♯7 耳管開放症という障害。

治療方法

薬をもらった。
その病院は同じビルに薬局があり、途中で改装されたけれどこの時のまだ寂れたあのソファの感覚は肌に残っている。

風邪の時に飲むシロップの味、色、プラスチックの蓋が唇に触れる感覚をまだあなたは覚えているだろうか。

ここから私は風邪をひけばこの病院に来て、待って。
予約という概念がない病院だった。
だからひたすらに三分で終わる診察といつもと変わらない薬を受け取る日々を五歳まで続けた。

そして実を言うと私はこの五歳になるまでの間に、頭は切るし骨も折るしで恥ずかしながらお転婆が過ぎて、救急車にお世話になり続けた日々だった。
その骨折も仕方がないとはいえ本来の骨とは違う付け方をした為に、今でも左右の筋肉量が違うと言うのはまた別の話。

はっきり言うと私は医者運が無い星に生まれたのだ。
もうこれはネタとして受け入れている。
それは今でも変わらない。
あまりにも笑ってしまう話だからいつか別に書こうと思っている。

話を戻そう。
五歳になった頃から薬以外の治療が始まった。
母があまりにも長い耳鼻科の通院生活に不安と疑問を持ったからだ。

先生の言う返答はいつも同じ。
笑いながらいつも言う。

『子供はなりやすいんですよ。
特に体が弱いのかな、この子は。
薬飲んでれば大丈夫ですよお母さん。』

ただひたすらに中耳炎を繰り返した私の鼓膜はもう張りがなく、滲出性中耳炎に進行して長い時が経っていた。

小さい頃に耳鼻科を受診して、ガッコウと何度も言わされた事はありますか?
もしくはラッパ、でしたか?
それともラッコやキック?
何にせよ破裂音を繰り返し大きな声で言う治療。

それはゴムでできた、まるで半分に切ったひょうたんのようなフォルム。
先端には鼻に差し込む器具が取り付けられている。
耳鼻科、ガッコウで検索してくれればこの治療器具の写真は出てくるのを確認済みだ。
知らない人はぜひ見て欲しい。


治療は至ってシンプル。
私の片方の鼻の穴にそのひょうたんの先端を軽く差し込む。
差し込んだ穴が右ならば、さらに右耳にもイヤホンのようなものを差し込みそれは先生の耳に繋がっている。

つまり先生の耳と患者の耳を管で繋いでる状態だ。
これで先生は患者の耳に入る空気の音を確認する事が出来る。

患者がする事は、何も差さって無い方の鼻の穴を指で塞ぎガッコウと言うだけ。
経験のない人からしたらなんて事のないように聞こえるだろう。

ただこれは医者が患者の言うガッコウに合わせ、ひょうたんを強く押し込み、空気を鼻から強制的に耳管に送り込む治療法だ。

これをポリッツェル法という。

この時に送り込んだ空気が喉に漏れないように言う言葉が破裂音となる為、小さい『つ』を使った言葉になる。
喉が塞がる、そして子供も言いやすい。

奥に引っ込んだ鼓膜を強制的に、耳管に空気を送り膨らませる。
私は中耳にある骨と引っ込んだ鼓膜が完全にくっついていた為、この治療法で何度も鼓膜が破れた事があるし、何にせよ兎に角嫌いな音だった。


これを繰り返し、繰り返し。
何度も何日も何回も。

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