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湘南ベルマーレ 2024シーズンレビュー 前編


■はじめに

 ヴィッセル神戸の連覇で幕を閉じた2024シーズンのJ1リーグ、湘南ベルマーレは20チーム中15位で全日程を終え、来年もJ1で戦う権利を得た。他チームではすでに移籍・監督就任情報が出回るなどオフシーズンの雰囲気が漂っているが、それらが本格化する前に2024シーズンを振り返っていくのが本記事の主題である。

 一つ目は公式戦に出場した選手たちの年齢で区切って、年齢ごとの出場率に着目。淳之介や章斗が月間ヤングプレーヤーに複数回選出され、若手の成長が目立ったという印象がある今シーズンだが、過去10年間と比べて出場率はどれほどのものだったのか、そしてリーグ戦で勝ち点は取れていたのか、という観点で振り返っていく。こちらが前編の内容にあたる。
 後編となる二つ目は、ピッチ上の出来に目を向けてみる。シーズン序盤に採用された4-4-2システムを切り口として、監督・スタッフ陣は何を狙ってその布陣を準備・挑戦するに至ったのかを探り、秋の好調に繋がる要素はあったのかを考えてみたい。

 どれも筆者の個人的な見解でしかないが、オフシーズンのベルマーレ不足を補う手助けになれば幸いである。



■若手選手たちの突き上げ


 今シーズンの湘南を振り返るうえで一番初めに挙げられるトピックは、若手選手たちの活躍だろう。福田、章斗の二桁ゴール、畑のリーグ戦初得点を含む4ゴール5アシスト、石井久継・根本の初ゴールや髙橋・淳之介・松村によるCBとしての台頭、そして負傷離脱期間を除いて通年で働き続けた平岡と田中と、若手選手たちの突き上げが目立った年だったと言える(記録はすべて第37節終了時点)。
 とくに章斗や淳之介はリーグが選ぶ月間ヤングプレーヤー賞にも選出されるなど、対外的にも活躍が認められるほどであった。なお執筆時点で当賞を複数回所属選手が受賞しているのは湘南だけである。(※10月度発表時点。他クラブはガンバ大阪、FC東京、ジュビロ磐田、サガン鳥栖、川崎フロンターレが各1回ずつで、湘南は章斗2回と淳之介1回で合計3回受賞)


 そこで前編で取り上げるのは、今年活躍した若手選手たちの出場率は過去10年間と比較してどうだったのか、彼らが出場したうえで獲得した勝ち点はどれほどだったのかというポイントである。遠藤航や齊藤未月、石原広教、菊池大介といったユース出身者を筆頭に、金子大毅、松田天馬といったルヴァンカップ優勝期のメンバーなど、過去10年間の湘南にも優れた若手選手たちが活躍していたことに異論がある方はいないだろう。今年の記録を過去10年間と比較して、ただの印象論ではなく数字という観点から今シーズンを位置付けてみようという試みである。

■若手選手の出場率と平均取得勝ち点(2015~2024)


 方法として過去の公式記録を公開している Soccer D.B. (https://soccer-db.net/) より直近J1で戦っていた10年間(2015年~2024年、ただし2017年のみJ2)の公式戦出場記録を引用。さらに各選手の年齢(該当年の12/31時点)で若手・中堅・ベテランと区分し、リーグ・ルヴァンカップ・天皇杯といった国内公式戦における各選手の出場時間を総試合時間(試合数×90分、延長戦があった場合のみ120分で算定。フル出場=90分の扱いで、途中出場の場合はアディショナルタイムも含める)で割って出場率を算出した(なおJ2リーグを戦った2017年はルヴァンカップの試合数ゼロ)。
 文字だけだとわかりづらいと思うので、具体的には以下のようになる(出場時間の単位は分)。

2024シーズン(第36節終了時点)の出場率

 各年齢区分は以下の基準で分類した。世界的には10代で活躍するスタープレイヤーの登場により"若手"とされる年齢が狭まり、中堅と扱われる年齢も下がる傾向があるが、今回は国内の公式戦に限る点から大卒選手も若手に含める意図で、オリンピックの基準=23歳以下を若手の扱いとした。

若手
オリンピック世代の23歳以下を基準とし、例外的に大卒選手のみ2年目の24歳までとする。高卒5年以内、大卒2年以内、23歳以下の移籍加入選手、特別指定選手、2種登録選手。

中堅
大卒2年目までの選手を除いた、24歳~30歳の選手

ベテラン
31歳以降の選手

 過去10年間の成績を振り返ってみると9年間がJ1、2017年のみJ2を戦っている。各年のトピックは備考欄を参考にされたい。

過去10年間の成績。
リーグ順位は指定がなければJ1リーグのもの。


■若手の出場が多かったとして、勝ち点は取れているのか?

 集計結果が以下のグラフと表である。折れ線グラフが平均取得勝ち点(取得勝ち点/リーグ戦の試合数)、棒グラフが若手選手たちの出場率になっている。2017年はJ2優勝を果たした成績のため、平均取得勝ち点は外れ値となっているので注意したい。

 若手選手出場率から見ていくと、2024シーズンは44.82%と過去10年間で最高の数値を出している。昨シーズンは21.83%と半分以下の数値であるため、いかに若い力の台頭があったかが感じられる結果となった。2020シーズンは今シーズンとほぼ同水準の出場率になっているが、降格なしという特殊なレギュレーションであった点は考慮すべき点だ。
 そして平均取得勝ち点に目を向けると、2024シーズンはJ1最高順位8位を記録した2015シーズンに次ぐ数値となっている。2018・2022シーズンも近い値で、下位ながら中位も見える位置で終えるとこれくらいの数値になるのだろう。
 その他の年も含め、各数値間の比較より読み取れるポイントは以下の通りである。

・2024シーズンは若手出場率、平均取得勝ち点ともに過去10年間において高水準。選手とチームの成長が掛け合わさった年。
・若手出場率が下がると、平均取得勝ち点も下がる傾向にある(2016年、2023年)。成績が悪く経験の浅い選手を起用する余裕がないというのもあるだろうが、中堅・ベテランを押しのける程の実力を持った若手選手がいないとも取れる。
・当然ながら若手選手を起用すれば勝てるわけでもない(2020年、2021年)。
・浮嶋監督以降は若手出場率が上昇傾向にあり。2018年から2019年のジャンプアップは、ベテランの引退・退団(島村・ミキッチ、アンドレバイア・藤田)も影響している。

 筆者は統計に関する知識も経験もないため、有識者から見れば穴だらけの見解かもしれない。数ある拙さに関しては、調査の新規性という点を考慮して目をつぶってもらえると幸いである。


■出場機会を殆ど得られず退団した選手の集計(2014~2024)

 さて、これまでは試合に出場してきた若手選手について見てきた。次に注目したいのは、試合に出場できなかった若手選手たちである。以下の表はFootball LABで(https://www.football-lab.jp/)データが確認できた2013年以降、新卒(高卒・大卒の年齢)で入団し、湘南での公式戦出場が10試合未満で退団した選手たちである。現在の所属選手についてもまとめている。

湘南での公式戦出場が10試合未満で退団した選手
現在所属している新卒入団選手
入団年は特別指定・2種登録された年としている

 出場試合数の集計方法は、前述のFootball LABより各年の新卒入団選手をピックアップし、Jリーグ公式サイトの選手名鑑掲載の出場歴(https://www.jleague.jp/player/)、またはクラブ公式サイトでの退団リリース記事にて出場試合を確認した。一部退団リリース記事が確認できず、かつすでにJリーグに所属していない選手たちについては、所属年度の公式記録及び、補足としてWikipediaも参照している。またポジションの特性上、GKは備考欄に記載した。すべて筆者の手作業と目検による集計のため、入力に誤りがあるかもしれない点はあらかじめご承知いただきたい。


■クラブの変革期、強化方針の変化

 この集計結果で着目したいのは各選手の出場試合数ではなく、出場試合に恵まれなかった選手たちの数である。この10年間を大雑把に曺貴裁体制/以後と分けると、前者の方が該当する選手が多い。これはどちらが良い悪いの話をしたいのではなく、クラブの強化方針が曺貴裁体制終了後から変わったのでは?という仮説のためのものだ。

 曺貴裁体制下では大量採用を行い、環境に適合した選手だけが生き残っていく生存競争型の強化を行っていた。J1とJ2を行き来し、実力のある選手や有望な若手選手の獲得が難しい時代には最適な方法だったのかもしれない。後に判明する加害性のある強権的な指導方法を踏まえると、それ以外の方法がなかったのかもしれないが。
 一方曺貴裁以降、浮嶋/山口体制となった2020年以降は出場機会に恵まれない選手が減少傾向にあるといえる。もちろん曺貴裁体制(2013~2019)とそれ以降(2020~2024)では前者の方が期間が長いため単純な比較はできない。しかしながら浮嶋/山口体制の期間に入団した選手のうち、2024シーズン時点で湘南での公式戦出場が10試合未満なのは6選手(平松、横川、原、石井大生、蓑田、柴田徹。特別指定中の渡邊は除く)であり、現所属GK真田(2017年2種登録)を加えても7選手。曺貴裁体制下では15選手だったことを考慮すると、新卒入団選手の獲得方針や基準に何らかの変化があったという仮説はあながち外れではないように思われる。

 それはクラブを取り巻く環境の変化に適応したものであるし、その変化は間違いなく曺貴裁体制下における若手選手の活躍とステップアップ、ルヴァンカップ優勝といった結果に起因している。また2018年以降J1に残留し続け、エレベータークラブからJ1の下位というクラブの立ち位置も若干前進したのもあるだろう。Jリーグでキャリアを終えるのではなく海外移籍が珍しくなくなった現在では、有望な選手たちが入団初年度からトップリーグでの出場機会を求めるようになっている。湘南は彼らにとって”ちょうどいい”クラブとして選択肢に含まれているのかもしれない。
 つまり以前よりもさらに優秀な若手選手たちが集まったことによる突き上げとともに、湘南ベルマーレというクラブカラーを理解・共感したうえで加入する選手たちの増加によってミスマッチが減少。その結果として若手選手たちの出場率が上昇傾向にあると考えられる。また彼らの活躍や月間ヤングプレーヤーの表彰によって今後のリクルートにも好影響が見込まれ、高卒・大卒入団選手の活躍とステップアップ⇒自分もそれに続くと意気込んだ実力者の入団…というサイクルが回り始めたと言える。それは早速2025年度の新卒入団選手にも表れており、筑波大の田村蒼生が湘南を選んでいる。彼は今年の最注目銘柄とも言われていて、今後の活躍が楽しみな選手である。


■数字だけで見る山口監督の手腕

 今後Jリーグにおいて湘南が上位を目指していくうえで、有望な若手選手を中心に置いたサイクルを回していくのは現実的な方法かと思う。強力なスポンサーがついて代表選手を大量獲得していくような夢物語は叶わず、リーグ内の実力者たちは上位クラブ所属であっても短期間で欧州へステップアップしていく時代になった点を考慮すると、残すはまだ見つかっていない有望な選手と力はあるものの出場機会を失っているベテランを融合していくことが最適解であろう。言うのは簡単だが実行するのが難しいチームづくりの中で、今年はそれを実現して見せたシーズンだったのではないだろうか。
 ピッチ上の出来はいったん置いておくとして、数字とクラブを取り巻く環境にのみ着目して考えれば、今シーズンの山口監督は上々の出来だったと言える。高卒3年目となる章斗や淳之介、まだ見つかっていなかった福田の起用や上福元やミンテを代表とした出場機会を求めて加入したベテランの活躍など、目指すべき方向性に合致する起用方法で一定の結果を出した。今後は雄斗のように、他クラブでも活躍できる実力者たちを獲得する機会を増やしていければ理想的である。言い換えるなら「このクラブなら成長できる」と思ってもらえるようになった現在から、「このクラブで活躍したい」となり、ゆくゆくは「このクラブで優勝したい」と連なっていく選手とクラブの強固な相互関係を構築していくことである。

 こうした点を踏まえると、現在の湘南において山口監督は適任であると考える。風土に合わせたサッカーを構築しつつ、環境に合わせた選手起用でクラブの目線を少しずつ上げられている現状、中長期的に見れば期待通りの働きをしてくれていると捉えられるだろう。どちらかと言えば、他クラブからの引き抜きや監督自身のステップアップ志向によって、袂を分かつのがいつになるか気にかけるべきかもしれない。



 以上でシーズンレビューの前編を終える。後編ではピッチに目を向けた話をしているので、よければそちらも読んでもらえると嬉しい。


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