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その昔、上海で

wanderlust 旅行熱
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億劫な気持ちから始まり、「悪くなかったな」で終わる。僕の海外の旅は大体こんな風になる。旅についてのエッセイが多数ある作家の角田光代氏によれば、人には「旅運」というものがあるそうだ。僕はそれなりに良い方なのだろう。

もう何年も昔に、初めて上海に行った。この時はたくさんの問題にぶつかって、見知らぬ人たちに助けてもらった。

現地で知人と会う約束をしていたものの、予定通りに行かず、当時はスマホがなかったので見知らぬ他人の携帯やら飛び込んだ海賊版DVD屋の電話やらを借りて連絡をとった。みんな片言の英語と日本語を使い親切にしてくれた。DVD屋では疲れている僕を見た店員がペットボトルのコーラを差し出してくれた。キャンペーンで配っているものだから遠慮せずどうぞ、と言われた。

ホテルは中心地から離れた所にあった。離れ過ぎていて、ガイドブックに見放されていた。退屈なのでミッション・インポッシブル3の撮影にも使われた七宝に行こうとしたら、地下鉄の駅への道中迷子になってしまい、数十分うろうろする羽目になった。それを遠くから見ていた男性が「何してるんだ?駅?一緒に行こう」と片言の英語で話しかけてくれた。怪しかったけど、コイツになら勝てそうだと思った…というのもあったが、一生懸命あれこれ説明してくれる男性はどう考えてもただの優しい人だった。

相手はボロボロの英語、僕はヨレヨレの中国語で話をした。筆談をしたり、絵を書いたりもした。それだけで日中の英語教育、日本で人気のある格闘技、中国人が観ている日本のアニメについて語れた。浅くはあったけど、こういう時こそ大事なのは気持ちなのだ。

彼はついでだからと僕の降りる駅まで付き合ってくれた。僕は下車し、彼は別の駅へと向かった。Byeと再見が最後に交わした言葉だった。そして地図を持たない僕は、自分の旅の運を信じながら七宝駅の改札を出た。

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