Her Dying Wish (2)
今日の英語
The star of the show. 本日の主役
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明るく華やかな服装で葬儀に来てほしいという故人の希望だが、どうしたものか。脳味噌に汗をかいているとアイデアが浮かんだ。
いかなる宴会にも対応できる汎用性モビルスーツ的なものを丸ごと買うより、ワンポイントで目立つ華やかなパーツを探してみてはどうか。地味系フォーマルな服を着てても明るくなるやつ。あくまでも部品だからカバンの中に入れられる。世間一般的な葬儀に着ていける服で赴き、現場を確認して普通の葬儀風であればしまっておき、本当に明るく華やかな感じであればそれをサッとカバンから取り出して着用し、「もちろん私は最初からそのつもりでしたよ」という顔で参列すれば良い。
方針は決まった。あとは何を買うかだ。すぐにパーティー用のタスキが目に入る。とても明るくて期待できそうだ。どれどれ。
「本日の主役」
いや、主役は故人のKさんだ。
「宴会部長」
宴会じゃないよね。
「日本一の司会者」
頼まれてねえわ。
「祝・おめでとう」
ダメ。ゼッタイ。
タスキはよろしくない。全然よろしくない。
その後、大仏の被り物やフェイスペイントなど他の選択肢も検討して、これに落ち着いた。
大きな大きなキラキラ蝶ネクタイ(ワインレッド色)。
ラージサイズのピザスライスを左右に2切れずつ、計4切れ配置したような形と大きさで迫力がある。これを着けている間は、昔人気があったが今はそうでもない漫才師のボケ担当のように見えるだろう。これは明るい。そして底抜けにダサいが、物としては華やかと言えなくもない。これに全てを託そう。
葬儀当日、僕は参列者として問題ない格好をして電車に乗り、車内でカバンの中の下品な蝶ネクタイを確認していた。持っているというだけで何だか落ち着かなかった。
斎場にたどり着いて周りを見たら、皆一様に地味な服装で参列していた。やはりな。やはりこうなのだ。そんな事だろうと思ったよ。唯一の例外は喪主である故人の旦那さんで、彼は白を基調とした明るいスーツを着ていた。それ以外はあの学生時代に参加した企業説明会と同じに見えた。
受付を済ませ着席し、自分の選択を評価していると、1人真っ赤な服を着た女性が入ってきた。故人のメッセージをきちんと受け止め切った強者である。その人は周りの人たちの服装を見てバツが悪そうに顔を歪めると、式場の奥にある椅子に座った。でも本当は、この人の服装こそが故人が求めていたものなのだ。僕は真っ赤な服を着て居心地悪そうにしているその女性に、あなたは立派だと言いたくなった。
目立って浮こうが沈もうが、居心地が良かろうが悪かろうが、今日の主役はKさんで、彼女がこうして欲しいと希望したのだ。赤い服の人、拙者もお供つかまつる。僕はワインレッド色の巨大キラキラ蝶ネクタイを首元に付けてKさんの冥福を祈った。
しかし...せめて蝶ネクタイの色は少し抑えた青にしておけばよかった。