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【連載小説】Ep7:この街一番のツリーの下で

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/        Ep6


(読了目安2分/約1,500字+α)

Sat, December 14, 9:00 p.m.
Side Shion Nishikawa


「ご乗車ありがとうございます。このバスは21時00分に出発し、途中〇〇サービスエリアに23時00分、△△サービスエリアに2時00分、〇△サービスエリアに4時00分、終点バスタ新宿へ6時00分到着予定です。私、乗合が運転手を務めます。どうぞ到着までよろしくお願いいたします」

 バスが出発し、大きな道へ入ると女の人の声がした。バスに乗る前、チケットを確認していた人を思い出す。あの人はバス停の人で運転手は別のおじさんだと思っていたから、ちょっと驚いた。私と同じくらいの身長の、小柄な女性がこんなに大きなバスを動かしているのだ。ちょっとカッコイイ。

 握りしめていた鞄を膝の上に置き直す。緊張していた指先に血が流れて少しジンジンとする。気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。もうバスは出た。後戻りはできない。

「わぁ~夜の帳面町って綺麗だね。いいな~~やっぱり茜が窓際にすれば良かった。お父さん席替わって~」

「あ、危ない! 茜、バスが動いている時に立ってはダメだよ。次のサービスエリアで交替しよう」

「はぁ~~い」

「寝る人もいるからもう少し小さな声で」

「だって楽しいんだもん。前は電車乗り継いで新幹線で行ってたでしょ。夜行バスって初めてだし、朝からパパに会えるって思うとワクワクしちゃって」

 思わず中央の席を振り返る。大学生くらいだろうか。通路の真ん中の席で、完全に体を反対側へ向けて男の人と話をしていた。男の人は完全におじさん。四十代か五十代。そうだ。お父さんって呼んでいた。でもさっき「朝からパパに会える」って。

 私の視線に気づいたおじさんが、申し訳なさそうに頭を下げた。それに気づき女の人も振り返り、「あ、ゴメ~~ン」と手を合わせる。そして少しだけ首を傾げる。

「あれ? もしかしてひとり? 中学生だよね?」

 直球の質問に思わず無言で頷くと、彼女は声を低くして「家出?」と訊ねる。答えに詰まった私に柔らかく微笑む。

「懐かしいな~。茜も昔、家出したんだよね。『私はママの二周目じゃない』って書き置きして、東京のおじさん……今のパパね、に会いに行ったんだよ。あの時、家出したから今があるんだなって思うとあんなに嫌だったのに、なんか懐かしい」

「東京にパパがいるんですか?」

「うん、そう。あ、こっちはお父さんね。茜にはね、二人の男親がいるの」

 嬉しそうに話す彼女の後ろで、お父さんと呼ばれた男性が「茜、ご迷惑だから」と声をかける。

 私には父親はいない。離婚したらしい。お母さんと同じ会社の人だったけど、離婚して別の会社へ転職し、それから連絡を取ってないって聞いている。

 お母さんは会社でどんどん出世しているらしくて、ほとんど毎日のように仕事をしている。今回は突然一ヶ月も出張になり、私が一人になるのは心配だからと一緒に帳面町へ連れてこられたのだ。私に相談も無く学校と話をつけていて、気がついたら私の荷物もまとめられていた。

 お母さんは全部自分が正しくて、私の意見なんて聞くだけムダだって思っているんだと思う。帳面町に来てからは、正直お母さんの顔をほとんど見てない。今すごく仕事が大変らしくて、LINEしか来ない。私が家にいないことを知るのはいつになるのだろう。そっとスマホを開くが特に連絡は無い。

「家出じゃないです。家に帰るんです」

 私は前を見たまま、呟く。席に座り直した女性が私の方を振り向くのが分かる。

 そう。私は家に帰るだけ。どうせ一人なのだ。知らない土地よりも家がいい。


Ep8        \




【特別出演者のご紹介1】

乗合春 は、豆島圭様のところからお借りしたキャラクターです。


3月に行われた企画、「夜行バスに乗って」は臨時便が走るほど盛り上がりました。

帳面町からバスタ新宿へ向けて走る夜行バス。車内には拳銃のようなものを持った男の姿。様々な乗客が様々なドラマを見せてくれました。

ダイジェストのエンドロールを作成されているのでそちらを見ると1ミリくらいイメージがつくかもしれません。つかないかもしれません。


【特別出演者のご紹介2】

長田茜、長田孝史 は、めろ様のところからお借りしたキャラクターです。


8月に寄せられたピリカ文庫で登場したキャラクターです。

めろさんらしい生き生きとしたタッチで描かれる「家族」。この先どうなるのだろうとハラハラしながら読み進める大作です。

なお、豆島圭さんとめろさんは、このピリカ文庫、お題「東京」で共演された仲です。
私も昔ピリカ文庫を書かせていただいたことがありましたが、確か目安は2,000字と伺っていたはず。二人揃って各10,000字前後って、何やってんの……🐤
(ピリカさんによると、最近字数制限はあまり言わず自由にやってもらっているとか。こういう方々のためですね……)



【私信】豆島圭さん・めろさんへ
お願いがあります!
この連載小説終了後となりますが、条件付きで、いぬいゆうたさんに全話朗読をしていただけることになりました!
条件は「ゲスト出演者の生みの親のnoterさん全員からも許可を取ること」。
そこで、もし掲載の内容でよろしければ、コメント欄に「許す」と一言いただけますと非常に嬉しいです。
NG・内容修正依頼等はお手数ですが、クリエイターへのお問い合わせからいただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いします<(_ _)>





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