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【連載小説】Ep11:この街一番のツリーの下で

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/        Ep10


(読了目安2分/約1.400字)

Wed, December 18, 4:30 p.m.
Side Yukio Fujihara


 また少し、賑やかになっただろうか。モミの木を見上げ、目を細める。

 風が吹き、マフラーの下で首を縮こまらせた。今年は暖冬らしく風が無くて日の当たる時間は、外に居ても穏やかに過ごせる。だが、もうじき日が暮れる。

「ねえ、おおじいじ。本当にお店、やめちゃうの?」

 ランドセルを背負ったまま、ずっと黙ってベンチに座っていた翼がやっと口を開く。

「うん。今年までだ」

「お母さんがお店つぐって言ってたのに、なんで」

「かなえちゃんには今の仕事を続けてほしいからね」

「今の仕事って、パートじゃん。ただのレジ打ちじゃん」

「とても立派な仕事だよ。つばさくんもアレレマート、好きだろう?」

「好き、だけど」

「スーパーマーケットはみんなの生活を支える立派な仕事だよ。近所の人たちはみんなあのスーパーへ買い物に行っているよ。最近ごゆっくりレジができたって、みんなここに来て嬉しそうに話しているからね」

「でも、おおじいじの店が無くなっちゃうのはやだよ」

 うつむいた翼の顔が陰っていく。向こうの家の屋根に太陽が隠れてしまったようだ。

「ありがとうね。でも街も人も店も、変わっていくものなんだよ」

「やだよ」

 そっと翼の頭を撫でる。涙を堪える強い眼差しを眺め、もうこの子も十歳になるのだと気づく。あっという間だ。

「おおじいじ」

「なんだい」

「このクリスマスツリーもやめちゃうの?」

「どうかな」

 木の上に星を飾ることはそう難しいことではない。だが私がいなくなった後も続けてほしいとは思わない。このツリーもやがては忘れられるだろう。

「あのホテルのツリーのせいなの?」

「ん?」

「このツリーよりもおっきなツリーはダメなんだよ。それを破ったから」

「大きなツリーを飾ってはダメなんて、誰も言っていないよ」

「みんな言ってるよ。みんな知ってるもん」

「言ってないよ。みんなはこのツリーを愛してくれて、みんながそう思い込んでいるだけだ。大きなツリーがあるなら気にすることなんてない。飾ればいいんだよ」

「ダメだもん」

 私は思わず笑い、翼の肩をそっと抱く。

「今日のつばさくんはワガママだね」

「いやだ」

 次第に周囲が暗んできている。庭のすぐ向こうの街路灯がつく。寒くなってきたがまだ翼は動こうとしない。ふと、通りから小さな影が目の前の木の根元へやってきた。最近よくやって来る犬だ。口にくわえていたものを木の根にかけるように下ろす。

「他に大きなツリーがあっても、みんながこのツリーを愛してくれることには変わりがないよ。ほら、見てごらん。あの犬も最近、この木の飾りつけをしてくれているんだ」

 強張らせていた翼の身体から、力が抜ける。

「野良犬かな」

「どうだろうね。よく太っているけどね」

「木にいたずらしてるんじゃないの?」

「飾りを取っていくのならわかるけれど、どこかで拾ったものをああやって木の根元へ置いていくんだ。飾りつけのつもりだと思うよ」

 以前持ってきたのは、ガチャガチャの丸いケースとかた一方の小さな靴下。今回は何を持ってきたのか、暗くてよく見えない。

「やっぱりダメだよ。このツリーがこの街のツリーだもん」

 翼の頭をクシャッと撫でる。この子の愛情が心地良かった。

「さあ、入ろう。晩御飯だ」


Ep12        \




【特別出演者のご紹介】

アレレマート は、おだんご様、バクゼン様のところからお借りしたお店です。


私が知ったのはピリカ文庫ですが、どうやらお二人がお過ごしの地域に実在するスーパーのようです(注:アレレマートは仮名です)。


「お客様のアレレ?をほっとかない」というモットー。格安スーパーなのに、お客様に寄り添う姿勢がすばらしいお店です。
そのスーパーが帳面町にもオープンしました、という感じでお願いします。
……というかそもそも私の頭の中では、帳面町はお二人がお過ごしの地域の近くだと想像していますので、充分有り得るお話です。



【私信】おだんごさん・バクゼンさんへ
お願いがあります!
この連載小説終了後となりますが、条件付きで、いぬいゆうたさんに全話朗読をしていただけることになりました!
条件は「ゲスト出演者の生みの親のnoterさん全員からも許可を取ること」。
そこで、もし掲載の内容でよろしければ、コメント欄に「許す」と一言いただけますと非常に嬉しいです。
NG・内容修正依頼等はお手数ですが、クリエイターへのお問い合わせからいただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いします<(_ _)>




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