♯21 耳管開放症という障害。
全身麻酔にて
ご飯が何だった、とか看護師がどうだったとか本当に覚えている事が少ない。
覚えているのは四人部屋の入って一番奥の右側だった。
執刀医もまともに覚えていない。
私の記憶が定かなのは手術が終わって起こされてからの事。
全身麻酔をした事がある人ならわかると思うが、手術室で術後すぐに起こされるか部屋に戻ってから起こされるか。
そして麻酔による副作用が出るか否か。
私は今現在までに全身麻酔を計六回経験しているが、そのうち副作用というものが起きたのは二回だけだった。
痛みで暴れた事はあるけれど。
人により症状が違うので一概にも言えないが、よく聞くのは二日酔いのような気持ち悪さ。
頭痛、飲酒時のような高揚感、そして異常な寒気、酷い場合はせん妄。
喘息を持っている人はより出やすいだろう。
喘息発作が起きた場合のためにと自前の吸入器を用意してくださいと言われるケースもある。
この時の私はだいぶスッキリしていたし、副作用もなかった。
術後に入ったのは個室で執刀医が母に説明をしていたあの部屋は特に覚えている、そして予定していた手術時間は一時間だったのに対し実際は二時間。
娘は大丈夫なんですか?
『正直大変でした』
このワンシーンがやたら脳にこびりついている、先生が苦笑して母がお礼を言っていて。
すごく簡易的な説明になるが、ここで改めて私がされた話を一つ。
今まで中耳炎や耳管などの細かい事をちょこちょこと話してきたが実際問題、健康的な人の鼓膜って一体どんな感じで音が聞こえているの?と言うこと。
鼓膜は外耳からおよそ三センチのところにあり、半透明で厚さはわずか0.1ミリ。
しっかりとした弾力性のある皮膚で出来た膜で、外耳側に軽く膨らんでいる。
スコープで覗けばうっすらとだが素人でも鼓膜の奥にある中耳の様子も分かるくらいに綺麗な半透明をしているのが特徴。
この弾力性のある膜に、外耳から入ってきた音という振動を、鼓膜のすぐ後ろの中耳にある小さな骨に届け、振動を増幅させる。
増幅された振動は内耳にあるリンパ液で満たされたカタツムリのような形をしている所に今度は届く。
当然リンパが揺れる、その過程で細胞も揺れる、これが電気信号によって脳に伝わる。
ものすごい簡潔で専門の方が見たら笑ってしまうような文で申し訳ない。
分かりやすくだけをモットーで生きています。
一番最初に説明した外耳、中耳、内耳。
この三つの連携により音が聞こえているということ。
一つでも不具合いなんてあった時に問題が起きるのは火を見るよりも明らかな訳で。
この時の私は張りのある鼓膜には程遠く、はっきり言うとゴムではなく湯葉。
笑っちゃう表現だけれどこの時にそう聞かされた。
簡単にいうと湯葉です、ね。
非常に困った作り笑いの先生に対し母はもう笑っていた。
鼓膜に差し込む長期留置型チューブはただ鼓膜を切開しはめ込むだけじゃない。
縫い付ける方法もある、置いておくだけもある。
そもそも私はこのチューブについて書いたことがあっただろうか。
私の頭では♯20を超えるともう全く覚えていない、古いことは山ほど覚えているのに‥。