キツツキと子グマ

あるところにまだ幼い小さな鳥がいました。
小鳥は森の中で、木の枝に止まりじっと俯いています。

そこへリスの兄弟が駆け上ってきました。

「小鳥だ!どうしたんだい?」
「ほんとだ!教えてごらんよ!」

軽やかに訊ねるリスの兄弟を小鳥はちらりと見ると、

「だいじょうぶだから…」

と木の葉の影に隠れてしまいます。

「なんだよぅ。風邪かな?」
「へんなのー。クルミ探しに戻ろ?」

リスの兄弟はツテテテ、とそのまま駆けてゆきました。


しばらくすると、あたまに花を飾りめかしこんだモモンガが2つ先の木から跳び移ってきました。

「あら小鳥さん、休憩中かしら?」

小鳥はこくっとわずかに頷きます。

「さっきまでいたクルミの木にね、ちいちゃなピンクのお花がたくさん咲いていたの。どうりで暖かくなってきた訳ね。とっても可愛かったのよ、あなたも見てらっしゃいな。」

小鳥は枝の先のほうへチョンと動いて、モモンガが来た木を探すと

「ここからでも見えるから…」

と足を曲げて座り込みました。

「近くで見たらもっと楽しいのに!そんなのでいいの?まあいいわ。」

モモンガはまたバッと遠くへ跳んでゆきました。


リスくんたち、あのクルミの木についたかな。
モモンガのお姉さん、明日はどんなお花を付けてるんだろう。

小鳥が長いこと遠くの木々を眺めていると、木の根元にずしん!と何かが寄りかかりました。
驚いた小鳥はあわてて木の葉の茂みに隠れます。

「あれ、邪魔をしたかな。ごめんね小鳥さん。」

やってきたのは子どものクマでした。

「いやぁ、しばらく歩いて疲れちゃった。少しここで休んでもいい?」

小鳥はなんと返そうか少し悩んでから

「みんなの森だから…」

と顔を出して小さく返しました。
嬉しそうに微笑んだ子グマは、ずっしんと深く腰を下ろすと小鳥の方を見上げました。

「ありがとう。君はとても可愛らしい声を持っているね。」
「いいえ、私の笑い声は高くてうるさいから…」

小鳥は申し訳なさそうに呟きます。

「そうかい?君の目は澄んでいてとても美しいよ。」
「いいえ、私はすぐに隠れてしまうから…」

小鳥は悲しそうに首を横に振ります。

「でもでも、君のくちばしはとても滑らかでいい形をしているね。」
「そんなことない!」

小鳥は大きな声で言いました。

「私のくちばしは短くて、歌えないし話しかけられないし、こんな私は出来損ないなの!」

わんわんと小鳥は泣き出してしまいました。

「おっと、悪いことをしたね…」

子グマはゆっくり立ち上がると、小鳥のなみだを慎重にすくいとりました。

小鳥は泣きながら話しました。
ちょうどいい声で笑うことも、相手をちゃんと見て話すことも、たくさん頑張ったけれど上手くいかなかったこと。

「そのせいでお友達がいないの」

大きな幹を何度もつついたけれど、パパやママのような家が作れなかったこと。

「だからきっと立派な大人のキツツキになれないの」


うんうんと頷きながら聞いていた子グマは、小鳥を優しく見つめます。

「君、飛んだことはあるかい?」
「飛ぶ?」

子グマは1歩あとずさりすると、両の前足を持ち上げてあちこちへブンブンと振り回しました。

「な、なにをしているの?」
「羽ばたこうとしてるのさ!」

小鳥は首を傾げました。

「飛べないわ、あなたはクマだもの。」
「あれそうか、頑張ってたらできると思ってたんだけどな。」

拍子抜けした子グマの様子に、小鳥はクスクスと笑いました。

「あなたは立派な足を持っているんだから、大きくなれば枯れ木を倒して川を渡れるのよ?」
「なるほど、そっか!」

子グマは小鳥と一緒になって笑いました。

「なら空を飛ぶのは諦めて、すてきな散歩道でも探そうかな。」
「いい考えね!」

ひとしきり笑った子グマは前足を地面におろすと、くいと再び小鳥の方を見上げました。

「小鳥さん、歩きだす前に君の飛んでいくところを見てみたいんだけどいいかな?憧れてたんだ、見れたらきっと幸せな気持ちになれる!」
「そんなことならおやすい御用よ!」

小鳥はパササと羽ばたいて、みかん色に染まった空へ飛んでゆきました。


行くあてのなかった小鳥は昼間に見つめていたクルミの木まで飛ぶと、ピンク色のお花の下にふさふさとした別のお花があることに気づきました。

「夕日で光って、狐のしっぽみたい!」

小鳥は楽しくなってもう少し先へと飛んでみると、ひろい畑にキャベツがたくさんうわっているのを見つけました。

「リスくんたちに教えたら喜びそう!」

小鳥はうちへ帰り、にこにこしたまま寝床へ潜り込みます。

明日リスくんたちに会えたら、キャベツ畑を教えてあげたいな。
明日モモンガのお姉さんに会えたら、あのふさふさのお花のこと聞いてみたいな。

小鳥はわくわくしたまま、眠りにつきました。

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