③ビールづくりの流れ
ビール醸造工程の各工程の具体的な説明は、それぞれのページを参照してもらうことにして、ここでは大雑把にビールづくりの流れを把握しましょう。各工程の意味と他のステップとの繋がりをイメージすることが目的ですので、大まかなイメージがつかめればそれでOKです。詳しい説明や方法などは各ページで確認してください。自分でつくるビールも、大手ビールメーカーやマイクロブルーリーでつくられるビールも、細かい違いはありますが、工程はほとんど同じです。
1.麦芽の糖化(マッシング)
65℃~68℃の温水に麦芽を投入することにより、麦芽のもつ酵素の働きによって、麦芽中のでんぷんを糖分に分解する工程です。この糖分を使って、イーストはアルコールと二酸化炭素を作りだします。その糖分を作り出すとっても重要なステップです。麦芽糖化の方法や詳細は「麦芽の糖化(マッシング)」ページを参照してください。
まず、マッシュタンに約70℃の温水を規定量用意します。そこに用意しておいた粉砕麦芽を投入し、へらで「ダマ」にならないようによくかき混ぜます。麦芽を投入した状態で、65℃〜68℃になっていることを確認し、約40分置いて麦芽中のでんぷんが糖分に分解されるのを待ちます。40分経ったら、再度良くかき混ぜ、比重計で麦汁の比重を計ります。レシピ通りの比重であれば、これで糖化は完了です。もし目標とする比重になっていない場合には、もう少し時間をかければ糖度があがります。
2.ろ過・抽出
簡単に言うと、糖化された麦汁と、麦芽自体を分ける作業です。出来上がったビールに麦芽自体が含まれていないのは、この工程があるからなんですね。方法はいくつかあるので詳細は「ろ過・抽出」を見てもらうとして、ここではマッシュタンの底が上げ底のパンチングフィルタになっているタイプの方法を紹介します。マッシュタンの底にザルのようなもので麦芽が下に出て行かないようにするものだと想像してください。
マッシュタンの底と、上げ底のフィルタの間に麦汁を抽出する抽出口を設けておいて、そこから麦汁を鍋の底からゆっくり抜いていく感じで煮沸鍋に移していきます。こうすることで麦汁と麦芽を分けるのです。麦芽にたっぷり水を吸わせてしまったこともあり、この状態ではビールに使う麦汁の量が足りません。また、残った麦芽には抽出されないでいる糖分やタンパク質が残っているので、新たに温水を上から追加して洗い流します。これをスパージングといいます。この時、麦芽が空気に触れると、酸化してビールの味に影響を与えてしまうので気をつけます。煮沸に必要な量の麦汁を抽出したら完了です。
3.煮沸
麦汁を煮込む工程です。麦汁を煮込む理由は次の3つです。詳細は「煮沸」を参照してください。
1.ホップを煮込むことで、ビールの苦み・香り付けをします。
2.余分なタンパク質を凝固させる。
3.麦汁を煮沸殺菌する。
煮込むホップの種類と、煮込み時間で苦みや香り付けのコントロールをします。一般的に、ホップを長く煮込むとビールが苦くなりますが、香りは飛んでしまう傾向があります。その為、苦みをつける種類のホップを長く煮込み、香り付けのホップは最後の方に投入することがほとんどです。使うホップの種類や煮込み時間は、レシピの数だけ存在しますので、天文学的な組み合わせになるでしょう。自分だけのレシピをつくることもホームブルーイングの醍醐味ですね。
4.冷却
煮込んだ麦汁を、イーストを投入できる温度まで急速に冷却します。この冷却をどれだけ短時間でできるかが美味しいビールをつくるコツになります。最低でも15分くらいで冷却するようにしましょう。また、麦汁の温度が71度以下になるとバクテリアが取り付きやすくなりますので、冷却してからの作業では、バクテリアが混入しないよう細心の注意が必要です。急速に冷やす理由としては、以下の3つです。
1.オフフレーバー(いい香りの反対)の発生を防ぐ
2.バクテリアが繁殖する機会を減らす
3.不要なタンパク質の凝固沈殿(クリアなビールになります)
冷却についてもいくつか方法がありますので、詳細は「冷却」を参照してもらうとして、ここでは一般的なイマージョン・ウォート・チラーと呼ばれるコイル状の銅管を使用した冷却方法を紹介します。ウォート・チラーの片側を水道栓につなぎ、もう片側を温まった水が排水できるようにしておきます。煮沸の終わった煮沸鍋に、このウォート・チラーを麦汁に入れ、銅管に水道水を通すことで、麦汁を冷やすのです。この時、シンクなどに氷水をはっておいて煮沸鍋を浸けておくと、内側と外側両方から冷却できますので、より効果的です(アイスバス)。
5.イースト投入と発酵
冷却した麦汁を、きれいに消毒しておいた発酵容器へ移します。麦汁の温度は下がっていてバクテリアが取り付きやすくなっていますので、十分に注意しましょう。麦汁の温度がイーストの活動に最適な温度になっているか再度確認をします。麦汁の温度と、投入するイーストの温度差が無いように気をつけ、イーストが温度差によってショックを起こすことを防ぎます。投入するイーストについては、「イースト(酵母)」をしっかり確認して事前に準備しておきます。
いよいよイーストを投入する時がやってきました。麦汁にイーストを投入し、エアロック栓をして麦汁が外気と触れないようにします。エアロックは外気を遮断し、発酵過程で出る二酸化炭素を外に排出する働きがあります。イーストを投入した後は、イーストが活動しやすい温度(一般的なエールの場合、約21度~26度)と日光を遮断できる場所に保管し、7~10日ほどじっくり待ちます。エアロックがポコポコしているのを見るのは発酵の活動が活発な証拠。エアロックがおとなしくなるのを待って、糖度計で発酵の進み具合を確認し、発酵の終了を見極めます。
6.瓶詰め(ボトリング)
発酵が終わったら、瓶詰めをしましょう。瓶詰めされたビールは、瓶の中で新たに発酵してビールに必要な二酸化炭素を発生します。発酵容器でアルコールの生成を目的とする発酵を1次発酵、瓶の中で二酸化炭素の発生を目的とする発酵を2次発酵と捉えてもいいと思います。1次発酵では発生した二酸化炭素はエアロックを通して放出されましたが、瓶内発酵ではボトル内に二酸化炭素を閉じ込めることにより、ビールに炭酸を溶け込ませます。こうすることでビールの炭酸が生まれるのですね。
まず、砂糖水を作り5分ほど沸騰させた後、氷水などを使って鍋ごと冷やし、発酵の終わったビールと同じくらいの温度にしておきます。発酵容器とは別のきれいに消毒したボトリング容器を用意し、冷ました砂糖水を入れます。砂糖水の入ったボトリング容器に、サイフォンを使って発酵容器からビールをゆっくり移します。発酵容器の底に沈んでいるイーストがなるべく入らないようにしましょう。このイーストは捨てずに後で利用できますのでご安心を。また、2次発酵に必要なイーストも、ビール中に含まれているので心配ありません。砂糖水とビールをよく混ぜ、後はビールを瓶詰めします。
ビール瓶はあらかじめきれいに洗浄・消毒した後、よく乾燥させておきます。ボトルにビールを入れますが、この時ビールの量は口から3㎝ほど空けておきます。ビールが多すぎると二酸化炭素が溜まりづらく、少なすぎると炭酸が多くなりすぎて瓶が破裂する恐れがあります。ボトルのキャップはキャッパーなどでしっかり栓をします。
7.貯蔵
瓶詰めしたビールは、2週間ほどイーストが活動しやすい温度に保管・貯蔵します。あとはじっくり待つだけ。飲み頃になるまでは時間がかかりますが、たまには1本ぐらい試しに飲んでみてください。若ビールとよばれる熟成の進んでいないビールを飲めるのも、ホームブルワーならではです。僕は醸造の段階から少しずつ飲んでビールが出来上がるまでの過程を、勉強の為に楽しんでいます。あくまで勉強のためですが(笑)。栓抜きで王冠を開けた時に、炭酸の抜けるシュッという音(一番興奮する瞬間です)がすると、飲み頃かもしれません。飲んでみて、眼で見て、香りをかいで、ビールの熟成具合や炭酸の入り具合、泡立ち具合を確認しましょう。後は、自分でつくったビールを存分に楽しんでください!出来具合や反省点をしっかりと記録しておくことを忘れずに!
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