似顔絵を書いたら記事から身バレした。
こわいね。似顔絵の力。
⁻ 僕の事をご存じでいらっしゃいますか?
ある日とあるSNS経由で、一通のメッセージを受け取った。
そいつのプロフィールを確認すると、確か小学生の時には友人だった小林という男で、顔を見て思い出す。
奴とはかれこれ20年以上会っていない。
いい夕方だった。暑くも無く、寒くも無い。
仕事も早く終わり、好きな酒も飲んでいて、ほろ酔いだった。
楽しく返す。
⁻おぉ、小林か?知ってるよ。どうしたんだ!?もう20年近く会っていないよな。何かあったのか?
とは言うものの、何かがあったのは連絡を貰った時点で心当たりがあった。
大分前に投稿したあのネタは小林の話だ。
心の中で願う、いや、気づいていないでたまたま連絡しただけだと。
あんなの見る訳ないじゃいか。
小林は続ける。
⁻僕知っています、貴方がライターな事。そしてアメリカで暮らしていること。なかなかいい暮らしぶりじゃないですか。いや本当に夢を叶えられて本当にうらやましい。ははは。
四半世紀ほど会ったことのない。小林。
アメリカ暮らしはそもそも夢でもなかったし、近況や周辺だけを探られ、人物像を作り上げられた私とは異なる私を描写する、少し丁寧すぎる上辺の会話に不安を覚える。
額から汗がつぅっと垂れる。今日は暑くない。
頭の中で不穏な空気と音楽が鳴りだす。
その問題のブログポスト。
私は当時絵の練習をしていた為、浅はかにも似顔絵を付けたのだ。
無駄に似ていた似顔絵のせいか、誰かから本人が特定できたのかもしれない。
小林はその記事を一体どうやって探したのだろう。気持ち悪いな。
ああ、以前本名でマイナーなWEBサイトへ記事を書いて、そこからリンクを貼ったことがある。アレだ。金を貰って書いたのはイイが誰が見るのだろう?と首を傾げるようなあのサイトによくぞ辿り着いたものだ。
大体載せていたブログにも数百の内容があったはず。
小林は堰を切ったように早口で言った。
早口と言うが、彼が送ってくれているのはSNSのメッセージなので、
あくまでのこちらの感覚の話。
⁻ええとですね、早速本題に入りますが。あなたのブログxxxxに書いてある。記事番号xxxx、これは私の事だと思います。そして私が思うに事実と少し異なっている事と、貴方は知らないだろうがインターネットは全世界何億人の人が見られる媒体だとお伝えします。ご存じでしょうか?
何と返事をするものか考えていた時間にイラついたらしく彼は続けた。
⁻あんた。書いただろう?あの事。アレ、削除してくれねえかなあ。出来れば、でいいんだけどさ。あれ、困るんだよ。こっちも。
言葉が段々荒くなってきた。
小林が続ける。
⁻さて、と。このアドレスだよ。今から送る。あ、あれ?ない!ない!ない!あれ?ない!
⁻い、いや、いえね、私訂正してほしかったんですよ。あれーどこだろうなあ。あんた消した?あんた消しただろう!?いやそれならいいんですよ。こちらも問題ないんですよ。私も今ね、新しい生活があるもんでね。
無かったことに安心したのか、小林の口調は以前のように戻って来た。
どれだけの思いで私へ連絡したのだろうか。
少なくとも私は一人の人間を傷つけたのだ。
戒めの為にここに残す。
そしてあと数年は日本に帰らないことを心に誓う。
当該の小林の話は、もう少し情報を解り難くし、何れ記録として掲載しようと思っている私はやはり懲りていないのである。
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