【ショートショート】罠の中の地味に怒る#毎週ショートショートnote

　彼女がフェイクが好きなのは出会った頃から知っていた。

　昔からチョコレート製のストーンチョコを持ち歩き、たこ焼きに見えるシュークリームを誕生日に求めたり、食品サンプルを買い漁ったりしている。何なら最近は自分で作ろうとしているくらいだ。

　だが、いたずら好きだというのは同棲してから知った。

　最初は、冷蔵庫から取り出した卵がゆでたまごになっていて思わず叫んだ。しょうゆさしにソースが入っており、奮発したお寿司を台無しにされたこともある。寒い冬にシャンプーとリンスを逆に置いてあり、泡立たず風邪を引きそうになった。今朝は気づかなかったが、会社で靴下が裏表逆になっていたことに気がついた。

　正午を回り、珍しく持たせてくれたお弁当を注意しながら開ける。

　一段目は、ご飯の上に海苔で文字が書いてあった。

「祝1周年　ありがとう」

　僕は思わず顔が緩むが、すぐに気づく。これ、食品サンプルだ。

　2段目を開けると「お昼代です」というメモと千円札が入っていた。

（４１０字）

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前回に引き続き、たらはかに（田原にか）様の企画に乗っかっています、のパート2。

今回のテーマは「穴の中の」「君に贈る」ですが、裏テーマは「罠の中の地味に怒る」。

地味……。