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宝塚記念を予想する

春のドリームレース「宝塚記念」といえば、関西テレビの名物アナウンサーだった、杉本清さんを抜きに語れない。数々の名言を残し、ケイバの実況中継なら、おそらく右に出る者はいないであろう。そう思っている。
「今年もあなたの、そしてわたしの夢が走ります」の名セリフを、往年の競馬ファンは忘れることができない。そんな杉本さんが「わたしの夢」と語ったのが「サイレンススズカ」だった。

「あなたの夢は…」杉本節さく裂の宝塚記念


https://www.photo-ac.com/

 
 「悲運の名馬」と称される彼がGIレースを勝ったのは、宝塚記念だけだ。いくつものGIレースを制したわけではない。それにもかかわらず、「あなたにとって、名馬は?」と聞かれて「サイレンススズカ」の名前を口にするファンは少なくないだろう。
 それぐらい、強烈だった。

1番たくさんの人が夢を賭けてサイレンススズカ


 1998年、第39回宝塚記念。主戦の武豊騎手がエアグルーヴに騎乗したため、鞍上は“テン乗り”で南井克己騎手に乗り替わっていた。
 そのエアグルーヴに、ステイゴールド(熊沢重文騎手)やメジロドーベル(吉田豊騎手)などの“名馬”が出走するなか、サイレンススズカはそれらを抑えて1番人気だった。杉本節が炸裂する。
「1番人気、1番人気、1番たくさんの人が夢を賭けてサイレンススズカが先頭です」
 スタートからゴールまで、いつものようにハイペースで飛ばして、一度も前を譲ることなく逃げ切った。2着のステイゴールドとは、4分の3馬身の差があった。

「勝ったオフサイドトラップの5、6馬身前にいたでしょうね」

 サイレンススズカの最後を覚えている競馬ファンもまた多い。第118回天皇賞・秋(1998年11月1日)。単勝1.2倍。3歳馬のグラスワンダーやエルコンドルパサーを寄せ付けず、「強い」サイレンススズカを多くのファンが応援していた。
 レースはサイレンススズカがいつも通り、ハイペースで逃げた。2番手を大きく引き離し、誰もが楽勝だろうと思ったであろう、その時に事故は起こった。東京競馬場の大ケヤキを越えて、4コーナーの入り口に差し掛かったとき、鞍上の武豊騎手が手綱を引き、前進しようとする彼を止めようと立ち上がる姿を、外へ外へとコースを外れていく彼を目の当たりにしたファンの悲鳴が東京競馬場を覆った。
 勝ったのは、柴田善臣騎手が騎乗した8歳馬(現7歳)、オフサイドトラップ。2着はステイゴールド(蛯名正義騎手)だった。
 「なんということ……」「沈黙の日曜日」と絶叫するアナウンサーの声。しばらく現実を受けとめられずにいる多くのファン。
 レース回顧で、解説の大川慶次郎氏が前半の走破ラップを計算しながら、「勝負事にもしはありませんが、もしあのまま(故障を発生せずに走りきっていた)であったら、勝ったオフサイドトラップの5、6馬身前に(サイレンススズカは)いたでしょうね」と、静かに語った。
 サイレンススズカは、左手根骨粉砕骨折を発症。予後不良で安楽死処分となった。

 そんなサイレンススズカが勝った宝塚記念は、最近でこそ秋のGI戦線や海外遠征のステップレースとしての位置付けが強まり、多くの実力馬がそろうドリームレースにふさわしいGIの舞台になったが、ひと昔前までは梅雨の時季で馬場が悪いこともあり、実力馬は無理をさせない傾向にあった。
 それもあってか、「GIレースの勲章は宝塚記念だけ」という馬は少なくない。スズカコバンやオサイチジョージ、メジロライアン、ダンツシアトルにマーベラスサンデー(大阪杯を勝っているが当時はGIIだった)。メイショウドトウ、ダンツフレーム、エイシンデピュティ、アーネストリー、ナカヤマフェスタ、ミッキーロケット……。
 実力はありながら、GIに手が届きそうで届かなかった馬たちが“意地”で勝ち取った栄冠が宝塚記念なのだ。
 さて、今年はどんなレースになるのか――。まずは、出走するすべての馬たちの完走を祈りたい。
                                                                                                (思ひ出馬券師)

今年の宝塚記念の予想はこちら ►

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“お宝”は記憶の中にある!
思ひ出ばけん師さんのケイバ予想

◎ ディープボンド
○ イクイノックス
▲ ドゥラエレーデ

◎本命は、ディープボンド!
悲願のGI奪取を、宝塚記念で達成する。阪神大賞典(GII)の優勝や天皇賞・春での好走と、名ステイヤーにあと1歩のところまできている。コンビの和田竜二騎手にとっても、この馬とのGIタイトルへの想いは強いはず。応援したい。
○対抗は、”世界”のイクイノックス。昨秋は天皇賞・秋と有馬記念とGIを連破。海外戦では、GI ドバイシーマクラシックを逃げ切りの大楽勝と、世界にその名を轟かせた。海外帰りの1戦とはいえ、馬券にならないことは考えづらい。
▲単穴は、大穴を狙ってドゥラエレーデ。昨年暮れのGI ホープフルステークスの優勝馬。日本ダービーは8‐17番枠からの発走も、ゲートが開いてすぐに落馬。まったくレースをしていない。斤量53㎏で、古馬との差は大きい。人気薄の3歳のGI馬に期待する。

※ 次回は秋! GI スプリンターズステークスでお会いしましょう。

◆ 筆者のプロフィール ◆
こんにちは! 思ひ出馬券師です。
大学時代に初めて買った馬券(メジロティターンが勝った天皇賞・秋)が的中したのをきっかけに、ケイバにハマる。卒業時、“競馬の神様”大川慶次郎氏に教えを乞おうとするが、「君のような人は競馬界の外で、ケイバを楽しんでくれなきゃダメだよぉ。それを広めてほしいな」と諭され、執筆活動に。ぼちぼち、原稿を書いている。
好きな馬はミスターシービーとウォッカ。モットーは、「馬券は予想の答え合わせ」。
東京都渋谷区生まれ。

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