 クラシック路線に乗ったかに見えたリンデンリリーだったが、結果的に2勝目を逃した。それどころか、その後は脚部不安に見舞われ、休養を余儀なくされた。目標にしていた桜花賞も、オークスへの出走も棒に振ってしまった。それでも、2戦目の“ぶっちぎり”で評価は一変。「桜花賞に出走していたら……」と、秋を楽しみする声が広がっていた。

 1991年の牝馬クラシックには、あまたのスター候補生がいた。1989年デビューの角田晃一騎手に初GIをプレゼントした桜花賞馬のシスタートウショウや、松永幹夫騎手が乗ったオークス馬のイソノルーブル、“天才”武豊騎手でクラシック戦線をにぎわせたスカーレットブーケ、重賞2勝で桜花賞に臨んだミルフォードスルー、さらには桜花賞で2番人気に推され3着、オークスも4着と若手で勢いのある岡潤一郎騎手が騎乗するノーザンドライバーと、実力馬がズラリ。さらには桜花賞2着のヤマノカサブランカやGIIIのクイーンステークス勝ちのイナズマクロスと、じつに層が厚かった。

キャリア7戦でエリザベス女王杯制覇!

 春のクラシック参戦が叶わなかったリンデンリリーは7月27日、小倉競馬場の日向特別(500万円以下。現2勝クラス ダート1700メートル)で復帰した。2番人気に推されたが、4着に終わった。次走は9月7日の中京競馬場。叩いた効果もあってか、馬体が急激に良化して条件戦(500万円下。ダート1700メートル)で2着。9月21日の馬籠特別(500万円以下、芝2000メートル)で武豊騎手の手綱に導かれ、2勝目を挙げた。
 照準は、クラシック3冠目のエリザベス女王杯に定めた。とはいえ、リンデンリリーがエリザベス女王杯に出走するためには、トライアルのGII、ローズステークスで3着以内に入り、優先出走権を得る必要がある。それ以前に2勝馬では獲得賞金が足りず、ローズSに出走できるかどうかも危うい。
 ただ、風向きが変わった。休養明けから手綱を取っていた武豊騎手はスカーレットブーケへの騎乗が決まっていたが、そうした中で、“主役”候補の一頭だったノーザンドライバーが戦線を離脱。岡潤一郎騎手が空いた。
 将来が有望視されていた岡騎手を起用できたのは“幸運”だった。

 10月20日、リンデンリリーはローズSの出走に、どうにか漕ぎつけた。強豪ひしめく14頭立てのなか、わずか2勝馬の彼女はスカーレットブーケに次ぐ2番人気に推された。
 リンデンリリーは、レースではスタートから先行して好位を確保。平均ペースで流れるなか、3コーナーで上位をうかがうように進出をはじめると、中団から先に抜け出したヤマノカサブランカが先頭に躍り出たところを、温存していた末脚が爆発。直線一気で差し切った。スカーレットブーケ(3着)に4馬身半、2着のヤマノカサブランカに半馬身差をつけての優勝。初の重賞制覇と、狙いどおりエリザベス女王杯への優先出走権を手にした。

 条件戦~GIIを2連勝して迎えた11月10日の本番、牝馬3冠の最終戦のエリザベス女王杯は、リンデンリリーが“主役”だった。春の牝馬クラシックを制したシスタートウショウと、ノーザンドライバーは出走せず。オークス馬のイソノルーブルも調整の遅れがささやかれていた。実力上位のスカーレットブーケやミルフォードスルーも精彩を欠き、おのずと彼女が1番人気に推された。
 不安材料はあった。キャリア7戦目という大舞台での経験不足。鞍上の岡潤一郎騎手の若さも「弱点」といわれた。
 ゲートが開いて先手をとったのはテンザンハゴロモ。2番手にイソノルーブルが追走する展開に。リンデンリリーは馬群の内側、ちょうど中団ぐらいでレースを進めた。ローズSで人気を分け合ったスカーレットブーケはその後ろにつけ、さらに後方にイナズマクロスが虎視眈々と、末脚に賭けている。
 スローペースに、やや引っ掛かりぎみにヤマノカサブランカが早めに先行勢をとらえにかかったが、リンデンリリーはじっとしていた。仕掛けのタイミングをやや遅らせ、直線に向くと外側から弾けた。逃げるイソノルーブルやヤマノカサブランカをかわし、追い込んでくるスカーレットブーケやイナズマクロスを寄せ付けず、2着のヤマノカサブランカに2馬身差をつける独走でゴールを駆け、3連勝で一気にGI制覇を成し遂げた。
 GIでの優勝は、リンデンリリーにとっても、岡潤一郎騎手にとっても初めて。キャリア7戦目でのエリザベス女王杯の戴冠は、史上最短タイ(1980年のハギノトップレディに並ぶ)だった。

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岡潤一郎騎手の落馬事故

 悲劇はレース直後に起こった。ゴール板を1着で通過したリンデンリリーは前脚に故障をきたしていた。「ゴール直前で内側にヨレたときには、すでに故障していたようだ」(岡潤一郎騎手)と、彼女は故障した前脚を後ろ脚で庇いながら走破したとされる。
 診断は、右前浅屈健不全断裂。競走能力は喪失。エリザベス女王杯の優勝を最後に引退した。生涯成績は7戦4勝。獲得賞金は1億5063万円。その後、彼女は繁殖牝馬となり、2003年のフィリーズレビュー(GII)を勝ったヤマカツリリーなどを生み、2008年5月、20歳で大往生した。

 ところが、それだけでなかった。リンデンリリーをGI馬に導いた2年後の1993年1月。京都競馬場での新馬戦で、岡騎手が騎乗するオギジーニアスが4コーナーで左後脚に故障を発生(予後不良の診断で安楽死処分)。その時にバランスを崩して馬が転倒するとともに落馬し、頭部を負傷した。
 救急搬送されたものの、外傷性クモ膜下出血、頭蓋骨骨折、脳挫傷、脳内出血により意識不明の重体に陥り、その後肺炎を併発するなど病状が悪化して2月16日にこの世を去った。24歳だった。
 岡騎手は1988年にデビュー。その年のJRA最多勝利新人騎手に輝き、90年5月のNHK杯(当時はGII)ではユートジョージで初重賞制覇を果たした。同年の宝塚記念(GI)では“芦毛の怪物”オグリキャップに騎乗したが2着に敗退する経験も得た。さらに、90年11月のデイリー杯3歳ステークス(GII)、翌年3月のペガサスステークス(GIII)ではノーザンドライバーで優勝。そしてリンデンリリーで、10月のローズS、11月のエリザベス女王杯の制覇と、若手の中でも最も注目される騎手の一人だった。
 わずか5年余りの騎手生活だが、通算成績は2177戦225勝(うち重賞5勝)。リンデンリリーとのエリザベス女王杯は、彼にとっても生涯唯一のGIタイトルだった。
 さて、今年のエリザベス女王杯はどんなレースになるのだろう。熱き戦いを期待する一方で、とにかく出走全馬が無事に完走することを切に願っている。
(放浪の馬券師 萬ケン之介)

※ なお、現行のエリザベス女王杯(GI)は、牝馬限定・3歳以上オープンで施行。

今年のエリザベス女王杯を予想する!


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“お宝”は記憶の中にある!
👇 放浪の馬券師 萬ケン之介の今年のエリザベス女王杯の予想は……

◎ ディヴィーナ
○ ハーパー
▲ ブレイディヴェーグ

古馬VS3歳馬の様相。◎本命はディヴィーナ(5歳)。前走のアイルランドトロフィー 府中牝馬ステークスで2着のルージュエヴァイユにハナ差迫られたが、スタートからの逃げ切りでしのいだ。もともと自在性がある馬で好位からの差し脚もある。母のヴィルシーナは2013年、14年のGIヴィクトリアマイルを連覇した名牝。エリザベス女王杯は2012年に1番人気に推されたが、レインボーダリアの2着にクビ差屈した。その雪辱を娘が果たす。
○対抗は“強い”3歳馬から、ハーパーを指名。桜花賞で4着、オークス2着、秋華賞3着と牝馬クラシックで好走。3冠馬リバティアイランドの存在で、GIでは悔しいレースが続いたが、3歳馬の好走が目立つエリザベス女王杯でなら……。
▲単穴も3歳馬のブレイディヴェーグ。前走のローズステークスでは、追い込み届かず、秋華賞2着のマスクトディーヴァに1馬身半差届かず2着に終わったが、上り3ハロン最速の32秒9の脚は強烈。秋華賞を使わず、このレースに賭ける意気込みは買える!
△一発なら、4歳馬のアートハウス



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