季節を抱きしめて

ここのところWHITE ALBUM2のキャラソンばかり聞いているが、その前まではとあるアルバムのある一曲ばかりを馬鹿のように繰り返し聞いていた。

そのアルバムが、これだ。

冴えカノを全巻揃えたのもWA2をやり始めたのも、ここに収録されている曲の世界観をもっとよく知りたかったからという面が大きい。
さすがにパルフェやこんにゃくにまで手を広げる予定はないが…今のところ。

良曲揃いのこのアルバムだが、その中でもイチオシがメインヒロイン加藤恵(CV: 安野希世乃)が歌う『季節を抱きしめて』だ。
もともとは同名のゲームの主題歌で大藤史さんが歌っており、本家の歌ももちろん好き。作詞は大藤史・沢村淳子、作曲は大藤史。

今回はこの曲の音楽的な魅力をやたらと細かく妄想マシマシ(特に二番)で語りたいと思う。作詞、作曲、編曲、歌唱、演奏どれをとってもすごい。
なお私に音楽経験はほとんどないため、いちユーザー目線で聞こえたもの、感じたもの頼みの感想になる。エアプなことを言うかもしれないがあしからず。

当然、曲を聞かないと伝わらないところをむりやり言葉にしようとするので意味の分からないところがあると思う。それでもこの記事から何かを感じていただけたなら是非!実際に曲を聞いてみてほしい。サブスクにはないけどTSUTAYAのレンタルならあるよ。

では、曲を追いながら感想を。

イントロ。いやもう、のっけの「ジャカジャーン」からあふれる透明感。金物とアコギのキラキラ感がみずみずしい。
ゆったりしたビートのバスドラは物語が始まる前のよう。登場人物の二人が恋人どうしになる前の時間を表現しているのかもしれない。
そこから四つ打ちになる。物語が動き始め、二人で歩いてきた時間を感じさせる。

「四月になれば」の歌い出しだけでもう泣きそう。
この部分では鳴っている音が一気に少なくなる。それがさらなる透明感を与えるとともに、四月を迎える前の少し肌寒い空気まで伝えてくる。
「新しい風吹く場所」での新しい生活への希望もある。けれど、そればかりじゃない。「伝えきれない溢れる想い」もある。歌っているのが声優さんだけあって声での感情表現がとても上手い。
アニソンは一般の歌よりも声にはっきりと感情を出して演技するように歌う傾向があり、それが時に過剰に感じられることもあるが、この歌はその塩梅が絶妙で歌い方に変なクセもなく心地良い。

別れの寂しさや不安に負けないように「心に刻んだ 重ね合う時」を「確かめ」る。ここから入ってくるベースが非常にいい仕事をしていて、低音域をどっしりと鳴らしながら表拍強めの一定のリズムでルート音を刻む演奏が、それまで積み重ねてきた時間を確かめながら一歩一歩地面を踏みしめる二人の歩みを支えている。同時に八分で刻むリズムは四つ打ちのバスドラと合わさって高鳴る胸の鼓動のようでもある。
風景のイメージは穏やかに晴れた川沿いの並木道。そこは二人肩を並べて歩いた思い出の道であり、最後の別れの場所でもある。

サビ。「きっと この街から離れても ずっとこのままで」「あなたのそばにいるよ」と変わらない気持ちを約束し、「声をあげて笑いあえた 短い あの日の夢」と思い出を振り返る。心の前向きさが二番と対比になる。
最後の「短いあの日の夢」の「い」についてはラスサビのところで語ることにしよう。

二番に入って、「時には黙ってふたり膝を抱え」と辛い時間を振り返る。ここでも音は少なくなるが、キーボードの入り方が一番と違う。これが、窓から差しこむ薄青い月明りだけに照らされた、灯りのない部屋を思わせるのだ。
「言葉にできないもどかしさを あなたは許してくれたね」と、辛い時も優しく寄り添って支えてくれる相手だったことがうかがえる。
これは深読みのしすぎかもしれないが、このとき二人は電話していたのではないだろうか。電話ならしゃべらなければ意味がないはずなのに、未来への言葉にできない不安に押し潰されそうになって黙り込んでしまう。それでも「あなた」は電話を切らず、その不安にずっと寄り添ってくれた。そうして、離れた場所にいる二人の心は沈黙の中で繋がっていった。そんな映画のようなワンシーン。

「夢見た未来は」と声を強め未来への意志を見せたかと思えば、その声は「今はまだ霞んで」と儚く消えていく。強弱の山のつけ方や語尾のビブラートのかけ方が絶妙。夢を追いかけることにも二人が変わらずにいることにも不安がこみ上げてきて心が弱くなってしまう。
「あなたの胸に顔をうずめて 少し泣いていいかな」なんて加藤恵に言われたらもう死んでもいい。いや音楽関係ないからその感想。
で、ここでもベースが一番とは違った表情で曲想を伝えてくる。最低音域の成分が少なくなり、音の一つ一つが軽く短くなる。また音程もリズムも一番よりもよく動く。これが不安定でメランコリックな心模様を映し出しているのだ。

サビでは一番よりも別れの時が近づいていることが感じられる。
「あなたと歩きたい もっと」と未練が滲む。「思い出抱きしめて」の次が「あなたを感じてる」になり、離れた後の気持ちをよりリアルに想像している。「四月の空 淡い桜色した 別れの季節」と、すぐそこに迫った別れに思いをはせる。
「淡い桜色した」の「た」がさきほどの「短い」に対応するところなのだが、ここでは一切ビブラートをかけていない。これによってラスサビでの「短い」のビブラートがいっそう際立つ。

間奏。二人一緒にいられる残りわずかな時間が過ぎ去り、いよいよ最後の別れの時を迎える。

ラスサビ。一番サビと同じ歌詞を歌っているのに、伝わってくる感情の深さが全然違う。
歌い出しは意外にテンションを上げきっていない。初めのうちは二人はいつも通り話せていたのだ。けれど「この街から離れても ずっとこのままで」と口にした途端、だんだん抑えられない想いが溢れてきて、次々と蘇る「思い出」を「抱きしめて」感情はピークに達する。そして声の限りに叫ぶように、最後の一言にすべての想いを込める。「あなたのそばにいるよ」と。
ここで、「短いあの日の夢」の「い」である。短いという言葉とは裏腹に長くのばされた声が続く間に二人の日々が走馬灯のように駆け巡り、それがかえってあっという間に過ぎていった楽しい日々の短さを印象付ける。そしてビブラートが余韻たっぷりにその日々の終わりを告げる。たった一文字だが、この曲全体を締めくくるにふさわしい表現だ。

そうして二人は別れ、一人と一人が歩きだす。


季節を抱きしめて、
共に歩いていくことを胸に誓いながら。




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