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【アーカイブレポート】なれそめアカデミー#03 演出・制作のお仕事〜和田ながらさん〜

7月5日。

演出家の和田ながらさんをお迎えして、なれそめアカデミー#03 が開催されました!

今回も参加していた学生視点で開催レポートを書いていきます。

ファシリテーターには、京都を中心に舞台制作を行う渡邉裕史(ソノノチ)。学生の聞き手は新たに、同志社大学に通う山田航大さんを迎えました。

【なれそめアカデミーについて】


オンライントークイベント「なれそめアカデミー」では、主に京都や関西を中心に、舞台芸術やアートの創作現場・環境を下支えする仕事をしている方をゲストに招き、今の仕事につくきっかけを聴いています。
ゲスト×ファシリテーター×聞き手(学生)の三者対話形式で話を進めながら、「これから舞台やアートを裏から支える側・マネジメント側に関わりたい」と思っている方に向けてお届けするトーク企画です。

 <こんな思いのヒントに!>
・舞台芸術の仕事にはどんなものがあるのか知りたい!
・舞台芸術の裏側に興味がある!
・これから舞台芸術・アートマネジメントに関わることをやりたい!
・舞台芸術関係の仕事に興味があるけど、きっかけや繋がりが見つからない!
・とりあえず就活を始めたけど、何から手をつけていいか分からない!

詳しくは第1回アーカイブ「なれそめアカデミーとは?」をご参照ください。

https://note.com/begining_academy/n/n65880539fb6e

では、#03のアーカイブレポートをお届けします!

【ゲスト紹介】

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(Photo:Yuki Moriya)



今回のゲストは、演出家の和田ながらさん
自身のユニット「したため」を主宰し、UrBANGUILDのブッキングスタッフや、NPO法人 京都舞台芸術協会の理事長も務めるお方です。

演出家としてだけでなく、制作や演出助手など、様々な立場から演劇の現場に関わる和田さん。まずは和田さんの“なれそめ”について、詳しく伺いました。

【なれそめトーク】

◆和田さんと演劇の出会い
和田さんが演劇と出会ったのは、単位制高校における演劇の授業。

興味本位での受講となった授業ですが、その発表公演には制作や舞台美術に携わる先輩方のお手伝いもあり、
「なんかかっこいい!この人たちと一緒に仕事してみたい!!」
と思われたそうです。

またこのような気持ちのモチベーションは、現在まで続く和田さんの指針となっているそう。

この”人に出会う”という点は、私もミソだと思っています。
私は劇場関係のインターンに参加したり、制作のお手伝いをしたりと、現場にもしばしば足を運んでいます。
それはもちろん、お仕事を経験してみたいという気持ちもあるのですが、それに加えて様々な面白い人達と出会うことも、現場に足を運ぶことの醍醐味であると感じています。

その後演劇に興味を持った和田さんは、演劇部に入部して活動を行います。



◆和田さんの学生時代 Ⅰ ― 学部生

演劇について学ぶため、京都造形芸術大学 芸術学部 映像・舞台芸術学科に入学された和田さん。
学内での活動に加え、初期の木ノ下歌舞伎に関わるなど、学外でも演出助手や舞台監督助手として活動を行っていました。
色々なスタッフと知り合い、色々な現場で走り回って勉強を重ねる日々。
また演出助手の仕事は、どのように稽古場を作るか、スタッフとどうコミュニケーションをとるかといった、演出の勉強にもなったそうです。

加えて京都に本拠地がある、NPO法人 ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)で、インターンも経験。
「踊りに行くぜ!!」という企画に携わり、制作業務を学びました。

そして卒業制作公演では、演出を担当。
そのタイトル『したため』は、 そのままユニット名となったそうです。

◆和田さんの学生時代 Ⅱ ― 大学院生

卒業後は演出について更に深く学ぶために、同大大学院 芸術研究科 修士課程へと進まれた和田さん。

実践系の芸大と、理論系の総合大学–––場は異なりますが、私も芸術についてもっと学びたいと思って大学院進学を決めたため、同じ院生という立場も被り、和田さんの思いに心を寄せながら聴いていました。


修士1年の際、京都国際舞台芸術祭(以下、KEX)が始まり、このタイミングを和田さんは「運が良かった」と振り返られます。
KEXの公演には、プロジェクトメンバーや舞台監督助手として参加。

また、演劇ユニット「したため」での活動も、この時期に開始されました。


加えて制作助手として、あるプロジェクトへの参加も決まったのですが、それが大学院修了年度をまたぐものであったそう。

そのため和田さんは、 「就活できないな!」となったのですが、「何とかなるだろう。別でアルバイトをしつつ、創作活動ができれば…」と、舞台芸術周辺で仕事をする道を選ばれました。

実際のところ、この時はKEXでの仕事に呼ばれたりと、舞台芸術関連の仕事を得る機会も増えつつあったそうです。

◆大学院修了後~現在

大学院修了後はKEXの制作スタッフや、Dance Fanfare Kyotoの企画・制作などを務めて来られた和田さん。

また2018年からは木屋町三条にある、UrBANGUILDのブッキングスタッフ(制作スタッフ)も担当。
ここでのお仕事は、施設の利用が演劇系にも広がるように⋯と、お誘いがあったそうです。

加えて同年から、NPO法人京都舞台芸術協会の活動にも参加。現在では、同会の理事も務めておられます。


以上、大学・大学院時代のご縁があってお仕事が決まっていったと話す和田さんですが、チェルフィッチュ×金氏徹平の『消しゴム』シリーズの現場は、新しい場で勉強することを目標に、自分から行ったのだそうです。

◆ご縁を繫げるヒケツ

「この人と一緒に仕事してみたい!」

この気持ちが常に、ご縁を引き寄せられる重要なポイントだと話す和田さん。

そしてご自身もこのように思ってもらえるような、お互いに刺激を与えられるような関係でありたいと思っておられるそう。
加えてこう思っていれば、実際にお仕事ができるそうです!

「こういう気持ちを大事にして頂きたい」との和田さんのメッセージに、胸が熱くなりました。

更にこの業界の人は、常に仕事相手のパートナーを探しているとも。

そんなアンテナに引っかかるような仕事を自分でもしていくことが、縁が繋がっていく重要な点だそうです。

◆20代で役に立ったこと

続いて、20代で役に立ったことについてのお話しも。

・情報を得る習慣をつける

・良いものも悪いものも、好きなものも嫌いなものも、とにかく数を観る

・他ジャンルにも積極的に触れる(美術館、映画館etc...)

・複数の職能や所属で舞台芸術に関わる
 複数の視点を得ることで、舞台を取り巻く環境が立体的に見えてくる

・そこそこの英語能力
 国際的な現場が多い京都は、特に。あると活躍の場が広がる

加えて、運の大切さについてもお話しされました。
運は努力なのか才能なのかは最早分からないけれども、どういう人と出会えるかもまた、運だとされました。

「30代、めっちゃ楽しい!」

20代でのご縁が自然につながってきてからは、本当に面白いと話す和田さん。

20代は色々悩むこともあるけれど、「こんな楽しそうにしている30代もいるんだ」と覚えて帰って欲しいとのことでした。

ここでは和田さんと同級生の渡邉さんも加わり、「30代、同じ気持ちである」という話も花咲きました。

個人的には「30代、めっちゃ楽しい」というお言葉が、胸に沁みてですね…

もうすぐ24歳になる私ですが、20代は進みたい道に向かってもがいてもがいてという感じで、漠然とした不安や行き詰まり感、この先どうなるんだろう?このままでいいのか?という気持ちが、どうしても拭えず…

もちろん、30代になったらすぐそういった気持ちになるわけでは無くて、お二人にも積み上げられてきた20代があってからこその、このお気持ちなのでしょう。

ですがこのように、「30代楽しい!」と言っておられる素敵な年長者のお姿を拝見することで、今もがき続けることへの勇気や、未来への希望が湧いてきたような気がしました。

…と感傷に浸ったところで、次は学生の聞き手を交え、和田さんへ色々質問を伺っていきます。

【学生とのトーク】

Q.演出助手、舞台監督助手、制作助手などの違いは?
A.究極は現場によって違うが、どれも現場をマネジメントする立場。
現場をスムーズに動かし、作品をより面白くし、適切に多くの人に届くようにするセクション。

制作助手・演出助手に求められる能力は、「やります!と パッと動き、必要なところで手を動かしたりする」というもの。
また、「情報の広まりを把握したうえで、各セクションの情報を共有する」情報共有のセンス。

渡邊さん:間に入る調整役であり、全体を見る目が必要。
Q.そういった能力は資質?それとも、経験によって身に付くもの?
A.もともと、それぞれ向きや苦手はある。
多岐にわたる制作仕事の中で、どこが向いていているのか?を考えることは必要。
苦手なことは経験を積んで慣れる。得意なことは思い切りやって伸ばす。

制作の仕事は、全部できなきゃと思って、はぁっとなると思う。
しかし大きな現場だと、みな得意分野や任された範囲で働いている。
オールラウンダーという動き方もあるし、自身のできる場所を探して動くということもできる。


こちらの和田さんのお言葉には、とても救われるようなところがありました、

私は、得意なことと苦手なことがはっきりしているタイプで。そして、仕事をするにあたっては全部できなきゃいけないのではと思い込んでいて、将来に対する不安を覚えていました。

もちろん、得意なことだけをやっていくという働き方はできないでしょうが、それでも得意なことに寄せるという働き方もできるのだと、胸がすく思いでした。


Q.就職しないことへの恐怖はなかったのか?
A.大学や学科によってカラーが違うが、京造は自由な感じだった。
そういった道を選ぶ先輩もいたし、先生方も所謂就職というものを経験していない人が多かった。従って、その道を選べたのは、身近にそういった人がいたから。
Q.学生時代、どのような場に行ってどのようなことをすればよいのか?
A.この界隈の大人たちは、若い人たちが入って来るのを求めているし、そういった人たちのことを見ている。 彼らの情報を収集している。
現場において、与えられた仕事を一つ一つ誠実にこなしていく姿や、入った公演のクレジットを、周りの人たちは確実に見ている。そうすれば、一個ずつ仕事が繋がっていく。その繰り返し。

渡邊さん:現場でご一緒した人の印象は、確かに残っている。

Q.「演劇でいいのか?このままでいいのか?」と就活中に思うことがあるが、和田さんもそう思ったことはあるのか?
A.*この質問は、渡邊さんにも詳しくご回答頂くことに!
◆渡邊さん 
20代の時、壁にぶち当たった時に何度か思った。しかし、辞めて違う道に行こうという気持ちが上回ることは無くて、結果今でも続いている。
30代では、そう思ったことはあまり無い。

◆和田さん 
ネガティヴになったこともあるが、幸いにも辞めるとまでは行かなかった。これもまた運。
演劇どうこうというよりは、「一緒に仕事したいと思われるような仕事をしたい」という気持ちが、ベースであり、拠り所である。

渡邊さん:同じ気持ちでやっている。「この人とまたやりたいな」と思って、続けているというところもあるのかもしれない。
Q.一緒に仕事をしたいと思うような、理想の人物像は?
A.人ごとに感じる魅力が違うから、はっきりとしたものはない。
強いて言えば、作品に真摯に向き合っている人。かっこいいと思うし、自分もそういう仕事ができたらと思う。
Q.触れるべき異なるジャンルとは、具体的にどの範囲まで?
A.自分の場合になるが、映画、美術館、本…
何でもいいと言えば何でもいい。
しかし、無理のない・興味の持てる範囲でオッケー。

面白いものを拾うセンスが良い人と繋がりを持ったり、SNSでフォローしたりするのが有効である。
Q.実際の所、演劇は食っていけるのか?収入の内訳的なものは?
A.通年契的であるKEXの事務局スタッフは、経済的に助かった。
またフルタイムではないし、忙しい時期とゆったりした時期があるため、自身の創作活動や他のプロジェクトも入れやすかった。

演出家としては、20代の頃は公演のたびにマイナスになっていくという感じだった。
アーテイストとしてお金を貰うのは、ハードルが高い。
ここ1〜2年では上向きとなってきて、少しずつ演出家としてお金を貰えるようにもなってきた。

演出家の収入としては、公演の売り上げなどが挙げられるが、黒字を出すのは大変に難しい。
舞台芸術の経済面は、助成金の力を借りて成立しているということが多い。
全額補助ということは少なく、必要な経費を支払うと、手元には残らない。

しかし、何が自分にとっての価値なのか?
お金が欲しくて、演劇をやっているのか?


この和田さんのお言葉は、とてもはっとさせられるところがありました。
やはりどうしても、それで食べていけることを最大の価値として見てしまうところが、私にもあります。
そしてこういった質問が出るということは、質問者もこのような価値観を持っているいうことでしょうし、ひいては日本全体にも、同じ傾向があると思います。

ですが確かに、お金にならなくとも大切にして、続けていることもあるよなぁと思ったり。
自分にとってはそれが、趣味のイラストを描くことだったり、ハンドメイドだったりするのですが、売るでもないし、むしろ画材や材料を買うのでマイナスで。

少しばかり上手くても、お金になるわけでもないし、無駄だ、意味がない、どうでもいいと思ったことも、正直あります。


でもそれでも何やかんや続けているのは、自分が"やりたい"からであって…自分に落とし込んで考えるのもおこがましい次元のことかもしれませんが、自分の価値観を見直す、良いきっかけとなりました。


和田さんの御回答に戻ります。

学生時代に先生から教わった、「演出家や俳優を続けるにあたって、少なくとも1つは必ず満たしていなければならない、2つ以上だとなお良しな、3つの条件」。
それは、理解のある ①親 ②伴侶 ③バイト先 である。
今でも、なるほどと思い続けている。

渡邊さん:確かに、今でも通じる指標である。
無いと無理ということではないが、あると助けになる。

自分の活動や時間の使い方について、身近な人に理解してもらうことだと思う。
そして、そのためのコミュニケーションを取っていくこと。


そして会は、参加者からの質問にお答え頂くコーナーへと移ります。


【参加者からの質間】

Q.30代が楽しいというお言葉に、少し気が楽になった。
20代の頃のモチベーション・元気はどこから来ていたのか?
A.体力がある時にしかできないことがあり、体力のある限りやれることをやろうとしていた。
あとは、好奇心。作品や現場の仕組みに色々関心を持って、劇場は、NPOは、どうなっているの?と思って、見つけた募集を入り口として入っていった。

渡邊さん:和田さんは、破片とか断片とかを拾って繫げていくのがお上手。


「みなさん、ネットTAMですよ!」

30代に関して、同じく勇気づけられた参加者の方がいらっしゃいました ^^
そして、出ましたネットTAM!!
3回連続での登場、もはやマストサイトですね。

Q.一番楽しい・一番やりがいを感じることや場面は?
A.演出であっても、制作であっても、本番の上演が一番楽しい。
お客さんの集中力を借りて、自分の見る目も養っていく。
Q.自身の作品も含め、好きな舞台作品は?
A.自分の作品は、自分が面白いと思うように作っている。

白井剛さんの『静物画 – still life』が凄く好き。
ダンサーの方も素晴らしかったし、照明・美術・音響のクォリティも非常に高く、美しく。そして、身体にビリビリ来るような体験だった。
初演を見て「凄い!素敵!」となって、滅多にやらないが、アンケートに「凄い良かったです」と書いた。
以前現場で関わったため、挨拶していくことをスタッフの方に勧められたが、「恥ずかしいのでいいです////」と辞退した。

「この人と仕事してみたい」が叶うという話に上手く繋がるが、再演時は制作助手として携わることができた。夢は叶う!!!


20代はバチバチもあるけれど、ピュアな面もある。
作品に出合う中で、その時だからこそキャッチできるものもある。
(30代だからこそ、というものもある。)


『静物画』について語られる和田さんの興奮され方に、こちらまで胸が熱くなりました。
このような作品との出会いは私にもあって、その時感じた気持ちをいつまでも大切にしていたいなぁと思いました。

Q.演劇で食べてこうという決意をした時、立てた目標は?
A.「演劇で食べて行こう」という決意はあまりしていない。
最初のスタンス:バイトをしてでもいいから、続けよう。
そして、運良くそのようなお仕事を貰えるようになっていた⋯という感覚。

遠くの大きな目標もなく、ちょっとした憧れがその都度合って、それが巡って来るように今の現場を頑張る、という連続だった。
Q.仕事を通じて、これからしたいことや目指していることは?
A.
・面白い作品を作りたい、そのために面白い人と出会って、一緒に仕事をしたい。
・行ったことのない場所や地域で上演したい。
・今まで全くやってこなかった、ワークショップに力を入れたい。
 先日、初心者としてワークショップを行ったばかり。これもご縁あって繋がった現場。

渡邊さん:たまたまと言うけれど、たまたまを作るための土台=フック を作ってるから、ご縁が繋がっているのでは。

まだまだ質問は尽きないですが、ここでお時間となり…


【全体を通じて】

最後にまとめの感想を書いて、レポートを締めたいと思います。


まず、和田さんの引き寄せ力がとにかく凄い!!

そしてそれは、和田さんの行動指針がそうなることへ向いているからこそなのでしょう。

私は、(少なくともコロナ前までは)とにかくフットワーク軽く色々動いてみることだけが取り柄であったため、このなれそめアカデミーへの参加をきっかけに、また色々動き始めたいなと思いました。


加えて、和田さんのキラキラ感がとっても印象的で…

このような方とご一緒してみたい、と思ったのは言うまでもありません。


そして、お二人のように素敵な30代になりたい………!

そのために、20代をもがき続けたいです!!


以上、拙い長文(&感想)にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

【次回予告】


なれそめアカデミー、次回開催は8月6日。

ゲストは、マネジメント・ヨーロッパ企画制作をつとめる吉田和睦さんです。

貴重なお話が聞ける機会… 皆様、ふるってご参加下さい!

◆日時:8月6日(月)19:00 - 21:00
◆ゲスト:吉田和睦(ヨーロッパ企画・株式会社オポス 代表取締役)
◆参加申し込みURL:https://begining-academy05.peatix.com/view


記事:小川裕夏(立命館大学 文学研究科)


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