
「なんとなく空き家」をなくすための仕組みづくり
長野県北相木村には120戸を超える空き家がありますが、この問題は、地方の多くの自治体で共通する課題です。
「家主が亡くなり、相続人が都会にいて放置」
「取り壊しにはコストがかかる」
「知らない人に貸すのは不安」
というパターンが多いとすると、解決策としては以下のようなアプローチが考えられます。
1. 空き家の所有者に対するアプローチ
何はともあれ、相続人の理解と協力が不可欠です。 まずは所有者(相続人)とコンタクトを取り、活用の選択肢を示すことが重要です。
もちろん行政としても、すでにアクションは起こしています。 相続人の方に手紙を出して補助金があることの説明など、行政ができるサポート体制について連絡をしています。
とは言え、相続人が一人だけというケースは稀です。 ご兄弟、親戚など複数の方が関係していると、即決即断できないのは当然のことです。
ありきたりの解説にはなりますが、論点を整理して共有するために以下、書いてみます。
具体策
「空き家バンク」制度の見直しと積極的な告知案内
ただ登録を促すだけでなく「登録するメリット」を明確にする必要があります。
利用希望者(移住者や二拠点生活希望者)とのマッチング支援を加味します。
正確な数字ではありませんが、現状、私たちの北相木村では、120戸近い空き家の中で、空き家バンクに登録してくださっている方は10軒未満。
多くの相続者の方は空き家バンクへの登録を躊躇されています。
この原因はいくつも考えられますが、
・登録したら最後、手放すことの決断になる
・登録するメリットが不明
・知らない人に住んで欲しくない
・家財がそのままになっている
住める状態の良質な空き家は
・たまに帰省する
と言う方が多いです。つまり「長期不在」ではあるものの、年に数日帰省されるので、厳密には「空き家」である認識はありません。
こちら側の視点で見ると「ずっと空いたままになっている」けれど、所有者の方からするとあくまで「不在」なだけですから空き家バンク云々の話にはなりません。
どちらにせよ「いつかはこの村に帰ってくる」前提がない=ほぼ0%ならば、いつかは何らかの決断をしなければなりません。
そこで、行政の側からの積極的な働きかけが必要となります。
所有者向けWebセミナーや説明会の実施
「空き家を放置するとどうなるか(特定空き家のリスク)」
「維持費がかかるより貸した方がいい」
「リフォームすれば価値が上がる」
こういった情報を提供し、意識を変える。
特定空き家の問題は、今後、どこかのタイミングで急速に社会問題になると考えられます。
<参考>特定空き家」とは
国の空家等対策特別措置法(空き家対策法)に基づいて市町村が指定する空き家のことです。
特定空き家に指定されると所有者に対して改善の義務が生じ、放置するとペナルティが課される場合があります。
特定空き家の定義
以下のいずれかに該当する場合、自治体が「特定空き家」として指定することができます。
倒壊の危険がある
屋根や壁が崩れそう、基礎が弱っている
衛生上の問題がある
ゴミの放置、害虫・害獣の発生
景観を損なっている
近隣の景観に悪影響を与えている
適切な管理がされていない
長期間放置され、管理が不十分
特定空き家に指定されるとどうなる?
固定資産税の軽減措置が解除
通常住宅用地は固定資産税が最大1/6に軽減 されますが、特定空き家に指定されると軽減措置が外れ、税負担が増加してしまいます。
自治体から是正勧告・命令が出る
例:「修繕または解体するように」などの指導が入ります。一部の自治体ではすでに運用が始まっています。
改善しないと強制撤去(行政代執行)
期限までに対応しないと自治体が強制的に撤去し、その費用は所有者に請求される。これも一部自治体で運用が始まっています。
北相木村の空き家問題との関係
「なんとなく空き家のまま」のケースでは、恐らくは今すぐ特定空き家にはならないかもしれません。
とは言え老朽化が進んで危険になった場合、特定空き家に指定される可能性があります。所有者の方には早めに活用策を考えて頂きたいと願っています。村は積極的に相談に乗る体制を取っています。
寄付・無償譲渡の仕組みづくり
「売るのも貸すのも面倒」という所有者に向けて、村に無償譲渡する選択肢も提示しています。ただし、村としてはどんな空き家でも無償で譲り受けることはできないのも現状です。譲渡を受けた後、活用する手立てがないと、管理コストの負担などが行政に重くのしかかる可能性があるからです。
現状では、所有者の方と私たち行政が、「充分で密なコミュニケーションが取れている」とは言い難いので、積極的な情報発信を心がけます。
2. 「なんとなく空き家」をなくすための仕組みづくり
所有者が「今すぐ決められない」「手続きが面倒」と思っているケースが多いので、具体的な活用例を提示して行きたいと考えています。
具体策
モデル空き家の活用事例を作る
例えば、空き家活用の一環で多機能スペースを作ることができれば「こういう活用がある」と示すことが可能です。
一軒でも成功事例を作り、村全体に波及させたいと考えています。
「お試し短期移住」制度の活用
空き家を短期間借りて滞在できる仕組みがありますが、充分に告知されていません。
借りる人、貸す人双方の心理的ハードルを下げるには、「借りたい」人にまずは村の雰囲気を掴んでもらうことが大切です。
空き家活用コンテストの実施(将来的に)
今すぐにはできませんが、クリエイター、起業家、移住希望者に「北相木村の空き家で何をしたいか?」というアイデアを募り、活用モデルを作って行きたいです。
3. 行政としての支援策
行政が関与し前向きな姿勢を見せることで所有者・利用希望者の安心感を高め、より積極的な活用を促すことができます。
具体策
「特定空き家」指定を発令する前に充分なコミュニケーションを取る
危険な空き家は「特定空き家」に指定されてしまい、固定資産税の軽減措置を外されてしまうことを伝える。所有者に早急な決断、対応を促す。
解体・リフォーム補助金制度の告知
解体の補助金があることを積極的に伝える
「解体ではなく活用」の選択肢もあることを伝える
例:移住者向けリフォーム費用の一部負担
「空き家管理代行サービス」の提供
所有者が放置しないような管理サービスの仕組みを作る、または現状使える制度を知らせる。
定期巡回や草刈り、屋根修理などを低コストで代行する仕組みを作る
放置されている空き家が劣化しないよう、所有者と行政で連携する、密なコミュニケーションを取る。
4. 活用の具体的な方向性
最終的に、空き家をどのように使うのかも重要です。
活用アイデア
移住者向け住宅・コワーキングスペース
ユーザーのプロジェクトとも連携し、空き家を「住居+仕事の場」にできるよう整備する。
ワーケーション施設
都会の企業やフリーランス向けに「北相木村で仕事と休暇を両立」できる場としてPR。
コミュニティスペース
地域住民の交流拠点、古民家カフェ、マルシェスペースなどに再生する。若い人のアイディアを活用する。
まとめ
北相木村の空き家問題は、単なる所有者の意識改革だけでなく、行政の支援や地域全体の活用モデルの確立が必要です。特に「なんとなく空き家で放置」のケースが多いように感じるので、まずはひとつ成功事例を作り、所有者の意識を変えていくことがカギ になりそうです。
もちろん真っ先に変えるべきは行政の側の意識でもあります。空き家を村の負の遺産と捉えるのではなく、社会資源として活用する発想の転換が望まれます。
まずは一箇所、村の住民の人たちが「へえ」と思うような場を作りたいと考えています。
