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数学者のゲーム

今日の英語
remotely 間接的に
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ポール・エルデシュという名を知ったのは、ある英文記事からだった。

1996年にこの世を去ったハンガリーの天才数学者である。彼はさすらいの学者だった。数学的問題ある所にエルデシュあり。そんな風に世界中を渡り歩き、膨大な研究業績を残した。彼と研究を発表した者は502人にも上る。

多くの数学者が彼との共同研究を望んだ。共同執筆者は羨望の的である。そしていつしかエルデシュの名声は、奇妙な事態を引き起こした。

「小生はエルデシュ博士と共同執筆をしたA博士と共著を出したのである」

「我輩だって」

「それがし、ちょっと間接的になってしまうが、エルデシュ博士と共同執筆をしたA博士と一緒に仕事をされたB博士と・・・」

このように、様々な数学者がポール・エルデシュとの何らかの関わりを主張しだしたのである。最初は彼への敬意をユーモアで表現しただけだった。しかし、際限がなくなりそうだったので、数学者らはルールを設ける事にした。

エルデシュ本人と共同研究を行った者は「エルデシュ数1(略してE1)」と呼び、E1と研究を行った者はE2と呼ぶ。そして後は間接的になるに従って数字が大きくなっていくという按配である。数字が小さい方がカッコいい。

そのエルデシュ数をめぐり、こんな事が起きた。誰かがE4の権利をネットオークションに入札したのである。乗った人も多く、それは結局1000ドル以上の金額で落札された。これはエルデシュ数が、数学に関わる人間に対して持つ魅力を物語っているエピソードといえるだろう。競り落とした本人は「数学的名声をこんな茶番に利用させたくなかったから」とコメントしている。その人物のエルデシュ数は3だった。

エルデシュを起点とするのではなく、逆に終点とした場合、一体何人を間に介して彼にたどり着けるかというゲームがある。名前はそのままポール・エルデシュ・ゲーム。数学者以外でも遊べそうである。

実際、映画の世界には「ケビン・ベーコン・ゲーム」が存在する。理屈はエルデシュの時と同じで、直接彼と共演した人はベーコン数1(B1)となる。

商業映画に出演した俳優・女優を辿れば、ケビン・ベーコンに行き着くという。例えば日本が世界に誇る渡辺謙はB2である。何故ならば、彼はB1のトム・クルーズと、ラスト・サムライで共演しているからだ。

これは六次の隔たり(Six Degrees of Separation)という概念が元になっている。イェール大学のスタンレー・ミルグラムという学者が1967年に論文に書いたもので、彼によれば「世界中のあらゆる人は平均6人の知人を介して繋がっている」らしい。もちろん、知人がいた場合に限定される。

このゲームで自分から有名人まで何人を介しているか、暇つぶしにやってみるのはどうだろうか。ゴールとなる人のファンじゃなくたって構わない。スタートとなる人の選択も難易度はぐっと下げて、少し話をしただけの人でもいい。居心地が悪くなるほどremote aquiatanceでも大丈夫。相手の記憶に残っていなくたって構わない。袖振り合うも他生の縁である。とりあえず始めたらいい。You have to start somewhere. なぜこのゲームをやってもらうために、僕は自己啓発セミナーの講師のような言葉を羅列しているのだろうか。そこまで思い入れもないのに。

とりあえず、僕の場合は「石破総理数2」「トランプ大統領数3」「金正恩数4」という結果になった。この人選は、まあアレだけど、わざとこうしている。もっと清い人たちでお試しあれ。

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